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プロト

 新宿で消息を絶った小隊は、駅付近での通信を最後に姿を消したそうだ。一度ビルの上に飛び、新宿駅を中心に見回してみる。


「機械兵は巡回してるけど、それだけだね」

「話では巨大な影がどうたらとか言っていたが、見当たらないな」


 地上は機械兵が巡回するだけであり、ドームも無事。こうなると、片っ端から切り倒していくしかない。巨大な機械兵が造られていたのなら、取り巻きになるだろう機械兵を倒していれば、向こうから出てくる。荒っぽいがそうしようかと迷った時、ニオが声を上げた。


「ジャミングがかかってて微弱だけど、救難信号をキャッチしたよ!」

「どこからだ」

「えっと……駅から少し離れてるね。駅から歩いて大きな通りに出て、そこを五分くらい歩けば着きそうだよ。建物の名前は……ピカデリー?」


 名前を聞き、Iドロイドで調べてみる。人類軍のサーバーに繋がると、かつては映画館として栄えていたらしい。地図上でも、ニオの言う通り駅から離れている。


(戦いながら場所が移ったのか?)


 それにしては、少々離れ過ぎている。とはいえ、場所がつかめたのなら、行くまでだ。

 地上を行けば機械兵と戦うことになるので、距離も近いこともあり、ビル伝いに飛んでいく。


 地図の通り大通りを進めば、ガラス張りのような建物にピカデリーと記されていた。

 地上を確認し、機械兵の姿がないことを確認してから飛び降りる。


「ん? なんだろこれ」


 着地する際、アスファルトになにやら跡がある。

「太い……パイプか?」


「ピカデリーの中から高エネルギー反応は感じるけど……ここに巨大な影とやらがいるんなら、ケーブルでも付いてるのかな?」

「人間サイズの機械兵なら、心臓部のコアパーツだけで動けるようだが、本当に巨大なら、あり得るな」


 巨体故に電力を使い、それを補うための充電ケーブルがある。考えられなくはない事態に、二人は警戒しつつ、ピカデリー内部へと入っていく。


 階段を上り、受付カウンターのあるフロアへ上がる。そこにも引きずった跡があり、さらに上へと続いている。


 だが巨体だとしたら、ここから上には登れない。大人数の入るエレベーターは当然止まっており、残された道は狭いエスカレーターのみ。そして、跡はエスカレーターを上ったようだ。


 本当に巨体なのか。疑問を抱きつつ登っていくと、四階部分のシアターへ跡が続いている。


「救難信号は、どうやらこの中からだね」


 消息を絶ったのは三日前。その間、敵と同じ場所で生きているとは考えづらい。

 死んでいるか、逃げようとしてIドロイドを落としていったか。入ってみなければわからないので、ニオと頷き合い、シアターへと入る。


「やけに明るいな」


シアター内には、煌々と明かりがついていた。

 マスクをしていなかったので目を覆うと、スクリーンが割られており、人影が一人確認できる。


「生き残りか?」


 カイムが声をかけると、背を向けていた人影は振り返る。目が慣れてきて視認する限り、男性だ。しかし、ボディアーマーもマスクもしていない。


 その赤い瞳がカイムとニオを捉えると、機械兵の様に発光した。


「私、名前、プロト。人間、食う。人間に、なる。ここ、人間が映ってた場所。神、見てくれる。神のため、神のため」


 機械兵より聞き取りやすい声で言葉を発する。敵だろうか。カイムがブレードを構えると、プロトを名乗った男は言葉を続ける。


「おまえ、カイム。神、お前が欲しい」

「なんだと?」

「神のため、捕まえる。そしたら神、私のこと、直してくれる。だから、動くな」


 言い終わるが否や、割られたスクリーンから、丸太のように太いケーブルが十本現れた。それらの先端には、人類軍の戦闘員たちが貫かれている。


「これが影の正体……」


 先端がとがったケーブルに貫かれ、救難信号を出したままの遺体がある。


「カイム、動くな」


 そうもいかない。伸びてきたケーブルを避け、飛び上がり斬ろうとするが、


「……やけに固いな」


 ケーブルの強度が、機械兵たちとは段違いだ。斬れないと即座に判断し、シアターの中を飛びながらマギアライフルをプロト本体へ向けて放つ。

 しかし、プロトの周囲には濃厚なマギアが展開されており、弾丸が元のマギアに戻った。


(ケーブルの強度もだが、本体を包む膨大なマギア……それに俺のことを知っていて、見た目は渋谷の二人と似ている)


 カイムは、神の一党が新たな兵士を造り上げたのかもしれないと推測する。一体で二十五人の小隊を全滅させるほどならば、量産でもされたら、人類軍はさらなる苦戦を強いられるだろう。


(今の武器では無理だな)


 そう思うと、奥で隠れていたニオも、同じことを考えていたようだ。


「さっきのデータを反映させたのが完成したよ! でも、流石にここの天井を突き破るのは無理だ!」

「ならどうしたらいい」


 ケーブルを避けるカイムへ、ニオが手動で操作すると返した。


「地上まで降下させてから、ここまで遠隔操作で飛ばすから! 今は時間を稼いで!」


 損な役回りだと、カイムはため息を漏らす。プロトは十本のケーブルを自由自在に操って襲い掛かってくるというのに、カイムは室内故、外より薄いマギアで飛び回らねばならない。

