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審判の実  作者: 葉月 涼
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 吹き飛ばされて転がり、足を掴まれて軽く放り投げられた。

 そう、軽くだ。軽く十数メートルは投げ飛ばされ、更に地面を数メートル転がり背を向けた蜥蜴の前まで戻された。

 身体に刻んだ身体強化と鎧に刻んだ物理攻撃耐性強化が無ければ間違いなく死んでいた。


 剣は・・・剣は何処だ―――


 歪む視界で周囲を見渡す。幸い私の剣は直ぐ傍に転がっていた。


 幸い?


 確かにこの剣が有れば目の前の蜥蜴位は倒せるだろう。

 だが、たった一体倒した所で何になると言うのだ。


 こ奴の言いなりになって魔王の下へ向かうしか勝ち筋は無い。


 生き残りの兵が居る内に私の身柄と引き換えに彼等を見逃して貰えば―――


 よろよろと剣を杖代わりに立ち上がった次の瞬間、蜥蜴の向こう、グリム山の方向から闇が、深淵が訪れた。


 黒狼と呼ばれた狼の命令で蜥蜴が私の横を通り過ぎていく。

 全滅の二文字が頭を過る。

 それだけは回避しなければ私の評価が地に落ちてしまうと地面に突き刺した剣から手を放した。


「降参だ!私は如何なってもいい!残りの者を帰してやって欲しい!」


 そうだ、これでいいと、僅か数百人でも救いさえすれば、案内された先で待つ魔王を倒しさえすれば、時間は掛かるとしても魔物の退治も出来る筈だ。


 不老不死の身体を持つ私ならば―――


 だがそんな私の考えが甘かった事を思い知った。


「グハハハハ!何言ってんだこいつ?!」

「はぁ?馬鹿じゃねぇの?何で見逃さなきゃなんねぇんだよ!」

「散々こっちの警告無視した上に壁壊して乗り込んできてよ、更に忠告無視しといてそりゃ虫が良すぎだろ!」

「おめぇは自分の縄張り荒らされても『どうぞお帰り下さい』なんて言って帰すのか?そんな訳ねぇよなぁ!」


 魔物達からの罵声と嘲笑、そして嘲りと蔑み。


 私は―――


 私は―――


「お前等、とっとと片付けちまえ。それと、『ゴミ』は壁の向こうに捨てとけよ」


「「「「「了解」」」」」


 私は狼の台詞を聞いて地面に突き刺した剣を握り、雄叫びを上げて駆け出した。


「ぉおおぉああぁあぁぁぁ!!」


 装備の全てに魔力を流し、文字通り全力で狼に斬りかかった。

 光を放つ剣が狼の鼻先を捕らえようとした瞬間、狼の右前足が私の剣を払う。


 力でも速度でも敵わなかった。


 でも、それでも我武者羅に狼へと剣を振るい続けた。


 そんな私を嘲笑うかのように更なる絶望が私を襲った。


 狼が私の攻撃をいなしつつ上空へと視線を送ったその先には、真っ白なドラゴンがこちらへと向かって来る様が見え私はその場に膝から崩れ落ちた。


「兄貴・・・なんで・・・・・」


 狼の呟きがはっきりと聞こえ、周囲が静まり返っていて既に私しか残っていない事に気が付いた。


 時間さえ掛ければ等と言う私の考えが甘かったのだ。


 ドラゴン二体だけでも討伐は不可能だろうと言うのにこの狼や蜥蜴を倒す事すら儘ならず、更には未だ見ぬ魔物が居るのだ。


「・・・ハハ・・・ハハハハハ・・・・・」


 乾いた笑みが毀れ力なくその場に座り込み、項垂れたまま魔物達の出方を大人しく待つしかなかった。


*


*


*


 俺が黒狼の下に着いた時には全て終わっていた。

 人間の兵士達で生きている物はおらず、ウォルタードとか言う者は俺の姿を見て全てを諦めたかのようにその場に座り込んでいた。


「お前等よくやったな。詳しい報告は後で聞くから、角蜥蜴と黒狼は後片付けが終わったら山頂まで来てくれ。他のもんは監視の続きだ」


「解りました」

「「「「「了解」」」」」


 仲間達を労いの声を掛け、次の指示を出すと嬉しそうに返事をした。黒狼以外は。

 多分黒狼は俺が来た事で自分では力不足だとロビー殿に判断されたと思っているんだろう。

 後で報告に来た時にロビー殿に直接褒めて貰うように進言しとくか。


「それじゃ俺はこいつを連れて行くから後の事は頼んだぞ」


「はい」

「「「「「了解」」」」」


 なんか黒狼以外は面白い事になってんなと苦笑いをしつつ俯いたウォルタードに一応声を掛けた。


「お前をこれから俺達の主、ロビー殿の所に連れて行くが異論はあるか?」


「・・・・・」


 ウォルタードは一度俺に視線を向けたが返事は無かった。抗う気力も失せたか。


 ウォルタードを右手で掴むとウォルタードの手から金属の棒がガランと音を立てて地面に落ちたのでその棒を左手で持って翼を広げて飛び上がった。


 こいつとロビー殿の間に何が有ったのかは解らないが、あのお優しいロビー殿が『こいつだけは自分の手でこの世から消し去らないと気が済まないんだ』とまで言う程の事をしたんだろう。


 右手に掴んだウォルタードはあの時ロビー殿が漏らした魔力、あれに中てられたらそれだけで気が触れてしまうのではないかと思える程に弱々しかった。


 もしロビー殿がこいつを見て正気を失った時、俺と赤竜とマリアだけで抑えられるのだろうかと言う不安を胸にロビー殿の待つ山頂へと向かった。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

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