2.日常の中にある違和感
朝の訓練場には、いつもと同じ空気が満ちていた。
乾いた土。木剣が空気を切る乾いた音。誰にも期待されていない時間。
サンペリウス・アーサーは、一人で剣を振っている。
その動きには「型」がある。
だが、それは完成されたものではない。
誰かから教わったわけでもなく、本の知識をなぞり続けてきた結果、身体に染みついた“それらしい形”だった。
一振り、また一振り
同じ動作のはずなのに、完全に同じにはならない。ほんのわずかな揺れが、毎回どこかに残る。
それでも、剣を振ることだけは止まらなかった。訓練場の隅では、騎士たちが雑談をしている。
「あいつ、まだやってるのか」
「毎日同じことだな」
「型だけはそれっぽいけどな」
興味はない。ただの風景として流されていく。サンペリウスはその声に反応しない。
剣を握り直す。
「……もう一回」
振る。風が鳴り、砂がわずかに舞う。それ以上は何も起きない。時間は静かに進んでいく。繰り返し。反復。修正のない動作。
彼の剣は“完成形”ではない。ただ、完成を知らないまま積み重ねられた形だった。
だからこそ、同じ動きの中に必ず微細なズレが生まれる。
それに気づく者はいない。本人でさえ、気に留めていない。
夕方
影が長く伸びても、動きは変わらない。剣を振るたびに、どこかがわずかに噛み合わない。それでも続けるしかなかった。
理由はない。ただ、止める理由もなかった。
夜
訓練場には誰もいない。月明かりの下で、剣だけが動いている。
一振り
その瞬間、ほんの僅かに軌道が“噛み合わない感覚”が生まれる。それは形にも音にもならない。ただ、動きの中に残る小さな違和感。
サンペリウスは剣を止める。
静かだった。風の音だけがある。彼はしばらく剣を見つめ、それからゆっくりと構え直す。
「……続けよう」
それだけだった。




