第44話「国家と九条、共同戦線の確立」
それは、静かに始まった。
だが――
これまでで最も大きな転換だった。
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「再度、来ています」
一条朔也が言う。
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本邸の空気は落ち着いている。
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だが、その裏では、
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すべてが動いていた。
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「今度はどこだ」
業高が問う。
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「同じです」
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一拍。
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「ただし、今回は“単独ではありません”」
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神崎が小さく頷く。
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「国家側ですね」
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「はい」
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その一言で、意味は決まる。
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九条家だけではない。
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国家が同時に動く。
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数時間後。
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九条本邸・会議室。
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前回と同じ顔ぶれ。
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だが、違う。
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空気が違う。
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「状況は把握しています」
内閣官房の男が言う。
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「現場への侵入、確認しました」
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一拍。
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「これは看過できません」
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明確だった。
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前回の“観測”とは違う。
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今回は――
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意思表示。
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「どう動く」
業真が問う。
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男は迷わない。
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「共同で対処します」
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それは初めての言葉だった。
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協力でも、
管理でもない。
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共同。
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業高が少し笑う。
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「やっと本音が出たな」
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男もわずかに笑う。
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「状況が変わりましたので」
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正直だった。
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「条件は」
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神崎が入る。
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交渉は続いている。
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国家相手でも。
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「情報共有の範囲拡大」
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「許容範囲です」
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「指揮系統の独立維持」
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一拍。
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男が考える。
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「……限定付きで認めます」
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完全ではない。
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だが、
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譲歩。
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業継が小さく呟く。
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「これは対等に近いよね」
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『はい』
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アークが答える。
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国家は、通常ここまで譲らない。
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だが今回は違う。
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相手が海外勢力。
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そして――
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ナノマシン。
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その価値が、
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バランスを変えている。
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「役割は」
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一条が整理する。
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「九条側:現場・技術・即応」
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「国家側:制度・情報・外圧対応」
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一拍。
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「完全分担です」
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神崎が頷く。
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「理想的です」
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無駄がない。
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そして――
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強い。
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「開始は」
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「即時」
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迷いはない。
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その瞬間、
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共同戦線が成立した。
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御影資源開発・周辺。
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変化は静かだった。
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警備が増える。
動きが整理される。
流れが滑らかになる。
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表から見れば、
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何も変わっていない。
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だが――
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中身は完全に違う。
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防御ではなく、迎撃体制。
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海外側。
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「……変わったな」
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男が言う。
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「何がだ」
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「動きが速い」
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一拍。
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「統制されている」
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それはつまり――
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単独ではない。
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「国家か」
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「可能性が高い」
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沈黙。
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評価がさらに変わる。
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「面倒だな」
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だが、その目は冷静だった。
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「だからこそ、やる価値がある」
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本邸・夜。
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「組んだな」
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業高が言う。
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「はい」
一条が答える。
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「どう見る」
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「安定します」
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一拍。
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「ただし」
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「ただし?」
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「引き返せません」
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それが本質だった。
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国家と組む。
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それは、
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守られる代わりに、
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同じ戦場に立つということ。
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業継は一人で考えていた。
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「国家と組めたね」
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『はい』
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「これでさらに強くなれたよ」
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『はい』
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一拍。
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「でも」
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「責任が重くなっちゃった」
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『その通りです』
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業継は小さく笑う。
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「力は増えたが、責任も増えたし逃げ場がないよね」
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「まあでもいいや」
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『理由は』
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「やることは同じだし」
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シンプルだった。
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守る。
止める。
返す。
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それだけ。
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ただし今は――
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国家と一緒に。
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九条業継は、
その中心に立っている。
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そして、
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世界との戦いは、
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次の段階へ進む。
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完全な衝突の、
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一歩手前へ。




