セカンドミッション―消えた小隊と謎の影―
――二一四七年。四月九日
謎の二人についてアロルドへ伝えて、そろそろ一週間が経つ。機械兵たちに守られていた新たな敵に対し、カイムはすぐにでも作戦を言い渡されると思っていた。しかし、この一週間はなにも言われず、ただドームの中で待つばかりだ。
住居エリアで惰眠を貪るのは、戦い続けてきたカイムからすると時間を無駄にしていて好きになれない。だが、命令もなしにドームからは出られない。
なので、ニオが入り浸っている家屋にいた。体の中をスキャナーで見てもらうついでだ。
「これをああして、この前の戦闘データを追加して……」
ニオは、謎の二人と戦った時のデータをもとに、カイム専用の新しい武器を作る作業に没頭している。
なんでも、前回の戦いを見るまで、どれだけのマギアを操れるのかわからなかったそうだ。過去のデータにいくらでもあるだろうとカイムは言ったが、初日に言われた通り、戦闘データがぶつ切りだそうだ。
最後の一人として生き残り、全力を出す寸前までしか、記録媒体に残されていない。確かに戦っていたという記録はあるのだが、毎度毎度、まったく別のデータが残っているという。
そういう意味で、渋谷におけるドーム内の機械兵との戦闘、それと謎の二人へ見せた本気は、新しい武器を作る指針となったそうだ。
「よしっ! できた!」
カタカタとキーボードを叩いていたニオが顔を上げ、疲れたと背を伸ばす。カイムも青白い光を放つスキャナーから離れ、モニターの中へ目をやる。待っていましたとばかりに、ニオは新たなブレードのデータを表示した。
「勝手に作ったってバレると面倒だから、見た目は量産型とあんまり変わらなくしておいたよ。でも、それ以外は人類最強の兵器かもしれない」
ずいぶん大口を叩くニオだが、表示されているブレードの各所をクリックしていくと、目を見張るものがある。
「君がこの前ボディアーマーをパージしてからの全力に耐えうる強度と、電撃の威力を超大幅に上昇。マギアを自動的に刀身に集める機能も追加したよ。もちろん、切り替えは可能。でも一番の目玉は……」
「見当もつかないからとっとと話せ」
いつもの「なんでしょう?」をさせないために先回りすると、不貞腐れながらも刀身の先端へマウスをカーソルさせる。
クリックすると、尖っていた先端が縦に割れた。なにをしたのかわからないカイムへ、ニオは自信満々に説明した。
「君の戦闘スタイルは、ブレードに異常な量のマギアを纏わせて戦うものだよね。だけど、その分ブレードの柄はガタガタ震えるから、両手で持った方がいい。でもそれだと、マギアライフルみたいな遠距離攻撃ができない。だから、一緒にしちゃった」
モニターに映るブレードの先端から、マギアライフルに装填される弾丸より大きな弾が放たれていた。更には、割れた先端から伸びた光が収縮し、鋭く尖っている。
「君が纏うマギアと刀身に集まるマギアから自動的に弾丸を生成して、量産型のマギアライフル以上の威力で連射できるようにした。ついでに、マギアがブレードを纏うと発する電力とマギアそのものを刀身の中に集めて、広範囲を切り払う雷の刃を出せるようにしたよ」
ロマンが詰まってるでしょ? と得意げなニオだが、それは最もだ。たかが一本のブレードにこれだけの機能を搭載するなど、ロマンがなければ無理だ。
「っと、最後に仕上げだ」
ニオは部屋に転がっていたペンを拾い、紙に走らせた。
「操作は簡単だけど、一応説明書ね」
カイムは受け取り読むが、別にわざわざ書かなくてもわかりそうだ。
と、そこまで考えた時、カイムは一つ疑問に思う。これをどこで作ってどうやって受け取るのか。
訊くと、天井を指差す。
「前も言ったろう? 武器製造工場をハッキングしたってさ。そこで作ってるよ。まぁ作戦もないし、気長に待ってもらえたら、」
なんてニオが話している最中に、二人を呼ぶ放送が流れる。どうやら、気長には待てないようだ。
