真実と呼ぶにはあまりにも小さなこと
「……いやはや、よほど私の同胞が好きと見えます」
声がした。アダムの声だ。どこからかと探れば、Iドロイドから聞こえてくる。画面を見れば、アダムが夕焼けを背に立っていた。
「女性としてか、友としてか……どちらにせよ、私たち『ポッター』にそれだけの感情を抱いてくださったこと、今は喋ることの出来ぬニオ・フィクナーに変わり、礼を申し上げます」
「今、お前の相手をしている暇はない! 俺は、ニオの最後の言葉を……!」
最後。その一言に、アダムは不敵に笑った。
「こういう場合、「残念ながら」とでも言った方が、役どころとしては正しいのでしょうが……実のところ、喜ばしいことに、ニオ・フィクナーは生きています」
「なに……?」
「スネークを名乗る同胞――ポッターの造ったニオ・フィクナーが、あなたと行動を共にする際、最後の逃げ場としてIドロイドを利用するのは容易に想像の出来ることです。ですので、あなたにプロトを倒していただいた際に送らせてもらった数式に、もう一つ別の役割を持たせました」
カイムには見当もつかないことだらけだ。だが、ニオが生きているということを、アダムに追及する。すると、アダムはパチンと指を鳴らした。すると、はりつけにされたニオの体があった。
「ご覧の通り、ニオ・フィクナーの体は私どもで造らせていただきました。意識データも、Iドロイドに移ろうとした際、私の元へ来るように仕向けられています」
数式のもう一つの役割とは、ニオをアダムの所へ行かせること。またしてもカイムは手のひらの上にいたわけだが、ニオが生きているというだけで、怒りはわかなかった。
それよりも、気になることがあるのだ。
「お前たちポッターを神が造った理由はわかった……もう一つ、まだ仮説だが、神が何を元にお前たちを造ったのかもな」
カイムは問う。神の腹の内で、なにが考えられていたのかを。
「神は、お前たちを造る時――俺の戦闘データを元に造ったのか?」
しばしアダムは黙ると、クククと笑い出した。
「ええその通り。ご明察というものですよ。神はあなたをモルモットとし、世界中のマギア環境下で戦わせた。それらのデータが集まり、私とイヴ、そしてプロトとスネークが造られました」
手玉だ。カイムは思う。何もかも、手のひらの上で戦わされ、観察され、勝手に利用された。もはや怒りもわかないカイムに、アダムは咳払いをして、「ですから」と切り出す。
「私は私を生んだあなたに並べたのかを知るために、あなたへ決闘を申し込みます! 私に勝てば、ニオ・フィクナーの体と全てのデータは返しましょう!」
心から楽しげなアダムだが、カイムは苦悶の表情を見せる。
「……待ってくれ。俺は正直に言うと、お前に感謝している。お前がいたから、ナノマシンについても知れたんだ。戦い以外の道はないのか」
「これはこれは、あなたらしからぬお言葉ですね。ですが、私はあなたを元に造られたのです。そしてあなたと出会い、観察し、成長していった。もう十分なほどに成長した――私の『真の目的』を果たすほどに。ですので最後に、あなたと戦いたいという、純粋な知的欲求を満たしたいのです!」
戦うしかないのか。アダムは、神とも人類軍とも違うのだ。カイムにとって、恩人とも呼べるのだ。
だとしても、戦わなければ――そして勝たねば、ニオは戻ってこない。
静寂の後、カイムは了承した。それを受け、アダムは両手を広げて「歓迎します!」と喜びの表情を見せる。
「決闘の場は東京都庁屋上! 私はそこで、あなたを待っています!」
それを最後に、Iドロイドからアダムは消えた。カイムは一人、ニオの亡骸を抱き、スネークの地下研究所に戻る。
別の体があるとはいえ、ニオはこの体で生きていたのだ。いつか、キチンと弔わねばならないだろう。
「……決闘か」
体のいたるところが欠損したスネークの体の横に、ニオの体を置くと呟いていた。
憎むべき復讐相手ではなく、感謝すべき相手との、命を懸けた戦い。
今回ばかりは、自らの語る言葉の少なさを憎んだ。
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(結局負けて、コンピューターに入ったはいいけど、どうしようかな)
アダムが操るアンドロイドが押し寄せてきた時、スネークは必死の抵抗をしたが敗れた。数に押され、体は壊れている。どうにか極秘データと共に意識データをコンピューターに移していたが、これでは動けない。
一応、カイムに渡すデータは壊れてはいない。問題は、このデータを渡すべき時に渡す方法と、アダムの差し向けたアンドロイドをカイムたちがどうするかだが、
(あれ、戻ってきた)
しばらく待っていると、ニオを抱き抱えたカイムが戻ってくる。どうやらニオは、ポッターとして壊れた――死んでいるようだ。
(ニオちゃん……)
自らの造ったポッターに同情しながら、なにがあったのかを調べる。やり方は簡単だ。自動的にその耳が録音しているだろうデータを取り出せばいい。
幸い、地下研究所の培養カプセルには、手足となる機械兵たちがいる。彼らを動かし、ニオの亡骸を台に寝かせる。
針のように尖る有線ケーブルをいくつか体に刺すと、録音データを吸い上げた。
(なるほど、アダムがカイムに挑むんだね……)
どのような結果になるか。スネークには容易に想像がついた。その後に何が起こるのかも。それだけに、早急に自分の体を直す必要があった。
(ごめんね、ニオちゃん。ちょっと体、借りるね)
機械兵がスネーク自身の体を横の台に乗せると、ニオの体から欠損した腕や足のパーツを切断していく。スネークの欠損した部分を完全に切断させ、つなぎ合わせていく。
どうにか動けるようになるまで、一時間といったところだろうか。カイムとアダムの戦いが終わるまでに間に合うだろうか。
(神に反逆までしたんだから、間に合わせなきゃね)
スネークの体が直されていく。全ては、人類のために。




