7.闇の中の光
次の瞬間、視界が大きく揺れた。
何が起きたのか理解するよりも先に身体が弾かれ、遅れて鋭い熱が走る。左側に妙な違和感があり、それが何なのかを認識するまでに、ほんのわずかな時間がかかった。
体が軽い。
そう感じた直後、現実が追いつく。
腕が、ない。
「……っ」
声にならない。痛みはまだ来ない。ただ理解だけが先に広がり、思考が追いつかないまま身体が揺れる。それでも倒れないように無理やり踏みとどまる。
背後に気配がある。
振り向く余裕はないが、それが何かは分かっている。考えるより先に身体が動き、サンペリウスはそのまま走り出した。
呼吸が乱れ、身体は思うように動かない。それでも止まれば終わると、本能が叫んでいる。少ない魔力を無理やり引き出し、風を起こして足元を支える。加速にはならないが、転ばないためにはそれでも必要だった。
背後から迫る気配に、振り返ることなく木剣を投げる。狙いなどない。ただ、ほんの一瞬でも時間を稼ぐためだけの行動だった。乾いた音が遠くで弾かれ、それがまったく意味を成していないことだけが伝わってくる。
それでも足は止まらない。
やがて視界が開け、その先に崖が現れる。
思わず足が止まる。逃げ場はない。ゆっくりと振り返ると、暗闇の中に立つ影が一歩ずつ近づいてくる。その姿ははっきりとは見えないが、ただそこにいるだけで圧倒的な差を感じさせた。
強い。
それだけは、はっきりと分かる。
もう戦える状態ではない。それでも、身体は勝手に動く。残った右手を上げ、何も持たないまま構えを取る。
「……まだ、終わってない」
かすれた声がこぼれる。
相手は何も言わず、ただ距離を詰めてくる。その一歩一歩が、終わりを突きつけてくるようだった。
そのとき、足元の感覚がわずかに崩れる。
嫌な予感が走る。
次の瞬間、地面が音を立てて崩れた。
踏み出した足場がそのまま消え、身体が宙へと投げ出される。
落ちる。
風が一気に吹き上がり、何も掴めないまま身体は下へと引きずられていく。上を見上げれば、崖の縁が遠ざかっていくのがはっきりと見えた。
もう届かない。
何もできないまま、すべてが終わった。
それでも、胸の奥にはまだ残っているものがあった。
悔しさ。怒り。そして、消えない何か。
「力があれば……聖剣さえあれば」
息が乱れ、言葉が途切れそうになる。
「聖剣が、俺のものになれば」
それは飾りのない、本音だった。
その瞬間、視界の奥に淡い光が差し込む。
暗闇の中で、それだけがはっきりと存在していた。
理由は分からない。それでも直感的に理解する。
あれさえあれば俺は強くなれる。
手を伸ばす。届くはずがないと分かっていても、伸ばさずにはいられなかった。落ちながら、ただひたすらにその光を掴もうとする。
光は消えない。
むしろ、近づいているようにすら感じる。
意識が遠のき始める。それでも視線だけは逸らさない。
「……掴んでやる。強くなるために…」
かすれた声が、風の中に消えていった。




