5.届かない剣
「始め」
その瞬間、シエラが踏み込んだ。視界が追いつく前に、剣が左肩に当たる。
鈍い衝撃が腕の奥まで響き、遅いと理解した時には、すでに次の攻撃が来ていた。横薙ぎを防ぎきれず身体が流され、足が崩れてそのまま地面に叩きつけられる。
「もう終わり?」
シエラが静かに呟く。
サンペリウスは地面に手をつく。呼吸が浅く、腕には力が入らない。それでも、ゆっくりと立ち上がり、剣を握り直して構えた。
シエラは動かず、ただ様子を見ている。
再び踏み込み、剣を振る。しかし届かない。そのまま懐に入られ、衝撃とともに視界が弾けた。
「がはっ…」
腕に、嫌な音が走る。遅れて痛みが来る。握っていた剣が指から滑り落ちた。
「……っ」
腕が上がらない。明らかに折れている。
「もうやめたら?」
シエラがそう言いながら、サンペリウスに剣を向ける。
サンペリウスは答えない。ただ、落ちた剣を見ていた。ぼやけた視界の中で、それだけがはっきりしている。
「……終わってない」
かすれた声が落ちる。
身体が言うことを聞かない。それでも、砂を掴みながら前へ進む。観客席がざわつく。
「まだやるのかよ」
そんな声が飛ぶ中、サンペリウスは剣へと近づく。しかし腕は動かない。
「俺は、まだやれる」
顔を寄せ、歯で剣をくわえる。重い。持ち上がらない。それでも、わずかに浮いた。
サンペリウスは足に力を込める。立ち上がろうとする。身体が震える。
「……まだ、やれる」
ほんのわずかに身体が浮く。しかし次の瞬間、力が抜け、崩れ落ちた。
剣が口から離れ、砂に落ちる。
その瞬間、視界が暗くなり、サンペリウスは完全に動かなくなった。
「……勝者、シエラ・ヴェルグリッド」
審判の声が響く。
シエラは剣を下ろし、倒れたままのサンペリウスを見る。終わったはずだった。それでいいはずだった。
だが、ほんの一瞬だけ、動こうとする気配が見えた。
「……何で」
小さく漏れる。
強くもない。速くもない。何も持っていないはずなのに、なぜか引っかかる。
シエラは静かに、その場を離れた。
・基本属性(四大元素)
誰でも扱える属性。
炎・水・風・土がある。
戦闘や生活の基盤となる属性で、多くの魔術師は同時に複数の属性を扱う。
・希少属性
一部の者のみが持つ特別な属性。
無・光・闇がある。
1000人に1人程度しかいない。




