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【第十一話】ミリアド・オラクル商会

鍛冶ギルドを出た足で、そのまま騎士団御用達の商会へ向かう。


〈ミリアド・オラクル商会 シドー支店〉


騎士団御用達にしては控えめな佇まいだった。


だが、一歩入れば質が違う。


職員の質、商人の質、内装の質……全てが上質だった。


「表向きは、普通の商会ですが……」


「シドーでも情報の集積地として機能しているようですね」


ナナセは軽く笑う。


「機能してないことなんてありえないよ?」


「......会長もう来てるかな?」


受付に話を通し会長用の応接室に通される。


――待たされることなく現れた人物を見て、ナナセの顔が渋る。


「……会長は?」


「パパは来ないわよ?」


「私が仕事を奪ったからね」


「相変わらずだね、ミヨ」


ミヨと呼ばれた女性はナナセの正面のソファに腰掛ける。


「久しぶりね、ナナセ」


「そろそろ来ると思ってたわ」


「領主面談、今日だったんでしょ?」


給仕に紅茶を用意させて人払いをするミヨ。


「……表には出してないよ?」


紅茶を手に取りながら答えるナナセ。


「表も裏も関係ないわ」


「あなたは特に秘密が多いもの」


「……でも紅茶の好みは知っているわ?」


得意げに口角を上げるミヨ。


「もっと教えてほしいわ?」


「ナナセのことを……」


顔を近づけるミヨ。


咳払いをするオボロ。


「……距離が近い」


水を差してきたオボロに、恨めし気な視線を送るミヨ。


ミヨとオボロの視線が交差する。


「あら?久しぶりね。オボロ」


「相変わらずナナセの周りは楽しそうね?」


「……苦労が溜まるだけよ」


「なら、いつでも変わってあげるわよ?」


「……暇ならば、早く王都の本店に戻れば?」


「会長の娘なんだから」


「嫌よ。せっかくナナセのそばに来たのに」


「危険よ?この街は特に」


「大丈夫よ、ナナセが守ってくれるもの」


「ふふ……ナナセに守らせるから問題ないわ」


見えない火花が散る。


「……挨拶は済んだかい?」


カップをテーブルに戻すナナセ


「……えぇ。楽しい時間だったわ」


椅子に座り直しナナセと正対するミヨ


「それで今回の依頼は?」


「街の状況、全部」


ミヨは少しだけ目を細める。


「……相変わらず雑ね」


「その方が早いでしょ」


ナナセは笑う。


ミヨも、わずかに口元を緩めた。


「いいわ」


「ただし、高いわよ」


「――まずは、ヴェルトム帝国軍兵士」


「数は増えてる」


「理由は表に出ていない」


「でも、シャーマン将軍が動いてるから想像は簡単」


「次期元帥争いのためにシドーに目を付けたみたい」


「この街の騎士団は機能してないし、アカマも金が稼げれば

国は関係ないしね」


ナナセは頷く。


「商業ギルドは?」


「黒」


ミヨは、迷いなく言い切った。


「流通を押さえてる」


「武器も、食料も」


「戦準備ですか」


オボロが静かに言う。


「帝国軍への横流しと騎士団への兵糧攻めね」


ミヨは淡々と返した。


「うちと騎士団の取引を認めたのなら、準備が終わっていると

見ていいわ」


「……うちの流通力もなめられたものね」


笑顔だが笑っていないミヨ


「――孤児院は?」


ナナセが何気なく聞く。


ほんの一瞬。


ミヨの表情が固まった。


「……もう勘づいたの?」


ミヨは一度紅茶を口にする。


「市民からの評判はいいわ」


「――決まり文句を言わされているようにね」


「うちと仲がいい商業ギルドの幹部からは近づくなって言われてる」


ナナセは軽く笑った。


「そう」


ミヨが身を乗り出す。


「で?」


「あなたにはどう見えたの?」


試すような視線。


ナナセは答えない。


ただ、琥珀色の紅茶の水面を眺めていた。


「ミヨは言わないと飛び込むからな……」


「あれは間違いなく人じゃない」


「人の形をした何か」


「そして何かを探してる」


「……今はそれだけ」


「あとは勝手に向こうが動くだろうから待つだけだね」


「ミヨも勝手に動いたらダメだよ」


ミヨは小さく笑った。


「わかったわ。私たちも展開を待つわ」


少しの沈黙。


「で?」


ミヨが視線を戻す。


「報酬は?」


「商人相手に無報酬はナンセンスよ?」


「……まあ?特別に?ナナセとのデートでもいいわよ?」


オボロが口をはさむ。


「あなたの報酬はこれよ」


ドワーフの谷製の魔剣を差し出す。


「あら?」


「最近作られた魔剣ね?」


「若い工房だけど、ドワーフの谷製ね」


「いいの?情報量にしては釣り合いが取れてないわよ?」


再度紅茶のカップを取り、香りを楽しんでいるナナセ。


「いいよいいよ」


「曰くつきだから、その分も含めてね」


目が光るミヨ。


「……なるほどね」


「“処理”を押し付けてるのね?」


「いいわ。受け取ってあげる」


「……次は、ちゃんと時間作ってね」


わずかに、距離を詰める。


「“仕事“も”副官“も、もちろん”元恋人“も抜きでね」


オボロの視線が、わずかに鋭くなる。


ナナセは笑った。


「これが片付いたらね」


ミヨにウインクしてから応接室を後にするナナセ。


――店を出る。


少しの沈黙の後、口を開くオボロ。


「あの女は商人が似合いますね」


「英才教育の賜物だよ」


「魔法が得意なのもたちが悪い」


「……仲いいくせに」


ナナセをにらむオボロ。


「何も言ってないよ?」


「……そういうことにしておきます」


「英才教育といえば、アルルちゃんへの指導を依頼されていましたね」


「どこまで教えるのですか?」


「んん~?魔法は楽しくて自由ってことだけだよ」


「最初は遊び感覚でいいの」


「そのうち、ちゃんとした師匠に出会うだろうし」


「……そうですね」


ジト目でナナセを見るオボロ


「……そこは僕が師匠ですって言うところでしょ?」


「“ちゃんとしている”自覚ありませんよね?」


肩をすくめるナナセ。


「……どうやって魔法の楽しさを教えようかな」


(間に合うといいけどね)


――世界は既に、動き始めている。


【第十二話へ続く】


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