第41話
深夜の凛の部屋は、もはや“部屋”というより、
境界の手前に浮かぶ薄い膜のようだった。
空気は冷たく、重く、動かない。
窓の外の闇は、深海の底のように濃く沈み、光を拒むように揺れもしない。
ガラスの中央には、白い亀裂が走っていた。
呼吸に合わせて脈打ち、震え、広がり、また縮む。
まるで、そこに“心臓”があるかのように。
ひゅう……
すう……
凛の呼吸と完全に同期していた。
亀裂からは、すでに白い手首が覗いている。
細く、白く、骨のようで、しかし確かに“生きている”。
「……凛ちゃん、もう離れよう。
本当に、もう……」
悠の声は震えていた。
凛はゆっくりと振り返る。
その瞳の奥の白い構造は、もはや“目”の形を作りつつあった。
黒目の奥で、細い白い線が絡み合い、何かを“見ている”。
「……佐伯さん。境界が……破れます」
「破れなくていい。破れちゃだめだよ」
「……でも、呼んでるから」
凛はガラスに手を触れた。
その指先が白く染まる。
その瞬間――亀裂が、ふっと“吸った”。
空気が沈む。影が揺れる。温度が落ちる。
そして――白い手首が、ゆっくりと“肘”へ伸びた。
亀裂が広がる。ガラスが沈む。白い線が枝分かれし、腕の形が、ゆっくりとこちら側へ押し出される。
ひゅう……
すう……
凛の呼吸に合わせて、白い肘が脈打つ。
「……見えますか?」
凛の声は震えていなかった。
むしろ、落ち着いていた。
まるで、懐かしい人を迎えるような静けさ。
「凛ちゃん、離れて……!」
悠が凛の腕を掴んだ瞬間――白い肘が、わずかに“動いた”。
こちら側の空気を探るように、触れようとするように、ゆっくりと震える。
ピシ……ピシ……ピシ……
亀裂が呼吸に合わせて広がる。白い腕が、さらに覗く。
「……次は、肩まで来ます」
凛の声は、もう“こちら側の声”ではなかった。どこか遠く、深い場所から響いているような薄い音。
窓の外の闇が揺れ、白い目の線が、ほんの一瞬だけ浮かび上がる。
すぐに消える。けれど、確かにそこに“いた”。
白い肘は、境界を越えたまま、静かに震えていた。
深夜の凛の部屋は、もはや“こちら側”の空気ではなかった。
冷たく、重く、動かず、まるで水の底に沈んでいるような圧力があった。
窓の外の闇は、深海のように濃く沈み、光を拒むように揺れもしない。
ガラスの中央には、白い亀裂が走っていた。
呼吸に合わせて脈打ち、震え、広がり、また縮む。
まるで、そこに“心臓”があるかのように。
ひゅう……
すう……
凛の呼吸と完全に同期していた。
亀裂からは、すでに白い肘が覗いている。
細く、白く、骨のようで、しかし確かに“生きている”。
「……凛ちゃん、もう離れよう。本当に、もう……」
悠の声は震えていた。凛はゆっくりと振り返る。
その瞳の奥の白い構造は、もはや“目”の形を成していた。
黒目の奥で、細い白い線が絡み合い、こちら側を“見ている”。
「……佐伯さん。境界が……破れます」
「破れなくていい。破れちゃだめだよ」
「……でも、呼んでるから」
凛はガラスに手を触れた。
その指先が白く染まる。
その瞬間――亀裂が、ふっと“吸った”。
空気が沈む。影が揺れる。温度が落ちる。
そして――白い肘が、ゆっくりと“肩”へ伸びた。
亀裂が広がる。ガラスが沈む。白い線が枝分かれし、腕の上部が、ゆっくりとこちら側へ押し出される。
ひゅう……
すう……
凛の呼吸に合わせて、白い肩が脈打つ。
「……見えますか?」
凛の声は震えていなかった。
むしろ、落ち着いていた。
まるで、懐かしい人を迎えるような静けさ。
「凛ちゃん、離れて……!」
悠が凛の腕を掴んだ瞬間――白い肩が、わずかに“動いた”。
こちら側の空気を探るように、触れようとするように、ゆっくりと震える。
ピシ……ピシ……ピシ……ピシ……
亀裂が呼吸に合わせて広がる。
白い肩が、さらに覗く。
「……次は、頭が来ます」
凛の声は、もう“こちら側の声”ではなかった。
どこか遠く、深い場所から響いているような薄い音。
窓の外の闇が揺れ、白い目の線が、ほんの一瞬だけ浮かび上がる。
すぐに消える。
けれど、確かにそこに“いた”。
白い肩は、境界を越えたまま、静かに震えていた。
深夜の凛の部屋は、もはや“こちら側”の空気ではなかった。
冷たく、重く、動かず、まるで水の底に沈んでいるような圧力があった。
窓の外の闇は、深海のように濃く沈み、光を拒むように揺れもしない。
ガラスの中央には、白い亀裂が走っていた。
呼吸に合わせて脈打ち、震え、広がり、また縮む。
まるで、そこに“心臓”があるかのように。
ひゅう……
すう……
凛の呼吸と完全に同期していた。
亀裂からは、すでに白い肩が覗いている。
細く、白く、骨のようで、しかし確かに“生きている”。
「……凛ちゃん、もう離れよう。本当に、もう……」
悠の声は震えていた。
凛はゆっくりと振り返る。
その瞳の奥の白い構造は、もはや“目”の形を成していた。
黒目の奥で、細い白い線が絡み合い、こちら側を“見ている”。
「……佐伯さん。境界が……破れます」
「破れなくていい。破れちゃだめだよ」
「……でも、呼んでるから」
凛はガラスに手を触れた。
その指先が白く染まる。
その瞬間――亀裂が、ふっと“吸った”。
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