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司令官たちの集まる作戦会議室に行けば、アロルドが何か言う前に、一人の男が声を上げた。
「よくも俺のドームを壊したな!」
渋谷のドームの司令官のようだ。今日になって壊れたのを知ったのか。とにかくいつものように「申し訳ない」を口にする。
アロルドが落ち着いたのを見て、「さて」と切り出した。
「ドームを壊したのは問題だが、ついさっき戻ってきた偵察兵によると、百体近く機械兵を倒したそうじゃないか。流石死神の名は……」
言ってはならないことを言った。口を閉じたアロルドだが、カイムは気にするなと口にする。
「それで、次はなんだ……いや、この前報告した謎の二人について調べたいんだが」
そのための志願書も作戦も考えて、提出してある。てっきりその作戦が言い渡されると思っていたのだが、アロルドは首を振る。
「その二人については、別の部隊に任せてある」
「なに……?」
カイムの瞳が戦場にいる時のように鋭くなる。アロルドを始めとして身を引いているが、咳払いをして「わかってくれ」と説得を始めた。
「百体の機械兵に相当するお前を失うわけにはいかない。たとえお前が死神でもな」
「……だとしたら、俺に何をさせる気だ」
敬語がどうたらなど、カイムの瞳に睨まれて誰も言えなくなっている。アロルドもそのようで言葉を選び、切り出した。
「三日前、新宿駅奪還のために送り込んだ小隊二十五名からの連絡が途絶えた。お前たちには、そこの偵察、及び救出を頼みたい」
「そんなこと、そこらの雑魚でもどうにかなるだろ」
「仲間をそんな風に言うな……しかしだな、お前が思っているより事態は深刻だ」
なにが、と問えば、衛星写真が巨大な影を観測したと語る。
「新しい機械兵の可能性がある。もしもそうだとしたら、二十五名を打倒する力を持っているのかもしれない。だからこそ、お前に頼んでいるんだ。あと、なぜかは知らないが、軌道エレベーターのお偉いさんからのご指名でもある」
納得はできない。とっとと謎の二人と神について調べたかっただけに、ため息と舌打ちが重なる。
しかし、カイムはいくら強くても、一兵士だ。上官に敬語を使わなくとも、命令には従わなければならない。
渋々了解と告げ、ニオを連れて出て行った。
「ほらほら、そんな不満たっぷりな顔しないでよ」
「……上から望まない命令を言われて、不満がないと思うか」
「人それぞれって奴だね。上官の命令には絶対忠実な人もいれば、君みたいに自分のやりたいこと以外は跳ねのける人もいる」
跳ねのけてはいないと言いかけて、ニオがいい機会だと口にした。
「例の武器、急ピッチでアンドロイドたちに作らせてるから。もしも新しい敵が出た時、試し斬りに使えるだろう?」
謎の二人と神を相手にする前に、どれだけ戦えるか知っておく。そう考えると、不満は残るが、納得はできた。
「ならとっとと行くぞ」
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お台場から新宿まで徒歩で三時間半ほど。渋谷と違い高速道路が崩れているので下道を歩いていくと、嫌でも機械兵たちとの戦闘になる。雑魚なので構わないのだが、なにやらニオが戦闘のたびに、Iドロイドで写真を撮っている。
「なんのつもりだ」
襲ってきた機械兵を切り倒して問いかけると、人差し指と中指を立てた。
「理由その一、君のリアルな戦闘データを記録して、もうすぐ完成する武器に少しでもフィードバックさせるため。その二、君の体に起きた不調の原因を調べるため」
思いのほか真面目な回答に面食らうと、ニオがニヒヒと笑っていた。
「これでも後方支援だからね。これくらいの仕事はするさ」
それにしても。言うと、ニオが難しい顔をして腕を組む。
「戦闘データはともかく、君の体に異変はないんだよ。この前みたいに、突然倒れるような病気とかも見当たらなかったし」
カイムからしてみると、仮にも神を名乗る奴が絡んでいるのなら、そう簡単にはわからないことは重々承知のことだ。長い目で見てくれと伝え、新宿への道を急いだ。




