3.家族
朝の訓練場には、いつもと同じ空気があった。乾いた土と、木剣を振る乾いた風切り音だけが響いている。
サンペリウス・アーサーは、一人で木剣を振ってた。形は崩れていない。だが、どこか完成には届かないまま積み重なっている。
それでも止める理由はなかった。
「サンペリウス・アーサー」
背後から冷たい声がした。振り返ると、王城直属の騎士が立っていた。無駄のない姿勢。冷たい目。
「陛下がお呼びだ」
それだけ告げる。
返事を待つ気配はない。命令ではなく、既に決定された事実の伝達だった。
王城は静かだった。足音が吸い込まれていく廊下を抜け、広間へ通される。
そこに父上はいた。
《第16代目アーサー王》
王座に座るその姿は、父上というよりこの国の重さそのものだった。視線だけで空気が変わる。
「王国武闘大会の話だ」
低い声が広間に落ちる。
「成人と同時に行われる大会。お前も出場する」
それは確認ではなく、すでに決められた命令だった。サンペリウスは何も言わない。王は続ける。
「勇者の血統として出る。ただそれだけでいい」
わずかに間を置き、静かに言葉を落とす。
「期待していない」
そこには慰めも失望もない。沈黙のまま、広間の空気が固定される。
「最善を尽くします…」
サンペリウスは一礼をして、ただその場を離れる。
王城を出ると、外の空気は少しだけ軽かった。だが、完全には戻らない重さが残っている。
「出るんだ?大会」
「そうだ…」
軽い声が背後からした。弟のアガレスだった。
口元には笑みがある。だが、その目は冷たいままサンペリウスを見ている。
「予選で終わるやつでしょ、それ」
わざと明るい調子で言う。
「一応、王家の人間だから出してもらえるんだね」
楽しそうにすら見える声だった。サンペリウスは振り向かない。弟は構わず続ける。
「みんな結構期待してるよ。どれくらい早く終わるかって」
小さく肩をすくめる。それは冗談ではなく、確信に近い言葉だった。少し間を置いて、弟は背を向ける。
「王家の評判だけは落とさないでね。落とされたら迷惑だから」
軽く手を振り、そのまま去っていく。足音が遠ざかる。残された空気は、少しだけ重くなっていた。
サンペリウスは木剣のことを思い出す。握るわけでもなく、ただ“そこにある感覚”だけが残る。
《夜》
月明かりの下で、影だけが動いている。木剣を振った瞬間、ほんの僅かな遅れのような感覚が生まれる。
だがそれはすぐに消える。
サンペリウスは動きを止めない。しばらくして、小さく呟く。
「……それでもいい」
誰にも届かない声だった。
・特性
この世界で、ごく一部の生き物だけが生まれつき持つ特殊な能力。
魔力やオーラとは別に存在する「個人固有の強化能力」であり、その人物の資質に応じて自然に発現する。
特性は後天的に獲得することはできない。
生まれた時点で持つ者は限られており、持たない者は一生持つことはない。
・例
特性は多種多様で、能力の方向性もバラバラである。
* 魔力回復速度が異常に速くなる
* 短時間の睡眠で疲労が完全回復する
* 炎魔術など特定属性の威力が大幅に上昇する
* 身体能力や反応速度が向上する
など、特定の分野を極端に強化する能力が多い。




