13.不愉快なほど元気な男
宿屋までの道は火の魔法陣が刻んであるランプのお陰で日が沈みつつあるが道はとても明るかった。
すこし周りを見渡すと武器屋などの店も沢山あった。興味本位で武器屋に少し寄って剣をゆっくり眺めていると、聖剣が『我がいるのだから他のものを見る必要はないだろ』と脳内でべちゃくちゃと喋ってうるさいので店長には申し訳ないが仕方なく外に出た。
外に出るとすっかり夜になっており、周りの店も閉まり始めていた。人も一気に減って道がガラガラになっていた。
『おい宿の部屋は大丈夫なのか?』
「やばっ」
その後全力で走って宿屋に向かったが、当然部屋は空いているはずもなく宿屋で食事だけして後にした。
『お前どこで寝るんだ?』
「外で寝るしかないだろ」
そのまま門番に門を開けてもらって村の外へ出て少し離れた森にある木の上で野宿した。
『おい起き……』
「なんだよ…人が気持ちよく寝てるところなのに」
まだ体感二時間ほどしか寝てないぞ。久しぶりに寝るという行為をするせいで三時間ほど寝るのに苦労してやっと寝れたのに…
『おい起きろ!奇襲だ』
鼓膜が破れるほど、大きな声が脳に響き渡って思わず飛び起きると木の下の周りにゴブリンがたくさんいた。
「なんだよこの量」
よく見ると最低五十体はいる。急いで聖剣を包んでいたボロボロの布を解き剣を構える。そのまま様子を見ていると中にはゴブリンの魔法を使いそうなやつや剣を持ってるやつなど様々いた。
木の上から魔法を打って牽制する。
「風ノ玉」
ゴブリンの体を目掛けて打った魔法はゴブリンの体に無数の切り傷と大きな穴を開けて核を破壊した。下級魔法が充分相手に効くことを確認して足場が不安定な木の上から降りて地面に着く。
ゴブリンが不敵に笑う
「キュェェェェ」
その瞬間複数方向からの攻撃がくる。魔力の宿った剣や魔法など様々な種類の攻撃がきた。
だがサンペリウスは前の戦闘を経て戦闘前には必ず魔力で肉体を守ろうと決めていたお陰で無傷だった。
「危ねぇ」
そのまま魔力を込めた斬撃で次々にゴブリンの核を破壊していく。当然こんな攻撃じゃ決定打にはならない。
なので右手で剣を持ちながら左手で魔力の糸を出して細切れにする。そして格がが丸見えになったら聖剣で核を破壊するのを返り血が体や顔にかかっても繰り返した。
だがこんなに相手をしているので隙ができるのはゴブリンだけではない。
「いつの間に足が…」
『おい!』
ゴブリンのトラップ魔法を避けるときに油断してゴブリンの弓矢が当たる。寝不足でしかも寝起きのせいで脳がまだ起きてない。
その隙に隠れていた魔法使いのゴブリンが木の上から風魔法の風ノ刃で攻撃をする。
本来無詠唱にはその魔法を完璧に理解しないといけないのだが一部の魔獣は核に魔法が刻まれており、刻まれている魔法は詠唱が一切いらないのだ。
『避けろ!』
この時久しぶりに死の感覚をサンペリウスは感じてしまった。
避けようと思えば簡単に避けられたが、死に対する恐怖が拭えないのか、判断を見誤り魔力を物質化して剣に纏わせる。
普通魔力やオーラを纏う時は物質化は消費量が凄まじくしないのだが、物質化することで威力や攻撃範囲を広げることができる
「はぁっ!」
剣を大きく縦に振った。剣を降った所の地面は2mほど掘られ、周りの草木は余波で吹き飛び、ゴブリンのほとんどは核が破壊されて死んだが、俺の体力も魔力もほとんど尽きてしまった。
生き残ったゴブリンは再生が遅れて核も丸見えになっておりいつでも殺せる状況になっていた。
初めての大人数の戦闘で死を悟ってしまった。しかも二回目の実践のせいか、余計に動揺してしまい魔力を想像以上に消費してしまった。これは訓練が必要だなと聖剣を杖のようにして体を支えて考えていると足音がした。
「ちくしょう……冗談はほどほどにしろよ」
姿は見えないが魔眼で見ると身体中に流れている魔力量が他のゴブリンの十倍はあり、魔力精度も高いことがわかる。
ゴブリンが姿を現すと右手には古びた木で出来たでかい杖を持っており、その杖には水色の宝石が埋め込まれていた。
左手に水晶を持っており背中にはボロボロマントを羽織っており、姿はしわくちゃな緑色の肌に赤い色の瞳で口からはヨダレが出ていた。
「ゴブリンロードか……」
・ゴブリンロード
ゴブリンをまとめる存在
ゴブリンの何倍もでかく一部の者はオーラを使える。
ゴブリンは死んだ同族を遠慮なく食べる習性がある。おそらく散らばってる死体と俺を食えると思って心が踊っているのだろう。
「俺はまだ死ねない…」
手足が震えている。魔力や体力がほとんどないのもあるが、主な理由は俺があいつを怖がっていることだ。