 とっくにアーマーをパージしているので、今の限界は出している。必死に飛び回るが、避けきれず、背中にケーブルが叩きつけられた。


「ガッ!」


 あまりの衝撃に、床に叩き落された。立ち上がろうとしたが、別のケーブルが巻き付いて来た。


「クッ……」


 巻き付いてきたケーブルをブレードで切ろうとするが、固く、傷一つ付かない。そのままマギアの濃いプロトの前まで連れていかれると、赤い瞳が激しく点灯する。


「カイム、捕まえた。カイム、連れて行く。カイム差し出せば、神、直してくれる」


 思わずニオが叫んだ。しかし、カイムは痛みこそあれ、顔に余裕がある。


「余程、神とやらが好きなんだな」


 捕まりながらも、少しでも神の情報を得るためカイムは問いかける。


「神とやらはどこにいる。目的はなんだ」

「どこ? 目的? ……わからない、わからない」


 カイムの問いに、プロトは頭を抱えた。壊れたように「わからない、わからない」と繰り返す。


「俺の体に異常もなければ、神の声もしない……どうやら、お前には教えなかったようだな。神とやらも見る目があるようだ」

「教えて、くれない? 見る目、ない?」

「タコみたいにケーブル操るだけだから、捨てられたか」

「すて、られた。捨てられた。私は捨てられた!」


 耳をつんざくような声を上げ、プロトは暴れ出す。ケーブルはうねり、赤い瞳はとてつもない速さで点滅する。


「なら! カイム食う! カイムになる! カイムになったら、神、捨てないでくれる!」


 プロトが口を開き、カイムに噛り付こうとする。本当に食べようとするのだな、などとカイムは思いながら、ため息を吐き出す。


「これ以上は情報も集まりそうにない……それにいい加減、窮屈だ」


 ブレードを手放したカイムの右手に、プロト周囲のマギアが集まっていく。

 そのまま、マギアにより加速した拳をプロトの顔面に殴りつけた。拘束は弱まり、カイムは抜け出した。プロトはノイズを発しながらもカイムを追うが、周囲のマギアはすべて、カイムが身に纏っていた。


 それでも、ケーブルへの対抗策はなかったが、


「これぞまさに、ドンピシャって奴かな?」


 ニオが操作したブレードがシアター内に突っ込んできた。カイムはそれを手に取ると、説明書通りにブレードの先端を開いた。


「まずは試し撃ちか」


 ブレード内部に収束したマギアはマギアライフルに装填される弾丸より大きくなり、遥かに凌ぐ弾速でプロトを撃ち抜いていく。手足が千切れるほどの威力にノイズと悲鳴が入り混じり、ケーブルが荒れ狂う。

 カイムは飛びのき、もう一つの新機能、電撃とマギアを収束した刃を伸ばしていく。一振りすれば、ケーブルが一太刀で切断されていく。


(室内でこれか)


 雷の刃を振り回し、ケーブルをあらかた切断する。もはや膝をついたプロトが「神、神、神」と呟いているが、容赦なく首を斬り落とした。


「神の底が知れる、というものだな」


 ブレードの先端を元に戻すと、最後列に隠れていたニオが顔を出す。


「もう大丈夫だよね?」


 今の戦いを見ていなかったのか。やれやれとカイムは肩をすかしつつ、小さな声で言った。「……お前のおかげでな」と。


 聞こえなかったようで、「えっ? なに?」などといいながら走ってきたが、ただの独り言だと言っておく。


「しかしこれからの戦いは、こんな奴だらけになるのか?」


 だとしたら、このブレードも量産した方がいいかもしれない。圧倒的な力故に扱えるかはわからないが、プロトは小隊を全滅させたのだ。


 こんな相手が続くようならば……


 と、その時だった。切断されたプロトの頭が異音をたて、目がチカチカすると、声がした。


「そこにいるのは、カイムだな」


 男の声だ。どこかで聞いたような声が、なぜかプロトから聞こえる。


 とにかく、


「お前は誰だ」


 訊くのはそれに尽きる。向こうも承知だったようで、若い男の声で「アダム」を名乗った。


「まず先に言わせていただきたい。私は君たちの敵ではない。純粋に君たちと話がしたいだけだ。差し当たっては、君たちの携帯するIドロイドという通信機器にデータを送らせてもらった」


 二人は確認すると、なにやら統率性のない数字が並んでいる。


「君たちが疑問を多く抱えるのはよくわかる――いったん外に出てみたまえ」


 よくわからないが、カイムはプロトの頭を抱えてピカデリーを出る。すると、大通りを埋め尽くすほどの機械兵たちが膝をつき、頭を垂れていた。


 わけのわからない現状に、アダムは言う。「私たちが操作している」と。


「その数列は、いわば識別信号だ。その場にいる機械兵たちは、決して攻撃できない――私の指令を除いて。だが、これだけの軍勢を操れても攻撃しないという意思表示だと受け取ってほしい」

「……目的はなんだ」

「カイム、純粋な人間である君と話がしたい。できることなら、そこにいるパートナーを抜いて」

「なんの話だ。ここじゃダメなのか」

「こちらにも準備というものがある。それに、相談もあるのでな。とにかく、Iドロイドへ位置データを送らせてもらった。いい返事を期待する」


 それだけ言うと、プロトの頭部は光を失った。Iドロイドにも、しっかり位置データが届いている。


「どうする? これ」

「俺たちを殺すなり捕まえるのが目的なら、こんな回りくどいやり方はしないはずだ」

「ってことは、まさか本当に会いに行くの?」

「……もしかすると、俺の目的に近づくかもしれないからな」


 どうにもこのアダムという男、プロトを操っているあたり、神とのつながりがありそうに思える。そういったことをニオに話していない以上、待っていてもらうことになる。

その旨を伝えると、ニオはしばらくうなり、カイムと似たため息を吐き出した。


「ボクも気になってしょうがないけど、気長に待ってるよ」


 ならば行こう。道を歩けば、機械兵たちが離れていく。一体何が待ち受けているのかわからないが、二人は位置データの示す場所へ向かった。


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