第29話「国家レベルの関心が現実になる」
御影資源開発が、地方で存在感を持ち、行政と繋がり、政治と接点を持ったその先。
変化は、段階的ではあるが――
確実に“上”へ到達していた。
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「中央からです」
一条朔也の声は、いつも通り落ち着いていた。
だが、その言葉の意味は、これまでとは違う。
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「どこだ」
業高が聞く。
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「経済産業省資源エネルギー庁」
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一瞬、空気が止まる。
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「……来たな」
業高が小さく言った。
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地方の企業が、県を越え、中央の省庁に認識される。
それはつまり――
“国家の対象”になったということだ。
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「理由は」
業真が短く問う。
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一条が資料を差し出す。
「公式には、“国内資源の安定供給可能性の確認”です」
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「公式には、か」
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「はい」
一拍。
「実質は、“調査と接触”です」
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神崎が静かに言う。
「予想通りです」
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「早くないか?」
業高が聞く。
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「商社が動き、県が動いた時点で、遅かれ早かれです」
神崎は淡々と答える。
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「国家は、放置しません」
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その一言は重かった。
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「どう出る」
業真が問う。
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神崎は迷わない。
「受けるべきです」
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「理由は」
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「拒否すると、“警戒対象”に変わります」
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一拍。
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「受ければ、“管理対象”で済みます」
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業継がすぐに反応した。
「それって、どっちもダメじゃないの?」
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神崎は一瞬だけ笑った。
「そうです」
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「じゃあ、どうするの」
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「よりマシなほうを選びます」
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即答。
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業継は少し黙る。
(正解じゃなく、最適をかぁ)
それがこの世界のルールだった。
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「……なるほどね。じゃあそこはよろしく」
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業真が口を開く。
「今回は誰が出る」
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一条が答える。
「先方は、まず事務レベルの接触を希望しています」
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「なら一条でいい」
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「承知しました」
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「ただし」
一拍。
「裏は整える」
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短い言葉。
だが、それだけで十分だった。
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数日後。
東京・霞が関。
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無機質な会議室。
だが、その空気は地方とは違う。
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「本日はお越しいただきありがとうございます」
穏やかな口調。
だが、視線は鋭い。
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相手は二人。
資源エネルギー庁の担当官と、その上席。
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一条は静かに頭を下げる。
「こちらこそ、お時間をいただきありがとうございます」
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形式は同じ。
だが、中身が違う。
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ここでは、
“情報の質”が問われる。
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「御影資源開発様の活動については、以前から注目しておりました」
担当官が言う。
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「過分なお言葉です」
一条は崩さない。
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「特に、地方における安定供給と雇用創出の両立は、非常に興味深い事例です」
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(言葉は、本音だが同時に評価の確認だな)
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「ありがとうございます」
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「そこで」
上席が口を開く。
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「今後の供給規模について、お聞かせいただけますか」
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(コイツいきなり核心をついてくるな)
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一条は一瞬だけ間を置く。
そして答える。
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「現段階では、拡張は未定です」
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「理由は」
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「足場の安定を優先しているためです」
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嘘ではない。
だが、すべてでもない。
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担当官が視線を交わす。
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「なるほど」
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一拍。
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「では、仮に拡張する場合、国内供給への優先度はどのようにお考えですか」
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(さらに踏み込んできやがるな。国家としての意図が、はっきり見えるが、答えとしては限定的でいいな。それ以上はまだ先だ)
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「現時点では、国内基盤の維持を優先しております」
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上席が小さく頷く。
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「結構です」
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その一言で、
“最低ラインはクリア”したことがわかる。
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会話はその後も続いたが、
大きな圧力はなかった。
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だが、それは――
まだ様子見だからだ。
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会議終了後。
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担当官が一条に言った。
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「御社のような存在は、非常に重要です」
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一拍。
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「今後とも、情報共有をお願いできれば」
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それは要請であり、
同時に――
監視の始まりでもあった。
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帰路。
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新幹線の車内。
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一条は静かに報告をまとめていた。
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「どうだった」
業高からの通信。
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「想定通りです」
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「圧は?」
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「現時点では軽微です」
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一拍。
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「ただし、“記録されました”」
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短い言葉。
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「……そうか」
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業高も理解している。
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一度記録された存在は、
もう消えない。
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本邸。
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報告を受けた業真は、短く言った。
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「問題ない」
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「いいのか?」
業高が聞く。
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「今はな」
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一拍。
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「だが、これで終わりではない」
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当然だ。
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国家が一度見たものを、
放置するはずがない。
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業継は、その話を聞いていた。
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「国家、ね」
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小さく呟く。
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今までは、
企業。
地元。
行政。
政治。
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そして今――
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国家。
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「規模がでかくなってきてるね」
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『妥当な評価です』
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業継は少しだけ笑う。
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「全部繋がってるね」
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『はい』
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資源を作った。
会社を作った。
流れを作った。
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その結果、
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企業が来た。
行政が来た。
政治が来た。
そして――
国家が来た。
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「……ここまで来れたね」
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その言葉には、
少しだけ実感がこもっていた。
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だが同時に、
理解もあった。
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「でのまだ途中だけど」
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『その通りです』
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業継は頷く。
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順番。
段階。
積み重ね。
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それは変わらない。
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ただし――
規模だけが変わった。
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御影資源開発は、
ついに国家の視界に入った。
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それは守りにもなり、
同時に、
逃げ場を完全に消す。
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九条業継は、
その中心で、
静かに理解していく。
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自分が何を作っているのか。
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それはもう、
ただの企業ではない。
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ただの技術でもない。
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国を動かす可能性そのものだ。




