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6.絶望の先

 目を覚ましたとき、最初に感じたのは、身体にまとわりつくような重さだった。まぶたを開けるだけで時間がかかり、ようやく視界に入ってきたのは白い天井だった。


 医療室だと気づくまでに、少し時間がかかった。


「……起きたか」


 横から声がした。顔を向けると、70くらいの年老いた医師がこちらを見ていた。


「丸三日、眠っていたぞ」


 淡々としたその言葉を聞いた瞬間、記憶が一気に戻る。闘技場、シエラ・ヴェルグリッド、そして何もできなかったまま終わった試合。一撃も届かなかったという事実だけが、はっきりと残っていた。


「……そうですか」


 それ以上の言葉は出てこなかった。


「強くならないと…」


 窓から見える空を見ながら呟く。


 しばらくして医療室を後にする。身体はまだ重く、完全に回復しているわけではないが歩くことはできた。廊下は静かで、すれ違う者もほとんどいない。誰もこちらを見ないし、声もかけてこない。


 もう終わった人間として扱われている、そんな感覚だけがはっきりと伝わってくる。


 外に出ると、空はいつも通り青く、何事もなかったかのように広がっていた。その変わらなさが、逆に現実を突きつけてくる。


「……なんでだ」


 思わず声が漏れる。誰に向けたわけでもない、ただの独り言だった。胸の奥が軋み、息がうまく吸えなくなる。


 その場に崩れるように膝をつき、視界が歪む。


「……なんで」


 何もできなかった。積み重ねてきたはずのものが、何一つ届かなかった。


 気づけば涙が零れ落ちていた。止めようとしても止まらず、ただ静かに流れ続ける。声にはならない。ただ呼吸だけが乱れていく。


 どれくらい泣いていたのか。気づいたときには日が沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。


 夜の訓練場は静まり返っていた。誰もいない空間に、風の音だけがかすかに流れている。


 サンペリウスは木剣を手に取り、いつもと同じ場所に立って構えた。そして、振る。空気を切る音が乾いた響きとなって広がる。


 一振り、また一振りと繰り返すが、何かが違う。形は同じはずなのに、どこかが噛み合わない感覚が残り続ける。それでも止まらない。止めたところで何も変わらないと分かっているからだ。


「……まだ、足りない」


 小さく呟き、もう一度剣を振る。


 そのとき、背後に何かがいると感じた。


 振り向くよりも先に、全身に冷たいものが走る。今まで感じたことのない圧が、空気ごと押しつぶしてくるようだった。


 ゆっくりと振り返る。


 そこに、人影があった。


 暗がりの中に立つその存在ははっきりとは見えないが、確かにこちらを見ている。


「……誰だ」


 問いかけるが返事はない。ただ視線だけがある。


 一歩、距離を詰められる。


 それだけで息が詰まる。本能的に理解しているんだ、こいつは強いと。


 サンペリウスは無意識に木剣を握り直す。腕はまだ重く、完全に力が戻っているわけではない。それでも構えを取る。恐らく逃げようとしても逃げられないから。


「……来るなら、来い」


 かすれた声が落ちる。


 相手は動かない。ただ、じっとこちらを見ている。まるで値踏みするかのように。


 空気が張り詰める。わずかな動きさえ許されないような静寂の中で、サンペリウスは一歩踏み込もうとする。


 だが、次の瞬間

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