第40話「海外勢力、強硬手段へ移行」
それは、偶然ではなかった。
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「観測されました」
一条朔也の声は、これまでで一番低かった。
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本邸の空気が変わる。
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「何がだ」
業真が問う。
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一条は一瞬だけ間を置く。
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「医療区画の動きです」
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沈黙。
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それで十分だった。
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「……どこまで」
業高が聞く。
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「確定ではありません」
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一拍。
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「ですが、“異常な回復事例”として外に出ています」
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業継が小さく呟く。
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「情報を見られたの」
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『はい』
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アークが答える。
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隠していたはずの技術。
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だが、
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結果は隠せない。
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「誰がやったの」
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「特定中です」
一条が答える。
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「ただし」
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一拍。
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「海外側が既に反応しています」
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神崎が静かに言う。
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「早いですね」
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「確信したか」
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「はい」
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推測ではない。
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確信。
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それが意味するものは一つ。
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「来るな」
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業高が言う。
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それはもう、圧力では済まない。
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数日後。
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御影資源開発・現場。
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「……おかしいな」
山吹悠斗が呟く。
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「どうした」
鷹宮豪臣が聞く。
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「機材の動きが不安定だ」
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「故障か?」
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「違う」
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一拍。
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「誰か触ってる」
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空気が変わる。
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点検。
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異常はない。
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だが――
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確かに“ズレている”。
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「ログは?」
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「一部消えてる」
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それで十分だった。
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外部干渉。
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本邸。
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「採掘現場に侵入あり」
一条が報告する。
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「確認済みか」
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「ほぼ確定です」
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神崎が言う。
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「段階が変わりましたね」
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「どういうこと?」
業継が聞く。
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一条が答える。
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「情報収集から、実地介入へ移行しています」
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一拍。
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「つまり」
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神崎が続ける。
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「“取りに来ている”ということです」
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短い言葉。
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だが、重い。
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「資源だけじゃないね」
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「はい」
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一条が頷く。
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「技術もです」
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ナノマシン。
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それがバレた。
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完全ではない。
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だが――
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価値は伝わった。
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「どうする」
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業真が問う。
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神崎は即答する。
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「迎撃段階に入ります」
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初めての言葉だった。
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防御でもない。
対抗でもない。
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迎撃。
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本邸の空気が、完全に変わる。
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「具体的には」
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「三つです」
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一拍。
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「遮断、特定、排除」
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業継が眉をひそめる。
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「排除って」
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「物理ではありません」
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神崎は淡々と答える。
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「接触経路の切断と、影響力の排除です」
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だが――
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それが意味するものは、
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決して軽くない。
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「黒瀬」
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「はい」
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「任せる」
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「了解」
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黒瀬牙の声は、これまでより低かった。
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その瞬間、
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“裏”が動き出す。
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数日後。
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海外側。
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「接触が途切れた?」
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男が眉をひそめる。
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「はい。現地の協力者と連絡が取れません」
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「切られたか」
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一拍。
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「……早いな」
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評価が変わる。
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単なる地方企業ではない。
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単なる名家でもない。
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対抗できる存在。
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「強度を上げる」
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男が言う。
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「次は?」
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一瞬の沈黙。
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「直接だ」
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本邸。
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「第二段階、来ます」
一条が言う。
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「内容は」
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「未確定ですが」
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一拍。
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「より直接的な接触になる可能性が高いです」
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業継が静かに言う。
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「……直接人を送って取りに来るね」
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『はい』
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アークが答える。
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資源。
企業。
技術。
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すべてが対象。
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「面倒だね」
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だが、その声は冷静だった。
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「どうしよう」
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『現状維持+強化を推奨』
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業継は頷く。
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「順番にできるだけ早くだね」
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『その通りです』
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だが、その順番の中に、
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新しい要素が加わった。
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戦う。
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守るだけではなく、
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奪わせないために動く。
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九条業継は、
その中心に立っている。
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まだ五歳。
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だが、
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その周囲では、
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国家と世界が、
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静かにぶつかり始めていた。
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もう、止まらない。




