第35話「海外勢力、圧力へ移行」
最初は、穏やかな接触だった。
次に、条件付きの提案。
そして今――
形が変わる。
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「動きが変わりました」
一条朔也の報告は、短かった。
だが、その意味は重い。
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「どこからだ」
業高が聞く。
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「複数です」
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一条は資料を並べる。
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「資材調達ルートの遅延」
「輸送契約の再交渉」
「金融機関の審査強化」
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一拍。
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「すべて同時に動いています」
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「……露骨だな」
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業高が呟く。
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これまでの“提案”とは違う。
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環境そのものを揺らす圧力。
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「特定できるか」
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「完全ではありません」
一条は答える。
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「ただし、時系列と関係性から見て」
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一拍。
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「海外資源連合の影響と見て間違いないかと」
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神崎が静かに頷く。
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「来ましたね」
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「早いな」
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「当然です」
神崎は淡々としている。
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「こちらが断った時点で、“別の方法”に移行します」
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業継が口を挟む。
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「これって、攻撃なのかな?」
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一瞬の沈黙。
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「はい」
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神崎は迷わず答えた。
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「ただし、合法の範囲内です」
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それが厄介だった。
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違法ではない。
だが、確実に効く。
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「どうする」
業高が問う。
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神崎は即答しない。
数秒考えてから言った。
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「三つです」
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「言え」
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「一つ、防御」
「二つ、分散」
「三つ、逆流」
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業継が首を傾げる。
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「逆流?」
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「はい」
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一拍。
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「相手の流れに乗るのではなく、こちらの流れを押し返す」
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それはつまり――
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対抗するということだった。
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本邸の空気が、わずかに変わる。
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これまで九条家は、
距離を保ち、
利用し、
受け流してきた。
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だが今は違う。
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圧力に対して、形を持って返す段階。
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「具体的には」
業真が問う。
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神崎は淡々と答える。
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「資材は国内比率を上げます」
「輸送は複線化」
「金融は分散」
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一拍。
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「依存を切ります」
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それは簡単なことではない。
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だが、やらなければ――
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握られる。
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「時間は」
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「短いです」
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即答。
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「向こうは長期戦を想定していません」
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「短期で揺らす気か」
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「はい」
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業継が小さく呟く。
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「相手は急所狙ってるね」
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『妥当な評価です』
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その通りだった。
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御影資源開発は、まだ若い。
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基盤が完全ではない。
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だからこそ、
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今が一番崩しやすい。
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数日後。
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御影資源開発・現場。
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「燃料の納期が遅れてる」
鷹宮豪臣が苛立った声を出す。
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「理由は」
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「輸送ルートの都合だとよ」
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山吹悠斗が冷静に言う。
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「代替は?」
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「確保中だ」
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現場は回っている。
だが、余裕はない。
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少しずつ。
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確実に。
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締められている。
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本邸。
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「効いてるな」
業高が言う。
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「はい」
一条が答える。
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「ただし、致命的ではありません」
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まだ耐えられる。
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だが――
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「このままだと、削られる」
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それが現実。
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業真が静かに言う。
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「やるか」
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一言。
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それだけで、方針が決まる。
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「黒瀬」
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「はい」
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「外を動かせ」
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「了解」
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黒瀬の声は低い。
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今までは“守り”だった。
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だがここからは違う。
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見えない領域での、
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対抗。
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夜。
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業継は一人で座っていた。
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「ねえアーク」
『はい』
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「これ、奪いに来てるよね」
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『はい』
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即答。
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「資源も」
「会社も」
「全部」
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『可能性が高いです』
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業継は少しだけ黙る。
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これまで自分は、
作る側だった。
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積み上げる側だった。
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だが今は違う。
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奪われる側。
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「……なるほどね」
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一拍。
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「だから守るのか」
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『はい』
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業継は小さく笑う。
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「面白くなってきたよ」
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『警告。その発想は継続的に危険です』
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「分かってるよ」
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だが、その目は真剣だった。
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守る。
維持する。
耐える。
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それもまた、必要な段階。
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御影資源開発は、
ついに“圧力”を受け始めた。
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それは戦いではない。
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だが――
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確実に、
戦いへ繋がっている。
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九条業継は、
その中心で、
静かに立っている。
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作るだけでは守れない。
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その現実を、
初めて本当の意味で理解しながら。