あの時の暗殺者と対面した時とは違う恐怖を感じていた。あの気味の悪い瞳に俺を今すぐにでも食べたいと思っている口、あの時殺そうとするやつとは全く違う。
「カリバーン……お前の…力を使う」
今の俺だけじゃ勝てない。魔力が回復していて恐怖なんてものを感じていなければ勝てるだろうが、今の俺には魔力はほとんどなく、恐怖で手足が震えている。
戦闘をしたことがほとんどない俺でも無意識にわかってしまった。
「俺は…こい…つに勝てない」
あの空間で訓練をやり続けたが、結局は付け焼き刃の力だった。あらゆる武術も頭では理解しているが体が一切成長できないせいで覚えてないんだ。
『少し耐えろ』
「は?」
その瞬間、魔法が二個同時に発動された。一つは風魔法の風ノ刃そしてもう片方は炎魔法の火ノ玉どちらも下級魔法で威力はそこまでない、速くもないだが今の俺には避けるのだけでキツイ。
魔力で肉体を強化すれば体力の無い体でも簡単に避けられるがすぐに魔力が無くなって詰んでしまう。
「おいこのままだといずれ魔法が当たって死ぬぞ」
不服だがゴブリンロードが不敵な笑みを浮かべて俺で遊んでるお陰で耐えてる。だがあいつがこの遊びに飽きたら俺は死ぬ。
『もう少し耐えてろ』
聖剣はなにか策があるらしく作戦は言わずにそれまで耐えてくれとしか言ってくれなかった。
数十秒無数に飛んでくる魔法に避けて続けた。だがあのゴブリンロードの笑みを見ると、不覚にも恐怖よりもウザさが勝ち始めて殴りたくなってきた。
一か八か残りの魔力を使って……
「そこの人避けて」
誰かの声がした瞬間頭上から、オーラでの斬撃が飛んできた。俺の魔力の斬撃よりも威力もなければ攻撃範囲も広くないが俺の斬撃より何倍も鋭かった。
「ギャギャァァァ」
断末魔と共にゴブリンロードは塵すら残らず消滅した。消滅して消えたゴブリンロードの跡と斬撃の跡を見てると一人の男が現れた。
「大丈夫だった?」
その声と共に手を差し伸べてきた。170cmぐらいの身長に17歳くらいの若い声、茶髪で声に似合わないほどゴツゴツとした鎧を着た大剣を持った男がそこにいた。
「あぁ助かった」
謎の音と魔力の光があったから来てみたけどこの人の髪すごく綺麗な金色だな〜。瞳はエメラルドグリーンで肌は真っ白でまるで貴族みたいだな。スラッとしてて身長は169cmくらいかな?僕よりも年下だろうし、タメ口でも大丈夫だよね。
「僕はノーズ。狼魔傭兵団の傭兵なんだ!よろしくね」
俺が立ち上がると突然名乗ってきた。傭兵の中には話が通じないやつも多いがこいつは大丈夫そうだな。
「俺はサ……」
名乗ろうとした瞬間脳に声が響く。
『本名を名乗ろうとするなよ?バカか』
「おいなんでだよ」
『本名を名乗ったら国に追われる身になるかもだぞ』
確かにここで素直に答えたら、またあの暗殺者に命を狙われるかもしれない。寝不足で頭が全然回んなく無意識のうちに言おうとしていた。次からは気をつけないと。
「サ?サって名前なのか?」
どうしよう早く名前を言わないと……
「俺はサリバーンだ」
その瞬間食い気味に話しかけてくる。
『おい我の名前をもじるな』
仕方ないだろ。名前なんて簡単に思いつかないんだよ。
「そうかサリバーンっていうのか!いい名前だね」
「あぁありがとう…」
こいつ元気だな。それにさっきからこいつジロジロ見てくるな。助けてくれた身で言うのは失礼だがこいつといるとちょっと疲れるな
「それでなにか?」
「あぁごめんね。強そうな相手はよく観察するように言われてるんだ。」
逃げ回ってた俺が強いだと?それにさっきからこいつから早く逃げないとめんどくさい事になりそうだと俺のセンサーがいってる。
「これは助けて貰った礼の金だ。少ししかないが許してくれ金欠なんだ」
銅貨十枚を強引に渡して、そそくさと逃げようとするが、当然簡単に追いつかれた。
「おーい待ってよ!どこに行こうとしてるの?」
足を止めて行き先をつぶやく。
「城塞国家ゼルガルドですよ」
行き先を言うとやつの目が輝き始めた。嫌な予感がする。
「行き先同じだね!」
やらかした…素直に言うんじゃなかった。こいつは傭兵だしゼルガルドに用事があってもおかしくない。
その後もゼルガルドまでずっと喋りながら着いてきた。
『我の名前を勝手にもじるからだ。自業自得だぞ!馬鹿野郎』
聖剣を巻き付けていた布がなくなってしまったので仕方なく引きづりながらゼルガルドに向かう。決して聖剣に馬鹿野郎と言われてイラついた訳ではない。
そしてサンペリウスは後悔する左からは変な男の話し声、脳内からは文句を垂れる聖剣、俺はこんな旅をするつもりはなかったのにと……




