第42話「海外勢力、直接交渉と最終通告」
それは、避けられない流れだった。
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「正式な接触要請です」
一条朔也が言う。
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本邸の空気が、静かに張り詰める。
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「どこからだ」
業高が問う。
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「前回と同じ連合です」
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一拍。
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「ただし今回は、“正式”です」
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神崎が小さく息を吐く。
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「来ましたね」
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「内容は」
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一条は資料を開く。
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「共同開発の再提案」
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一瞬の沈黙。
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「前と同じか?」
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「いいえ」
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一条は静かに首を振る。
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「規模が違います」
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一拍。
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「資金・技術・流通、すべてを全面提供」
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「条件は」
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「御影資源開発の権益の過半取得」
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空気が凍る。
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「……全部持っていく気だな」
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業高が低く言う。
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「はい」
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一条は否定しない。
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それは交渉ではない。
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支配の提示。
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「他は」
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「医療分野への共同参入」
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一拍。
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「ナノマシン技術の共有」
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完全に来た。
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神崎が静かに言う。
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「隠れていませんね」
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「確信しています」
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一条が答える。
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業継が小さく呟く。
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「相手は全部欲しいってことね」
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『はい』
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アークが答える。
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資源も。
企業も。
技術も。
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すべて。
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「会うのか」
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業真が問う。
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神崎は即答する。
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「会うべきです」
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「理由は」
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「最後の確認だからです」
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一拍。
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「相手の本気度を測れます」
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数日後。
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都内・高層ホテル。
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完全貸切のフロア。
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静かだが、
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空気は張り詰めている。
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対面。
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前回の男。
だが今回は、
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人数が違う。
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複数。
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そして、
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圧が違う。
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「お時間をいただき感謝します」
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男が言う。
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一条が応じる。
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「こちらこそ」
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形式は同じ。
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だが、意味は違う。
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「単刀直入に申し上げます」
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男は迷わない。
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「前回の提案に加え、条件を明確にしました」
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資料が置かれる。
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数字。
割合。
契約条項。
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すべてが具体的。
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「受け入れていただければ」
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一拍。
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「御社は世界最大級の資源企業となります」
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魅力的な言葉。
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だが――
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「その代わりに」
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「管理権限をいただきます」
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はっきり言った。
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逃げ道はない。
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「断った場合は」
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静かな声。
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だが、
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重い。
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「市場は厳しくなります」
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一拍。
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「保証はできません」
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それが“最終通告”。
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脅しではない。
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現実の提示。
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一条は少しだけ間を置く。
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そして言った。
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「確認させてください」
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「どうぞ」
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「御社は」
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一拍。
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「我々を“対等”として見ていますか?」
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静寂。
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男は、わずかに笑った。
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「現時点では」
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一拍。
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「有望なパートナー候補です」
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答えになっていない。
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だが、
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それが答え。
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業継が、その場に同席していた。
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小さな体。
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だが、
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視線は真っ直ぐだった。
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「じゃあ無理だ」
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その一言。
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全員が止まる。
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「……何ですと?」
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男が初めて反応する。
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業継はそのまま続ける。
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「対等じゃないなら」
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一拍。
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「乗る意味ないから」
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シンプルだった。
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だが、
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核心だった。
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男の目が変わる。
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「理解していないようですね」
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「してるよ」
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一歩も引かない。
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「全部取られる」
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一拍。
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「だからやらないってこと」
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沈黙。
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重い。
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だが――
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揺れない。
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一条が静かに言う。
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「結論です」
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「今回の提案は、お受けできません」
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完全な拒否。
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男はしばらく黙っていた。
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そして――
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「残念です」
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一拍。
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「では、次の段階に移行します」
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それだけだった。
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だが、
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意味は明確。
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交渉は終わり。
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本邸・夜。
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「来るな」
業高が言う。
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「はい」
一条が答える。
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「完全に対立状態に入ります」
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神崎が静かに言う。
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「国家との連携を強化すべきです」
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「そうだな」
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業真が頷く。
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「もう引けない」
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業継は一人で空を見ていた。
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「断れたね」
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『はい』
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「怖いか?」
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一拍。
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「少し」
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正直だった。
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だが――
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「でも」
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一拍。
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「これでいい」
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『理由は』
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「自分で決めたから」
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それがすべてだった。
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ナノマシン。
資源。
企業。
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全部、
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自分で作った。
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だから――
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自分で守る。
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「順番に」
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『はい』
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だがその順番は、
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もう“戦い”を含んでいる。
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九条業継は、
世界と正面から向き合った。
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そして――
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初めて、
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明確に拒絶した。
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それが、
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本当の始まりだった。




