第40話
凛はガラスに手を触れた。
触れた指先が徐々に白く染まる。
その瞬間――亀裂が、ふっと“吸った”。ガラスが内側へ沈む。空気が冷たくなる。影が揺れる。
そして――白い“何か”が、亀裂の隙間から覗いた。
最初は、光の反射のようだった。
けれど、次の呼吸で――
ひゅう……
すう……
指先の形になった。
細く、白く、骨のようで、
しかし確かに“こちら側へ伸びようとしている”。
「……見えますか?」
凛の声は震えていなかった。
むしろ、落ち着いていた。
まるで、懐かしい人を迎えるような静けさ。
「凛ちゃん、離れて……!」
悠が凛の腕を掴んだ瞬間――白い指先が、わずかに“動いた”。
ほんの少し。
ほんのわずか。
けれど、確かにこちら側へ向かって。
ピシ……ピシ……
亀裂が呼吸に合わせて広がる。
白い指先が、さらに覗く。
「……次で、出ます」
凛は静かに言った。
その声は、もう“こちら側の声”ではなかった。
窓の外の闇が揺れ、白い目の線が、ほんの一瞬だけ浮かび上がる。
すぐに消える。
けれど、確かにそこに“いた”。
白い指先は、亀裂の向こうで、静かに震えていた。
深夜の凛の部屋は、静寂の底に沈んでいた。
空気は冷たく、重く、動かない。
窓の外の闇は、深海のように濃く沈み、光を拒むように揺れもしない。
ガラスの中央には、白い亀裂が走っていた。
呼吸に合わせて脈打ち、震え、広がり、また縮む。
まるで、そこに“心臓”があるかのように。
ひゅう……
すう……
凛の呼吸と完全に同期していた。
「……凛ちゃん、もう離れよう。本当に、もう……」
悠の声は震えていた。
凛はゆっくりと振り返る。
その瞳の奥の白い構造は、もはや“形”になっていた。
黒目の奥で、細い白い線が絡み合い、何かの“目”のようなものを作りかけている。
「……佐伯さん。もう、止まりません」
「止めるよ。止めなきゃ……」
「……無理です。だって――」
凛はガラスに手を触れた。
その指先が白く染まる。
「――呼んでるから」
その瞬間だった。
ピシィ……ッ
白い亀裂が大きく脈打ち、ガラスがふっと“吸った”。
空気が沈む。
影が揺れる。
温度が落ちる。
そして――白い指先が、亀裂から“こちら側へ”出た。
ゆっくりと。
静かに。
音もなく。
細く、白く、骨のようで、しかし確かに“生きている”。
悠は息を呑んだ。
凛は微笑んだ。
「……ほら。来ました」
「凛ちゃん、離れて……!」
悠が凛の腕を掴んだ瞬間――白い指先が、わずかに“動いた”。
こちら側の空気を探るように、触れようとするように、ゆっくりと震える。
ひゅう……
すう……
凛の呼吸に合わせて、指先が脈打つ。
「……次は、手首まで来ます」
凛の声は、もう“こちら側の声”ではなかった。
どこか遠く、深い場所から響いているような薄い音。
窓の外の闇が揺れ、白い目の線が、ほんの一瞬だけ浮かび上がる。
すぐに消える。
けれど、確かにそこに“いた”。
白い指先は、境界を越えたまま、静かに震えていた。
深夜の凛の部屋は、静止した水槽のようだった。
空気は冷たく、重く、動かない。
窓の外の闇は、深海の底のように濃く沈み、光を拒むように揺れもしない。
ガラスの中央には、白い亀裂が走っていた。
呼吸に合わせて脈打ち、震え、広がり、また縮む。
まるで、そこに“心臓”があるかのように。
ひゅう……
すう……
凛の呼吸と完全に同期していた。
亀裂からは、すでに白い指先が覗いている。
細く、白く、骨のようで、しかし確かに“生きている”。
「……凛ちゃん、もう離れよう。本当に、もう……」
悠の声は震えていた。
凛はゆっくりと振り返る。
その瞳の奥の白い構造は、もはや“形”になっていた。
黒目の奥で、細い白い線が絡み合い、何かの“目”のようなものを作りかけている。
「……佐伯さん。境界が……破れます」
「破れなくていい。破れちゃだめだよ」
「……でも、呼んでるから」
凛はガラスに手を触れた。
その指先が白く染まる。
その瞬間――亀裂が、ふっと“吸った”。
空気が沈む。
影が揺れる。
温度が落ちる。
そして――白い指先が、ゆっくりと“手首”へ伸びた。
亀裂が広がる。
ガラスが沈む。
白い線が枝分かれし、指先の根元が、ゆっくりとこちら側へ押し出される。
ひゅう……
すう……
凛の呼吸に合わせて、白い手首が脈打つ。
「……見えますか?」
凛の声は震えていなかった。
むしろ、落ち着いていた。
まるで、懐かしい人を迎えるような静けさ。
「凛ちゃん、離れて……!」
悠が凛の腕を掴んだ瞬間――白い手首が、わずかに“動いた”。
こちら側の空気を探るように、触れようとするように、ゆっくりと震える。
ピシ……ピシ……
亀裂が呼吸に合わせて広がる。
白い手首が、さらに覗く。
「……次は、肘まで来ます」
凛の声は、もう“こちら側の声”ではなかった。
どこか遠く、深い場所から響いているような薄い音。
窓の外の闇が揺れ、白い目の線が、ほんの一瞬だけ浮かび上がる。
すぐに消える。
けれど、確かにそこに“いた”。
白い手首は、境界を越えたまま、静かに震えていた。
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