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遊びで山をいじったら、日本が変わり始めた。  作者: 柿の木


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第8話「橘智紀、業継の技術に踏み込む」

 御影資源開発の設立準備が進む中で。


 唯一、足並みを完全には揃えていない男がいた。


 橘智紀だった。


 彼は会議では最低限しか発言しない。


 だがその代わり、見ている。


 聞いている。


 そして何より、“計算している”。


 違和感を。



 その日、橘は九条本邸の一角にある、使われていない古い部屋へ案内されていた。


「ここでいいのか」


 案内役の使用人が一礼する。


「はい。若様はこちらに」


 扉が開く。


 中には、見慣れたはずのものがあった。


 古いパソコン。


 だが、ただの古い機械ではない。


 橘は一歩、踏み込んだ瞬間に理解した。


「……空気が違うな」


 誰に言うでもなく呟く。


 機械そのものではない。


 この部屋は、“使われている”。


 しかも、かなり密度の高い使われ方をしている。


「来た?」


 奥から声がした。


 九条業継。


 小さな体で椅子に座り、画面を見ている。


「呼ばれたからな」


 橘はそのまま部屋に入り、ドアを閉めた。


「少し話をしたい」


「いいよ」


 業継はあっさり頷いた。


 この時点で、普通の子供ではない。


(警戒がないな)


 あるいは、警戒する必要がないと思っている。


 どちらにせよ、普通ではない。


「まず確認だ」


 橘は遠回しな言い方をしなかった。


「第三区画の件、お前がやったな」


「うん」


 即答だった。


 隠さない。


 隠す気がない。


 橘はそこで一つ、確信を深める。


(能力そのものより、扱いが危うい)


 だが、それは今は置く。


「どうやった」


「それはまだ言えない」


 これも即答だった。


 だが曖昧ではない。


 “わかっていて言わない”答えだ。


「そうか」


 橘は頷く。


 無理に聞き出すつもりはない。


 むしろ、聞き出せないほうが自然だ。


「なら、別の質問をする」


「なに」


「それは“再現できる”のか」


 業継の目が少しだけ変わった。


 今の質問は、核心に近い。


「……できると思う」


「“思う”か」


「やればできる感じはある」


「感じ、ね」


 橘はその言葉を反芻する。


 理論ではない。


 経験でもない。


 “感覚”。


 それで再現可能な現象。


 それだけで、すでに異常だ。


「じゃあこれはどうだ」


 橘は一歩、パソコンに近づいた。


「その“感じ”は、機械でも再現できるか」


 業継は少し考えた。


 そして、画面を見た。


 アーク。


 その存在をどう扱うか、一瞬だけ迷う。


『判断を推奨します』


 画面に文字が浮かぶ。


「……一部なら」


 業継は答えた。


「全部じゃないけど、補助ならいける」


「補助?」


「考えるのとか、整理するのとか」


「つまり、思考支援系か」


「そんな感じ」


 橘は頷いた。


 ここまではまだ、理解の範囲内だ。


 高度だが、ありえなくはない。


 だが問題は、その“先”だ。


「見せてもらえるか」


 業継は少しだけ迷った。


 だが今回は、父からも兄からも“限定的なら見せていい”と言われている。


「いいよ」


 そう言って、画面を少しだけ切り替える。


 アークの簡易表示モード。


 外部から見ても異常に見えすぎないレベルまで制限された状態。


『認証を確認しました』


 文字が出る。


 橘の目が止まる。


「……音声じゃないのか」


「文字だけにしてる」


「なるほど」


 だが問題はそこではない。


 橘は画面を凝視する。


 応答速度。


 文の構造。


 情報の出し方。


 どれも“それっぽい”が、同時に“ズレている”。


「質問する」


 橘は画面に向かって言った。


「お前は何だ」


『補助システムです』


「誰の」


『九条業継の』


「どの範囲で」


『思考、判断、予測、警告』


 橘の呼吸がわずかに変わる。


 この返答は、用意されたものではない。


 リアルタイムで組み立てている。


 しかも――


(無駄がない)


