【第十五話】名前を呼んで
――時間は少し遡る。
〈ヒナノ・ガザミサイド〉
「ダメです、通信つながりません」
通信機を触るレデが報告する。
丘の上から、望遠鏡で偵察をしているガザミとヒナノ。
「……何とか持ちこたえているな」
望遠鏡をしまい、大剣を構えなおすヒナノ
「えぇ……」
「ですが、すでに陸と海から挟まれています。早く行きましょう」
「いや、港湾設備は当直の二人に任せていい」
「しばらくは大丈夫だろう」
望遠鏡で偵察を続けているガザミに視線を送るヒナノ。
「確かにあの二人なら無茶はしないでしょうが……」
「……落ち着け」
「俺たちは後ろから敵部隊を襲撃し、敵指揮官と通信妨害の
魔道具を壊す」
「……たしかに」
「向こうは気づいていませんからね」
「――ガザミさん、市街地戦ですからね?」
「家屋はできるだけ壊さないでくださいね?」
「……お前にだけは言われたくない」
「それに、帝国に請求書を叩きつければいいさ」
「あいつらに構ってる暇はない」
「――行くぞ!」
ガザミとヒナノの部隊は敵陸上部隊の背後を突く。
「先手はもらうぞ?」
自身の背丈を超える大矛を構えるガザミ。
大矛を振り下ろし、地面にたたきつける。
地面が割れ、噴火のような炎が敵部隊を襲い掛かる。
「……一人で終わらせないでくださいよ?」
「魔法を発動しておいて何言ってる?」
「ばれましたか♪」
敵部隊の頭上からは炎に包まれた岩石が降り注ぐ。
敵部隊が一瞬で消滅する。
「……二人ともやりすぎです」
通信機を準備してるレデから小言が入る。
「港湾設備のナガエ隊長とマダ隊長との通信が回復しました」
『おい!ガザミ!ヒナノ!こっちまで届いたぞ!殺す気か!!』
「ナガエさん!無事だと信じてましたよ!」
『とっさに防御魔法を強化したんだよ!!』
『ヒナノちゃん、軍船にもあの攻撃してよぉ』
『多すぎるのよぉ』
「マダさん!任せてください!」
海上の軍船も魔法で一蹴するヒナノ。
『流石ね!あとはこっちでやるわ♪』
「今のうちに港湾設備の態勢を整えないとな」
「俺とヒナノの部隊に補給品を搬入させる」
「レデ?補給部隊の指示お願いね」
敵部隊がいなくなり空気が緩む港湾周辺。
――不意にガザミとヒナノの背筋に悪寒が走り、武器を構えて
振り返る。
「……レデ?部隊を早く港湾設備に入れなさい」
「ナガエ、補給部隊がついたら防御魔法を限界まで強化だ」
『……わかった、気をつけろよ』
――すぐそこの路地の先が影で覆われていて全く見えていない。
不意に影が揺れる。
――嘲笑うように
ガザミはその動きに見覚えがあった。
「あれはアルルの時と同じ……」
「何が来る……」
影の先からは複数人の子供が、自身の意思に背くような足取りで
進んでいる。
子供の顔が見えたときヒナノの顔が変わる。
「……えっ!?孤児院の!?」
「お姉ちゃん……助けて……」
言葉とは逆に魔法を構える子供たち。
複数の属性の魔法が、子供とは思えない威力で襲い掛かる。
「「……ちっ」」
防御魔法を展開するガザミとヒナノ
「これが子供の威力かよ」
「ヒナノ!この子供は何者だ!?」
「……孤児院の子供です」
「ですが魔法どころか魔力も扱えていなかったはずです」
「くそっ、子供相手だと……」
「殺さないでください!」
「まだ自我を持っていました!」
「ならどうする?俺は火しか使えないぞ」
「私が止めます!!」
地面に手を置き、子供たちの半身を埋めるヒナノ。
動きは止まるが、魔法は止まらない。
子供たちの中には吐血をするものまで現れる。
「おい、何とかしないと子供たちの体力が持たないぞ」
ヒナノの脳裏にはナナセの顔が浮かぶ――
「ナナセ!聞こえる!?」
『どうしたのヒナノ?』
「助けてほしくて!!」
「子供たちが――もたないの!!」
『わかった、すぐ行くよ』
――数分後。
ヒナノの足元の影が揺らぐ。
次の瞬間――影が“割れた”。
影の裂け目の奥には“光”が見えていた。
光の中から、ナナセが歩み出る。
予想外の登場に驚くガザミ。
「そんなこともできるのか……」
「闇魔法の応用だね」
「時間と魔力は消費するけど」
「さてと……あれ?あの子たちは、孤児院の?」
「そう!魔法なんて使えないはずなのに」
「…………」
「……何か憑いてるね」
「精霊みたいだけど精霊ではない……なんだろう?」
ナナセの耳元で声が聞こえる。
『あれは無理やり使役されてる精霊……』
『怒りで歪んでる……もう、精霊じゃない』
『許せない』
『ナナセ、解放してあげて』
「――許せないね、解放してあげないとね」
分析しているナナセに縋りついてたヒナノ。
「……?」
「考えてたことが漏れてたかな?」
「……」
「何とかできるの?」
ヒナノの頭に手をのせるナナセ。
「精霊に近い存在ならなんとかできると思うよ」
「ヒナノもガザミさんも手伝ってね」
「何すればいいの?」
「僕が光魔法で隙を作るから、その間に子供の名前を呼んであげて?」
「子供たちに自分が何者かを思い出させるんだ」
「その間に僕が憑いてるものを剥がすからガザミさんはそれを焼いて」
「普通の火でいいのか?」
「問題ないよ、細かい調整は僕がするから」
「――じゃあ始めるよ!」
ナナセは光魔法を展開し、光魔法の結界で聖域を展開する。
子供たちの動きが止まる。
一番前にいた女の子に歩み寄るヒナノ。
「ラミ!」
「聞こえるでしょ!ラミ!!」
「…………お、お姉…ちゃん……ヒナノお姉ちゃん」
ラミと呼ばれた少女の背中から、黒く濁った残骸のような“何か”を取り出すナナセ。
「ガザミさん!」
「任せろ!」
ガザミが炎の魔弾を放つ。
ナナセが魔力を重ねると、魔弾が青白い炎に変わり“何か”を焼き尽くす。
――ラミはそのまま眠りにつく。
ラミの呼吸を確認して、ナナセを見てうなずくヒナノ。
「うまくいったね、どんどんやるよ?」
――その後子供たち全員を解放していくナナセ。
「……一段落かな」
「レデに指示して子供たちを救護班に預けてもらうわ」
「ナナセ?この後すぐ行くでしょ?」
「もちろん」
「ガザミさんも行くよね?」
「あぁ、アルルがそこにいるんだな」
「待ってろ、アルル」
「今度こそ離さないからな」
――一方そのころ
ナナセ抜きで進軍を進めるサツキは、領主邸に突入していた。
【第十六話へ続く】




