表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

7.闇の中の光

 次の瞬間、視界が大きく揺れた。


 何が起きたのか理解するよりも先に身体が弾かれ、遅れて鋭い熱が走る。左側に妙な違和感があり、それが何なのかを認識するまでに、ほんのわずかな時間がかかった。


 体が軽い。


 そう感じた直後、現実が追いつく。


 腕が、ない。


「……っ」


 声にならない。痛みはまだ来ない。ただ理解だけが先に広がり、思考が追いつかないまま身体が揺れる。それでも倒れないように無理やり踏みとどまる。


 背後に気配がある。


 振り向く余裕はないが、それが何かは分かっている。考えるより先に身体が動き、サンペリウスはそのまま走り出した。


 呼吸が乱れ、身体は思うように動かない。それでも止まれば終わると、本能が叫んでいる。少ない魔力を無理やり引き出し、風を起こして足元を支える。加速にはならないが、転ばないためにはそれでも必要だった。


 背後から迫る気配に、振り返ることなく木剣を投げる。狙いなどない。ただ、ほんの一瞬でも時間を稼ぐためだけの行動だった。乾いた音が遠くで弾かれ、それがまったく意味を成していないことだけが伝わってくる。


 それでも足は止まらない。


 やがて視界が開け、その先に崖が現れる。


 思わず足が止まる。逃げ場はない。ゆっくりと振り返ると、暗闇の中に立つ影が一歩ずつ近づいてくる。その姿ははっきりとは見えないが、ただそこにいるだけで圧倒的な差を感じさせた。


 強い。


 それだけは、はっきりと分かる。


 もう戦える状態ではない。それでも、身体は勝手に動く。残った右手を上げ、何も持たないまま構えを取る。


「……まだ、終わってない」


 かすれた声がこぼれる。


 相手は何も言わず、ただ距離を詰めてくる。その一歩一歩が、終わりを突きつけてくるようだった。


 そのとき、足元の感覚がわずかに崩れる。


 嫌な予感が走る。


 次の瞬間、地面が音を立てて崩れた。


 踏み出した足場がそのまま消え、身体が宙へと投げ出される。


 落ちる。


 風が一気に吹き上がり、何も掴めないまま身体は下へと引きずられていく。上を見上げれば、崖の縁が遠ざかっていくのがはっきりと見えた。


 もう届かない。


 何もできないまま、すべてが終わった。


 それでも、胸の奥にはまだ残っているものがあった。


 悔しさ。怒り。そして、消えない何か。


「力があれば……聖剣さえあれば」


 息が乱れ、言葉が途切れそうになる。


「聖剣が、俺のものになれば」


 それは飾りのない、本音だった。


 その瞬間、視界の奥に淡い光が差し込む。


 暗闇の中で、それだけがはっきりと存在していた。


 理由は分からない。それでも直感的に理解する。


 あれさえあれば俺は強くなれる。


 手を伸ばす。届くはずがないと分かっていても、伸ばさずにはいられなかった。落ちながら、ただひたすらにその光を掴もうとする。


 光は消えない。


 むしろ、近づいているようにすら感じる。


 意識が遠のき始める。それでも視線だけは逸らさない。


「……掴んでやる。強くなるために…」


 かすれた声が、風の中に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