 必要な情報だけを、最短で返している。


 それ自体は優れた設計だ。


 だが問題は、その“精度”だ。


「もう一つ」


 橘は続ける。


「お前は“どこで”動いている」


 一瞬、間があった。


 ほんのコンマ数秒。


 だが橘はそれを見逃さなかった。


『回答制限があります』


 その一文で、確信した。


(外部依存じゃない)


 この応答は、単純なクラウドでもない。


 ローカルでもない。


 どちらとも違う。


(ここにあるようで、ここにないのか。)


 そんな感覚。


「業継」


「なに」


「これ、お前一人で作ったのか」


 業継は少しだけ考えた。


 そして、正直に答えた。


「たぶん、途中までは」


「途中からは?」


「気づいたら動いてた」


 橘は、しばらく何も言わなかった。


 その言葉を、そのまま受け取る。


 嘘ではない。


 だが説明にもなっていない。


 つまり――


(理解の外だ)


 橘はゆっくり息を吐いた。


「……いい」


「いいの?」


「ああ。今はいい」


 無理に分解しようとすると、壊れるタイプだと判断した。


 技術者としての直感だった。


「ただし」


 そこで、橘は初めて業継の目を正面から見た。


「これを“普通の技術”だと思うな」


「思ってないよ」


「思ってないならいい」


 業継の答えは軽い。


 だが、その軽さが逆に本音だとわかる。


(こいつはどれだけすごい事をしているのかは分かっているが外れているか分かって無いな)


「一つ聞く」


 橘が続ける。


「これを増やす気はあるか」


 業継は少しだけ笑った。


「ある」


「だろうな」


 即答だった。


「止める気はない」


「止められてるけど」


 業継が少し不満そうに言う。


「アークがうるさいし、兄貴も父さんも止めるし」


「それでいい」


 橘ははっきり言った。


「むしろ、それがないと壊れる」


「壊れる?」


「お前がじゃない」


 橘は指で机を軽く叩く。


「周りが壊れる」


 業継は少しだけ黙った。


 第5話で感じた“重さ”が、少しだけ蘇る。


「……わかってる」


「ならいい」


 橘はそれ以上は言わなかった。


 そして、少しだけ視線を緩める。


「面白いな」


「え?」


「ここまで来ると、もう怖いより面白い」


 その言葉は、技術者としての本音だった。


「普通の延長じゃない。でも、完全に別物でもない」


 橘は画面を見る。


「境界線の上にある」


 業継はその言葉を聞いて、少しだけ嬉しくなった。


 初めて、“ちゃんと見られた”気がしたからだ。


 父でも兄でもない。


 技術で見てくる人間に。


「橘さん」


「なんだ」


「手伝う?」


 橘は少しだけ笑った。


「最初からそのつもりだ」


 即答だった。


「ただし条件がある」


「なに」


「全部は見せるな」


「え?」


「段階的に出せ」


 橘の目は真剣だった。


「一気に出すと、理解も対応も追いつかない」


 それは、アークや業高が言っていたことと同じだった。


 だが、視点が違う。


 これは“技術側からの制御”だ。


「わかった」


 業継は素直に頷いた。


『合理的判断です』


「お前もそればっかだな」


『役割です』


 橘はそのやり取りを見て、小さく息を吐く。


「……なるほどな」


「なに」


「お前、いいストッパーもらってるな」


「神様らしいよ」


 さらっと言われて、橘の思考が一瞬止まる。


「……冗談か?」


「半分くらい」


「半分か」


 橘はそれ以上突っ込まなかった。


 今はまだ、そこを追う段階じゃない。


 だが確信はした。


 この技術は、


 人間の手だけで作られたものではない。


 だからこそ――


 面白い。



 橘が部屋を出た後。


 業継は少しだけ天井を見上げた。


「なんかさ」


『はい』


「橘さん、いいな」


『同意します』


「ちゃんと止めるし、でもやらせてくれる」


『適切な距離感です』


 業継は少しだけ笑った。


「これなら、もっとやれそうだな」


『警告。その発想は危険です』


「わかってるって」


 わかっている。


 でも、やる。


 ただし今度は、少しだけ順番を守る。


 それが今の業継だった。


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体調不良のため明日はお休みします

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