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土塁が積み上げられ外部からの侵入が落ち着いた頃を見計らって角蜥蜴が指示を飛ばした。
「俺が号令を掛けたらお前達は散開して左右から挟み撃ちにしろ。その時あいつ等の作った壁は壊すなよ、そしてロビー殿の作った壁に開いた穴から逃げられないように一気に壁の穴を目指せ」
「「「「「了解」」」」」
「さて、始めるか・・・俺は北部監視班班長の角蜥蜴だ!お前達は俺達の縄張りに侵入している!今直ぐ立ち去らなければ交戦の意思有りと見做して反撃させて貰う!返答は如何に!!」
角蜥蜴の問いに少しの間静寂が訪れ、その後に混成軍から侮蔑と嘲笑の声が上がった。
「ハハハハハ!あいつら戦うってよ!」
「数も数えられねぇのかよあいつ等!」
一万対九と言う圧倒的な差が混成軍に余裕と油断を齎した。
兵士と言う職業柄魔物と対峙した事の無い者も居ない事も災いした。
通常町や街道周辺で退治してきた魔物の対処なら一体の魔物に対して多くても十人も居れば十分だったからだ。
「もういいんじゃね?」
「十分だろ?」
「一応警告したしな」
「そうだな・・・では、これより交戦の意思有と見做して反撃させて貰う!反撃開始!!」
「「「「「了解!!」」」」」
角蜥蜴の号令と共に八体がそれぞれ左右に飛ぶ。
それぞれがお互いの能力差を把握しているため、足の速い者程壁の近くへ、角蜥蜴から最も遠い位置を目指し駆け抜けた。
そして全員が配置に着いた瞬間に土塁へと駆け出し、一瞬で飛び越え兵士達を薙ぎ倒しながら蹂躙して行った。
「赤熊ぁ!穴ぁ塞ぐぞ!」
「おうよ!一人も通すなよ!巨猿!」
誰に言われるでもなく体躯の大きな者が壁に開いた穴の前に立ち塞がる。
混乱を極める混成軍の中にも冷静な者が居て、駆け抜けるものよりも御しやすいだろうと退路を確保するために壁の穴の前に立ち塞がる二体へと向かった。
が、その判断も無情に打ち砕かれた。
「がははは!その程度で俺達の縄張りを奪うつもりだったのよ!」
「弱えぇ!弱えぇよ!手前ぇ等の爪と牙は俺等に刺さりゃしねぇよ!」
全力で打ち込んだ剣が、槍が分厚い皮と肉に弾かれ毛程の筋すら残らない。
その現実を受け止められずに呆けた隙に軽く振るわれた掌で真横に弾き飛ばされ息絶えた。
そしてロビーが放った魔法が壁の穴を修復し、混成軍を絶望の淵に陥れた。
退路は無く、森の中へと逃げる道は自分達で塞いでしまった。
壁の穴の前に立ち塞がっていた二体も一方的な蹂躙劇に参加した事で混成軍はその数を瞬く間に減らして行った。
「さて、あんたの相手はこの俺だ。俺達の主、ロビー殿からあんただけは生かして連れて来るように言われてんだわ、大人しくついて来るってんなら危害は加えねぇぞ?」
ドスドスと大きな足音を立てて角蜥蜴がウォルタードの前に立つ。
自分を除いた者達に降りかかった災害とも言える抗いがたい蹂躙劇に呆けていたウォルタードが我に返り、角蜥蜴を睨みつけた。
「私が魔物の言う事とを聞くとでも?」
「なんだ、お前以外と頭が悪いんだな。ロビー殿が態々生かして連れて来いなんて言うから、勘違いしちまったじゃねぇか」
「なんだと!魔物の分際で私を愚弄するな!!」
ウォルタードが怒りの叫びと共に剣を振るうが角蜥蜴には通じない。
「俺はよう、他の奴より頭がちょっといい位で足は遅せぇし力もそこそこで特に技も持ってねぇんだわ」
「だからなんだ!」
怒りに任せたウォルタードの剣が角蜥蜴を幾度も捕らえるが角蜥蜴は意に介さない。
「そんな俺が班長なんて役に付いてんだぜ?おかしいと思わねぇのか?俺はな、北じゃ二番目に硬てぇんだよ!」
「ぬあっ!」
角蜥蜴が振るった尾がウォルタードの剣を弾きウォルタードが踏鞴を踏む。
「持ってんだろうがぁ!ロビー殿が作った壁に穴を開けた技をよぉ!見せてみろや!他に俺を傷付ける方法なんざありゃしねぇぞ!」
実は北部監視班の中では彼が最も混成軍に対して腹を立てていたのだ。
それでも班長として冷静に状況を見極めて仲間が暴走しないように指示を出していたが、いざ戦い始めれば怒りを抑え切れずにロビーが、主が自分達を護るために作ってくれた壁を壊した張本人であるウォルタードに咆哮を上げて向かって行った。
ウォルタードの頭に防御の二文字が浮かんだが頭を振って打ち消し角蜥蜴の突進を回避した。
確かに角蜥蜴の言う通り陣地内を走り回る者達よりも足が遅い。だが、かわした所で攻撃が通らないのではどうしようもない。
魔導具の装備を使えば一、二体は倒せるだろう。だが、それまでだ。
角蜥蜴の言う事が正しければ自分一人は助かるが他の者は助からない。
既に半数以上が地に伏した状況で彼の取った行動は反転。魔導具のブーツに魔力を通し、速力強化の掛かった移動速度で壁に向かって混成軍の間を一直線に駆け抜けた。
ウォルタードの剣に光が宿り壁へと吸い込まれて行く。
そして次の瞬間、ウォルタードは脇腹に強い衝撃を受けて真横に吹き飛んだ。
「グハッ!」
「おいおい、何してくれちゃってんのよてめぇは」
「せっかくロビー殿が直してくれたんだぜ、これ以上余計な手を煩わせるんじゃねぇよ」
「おめぇは向こうだ、もうこっちくんじゃねぇぞっと」
「うおぉぉおぉぉぉ!」
地面に横たわるウォルタードにのしのしと歩いて近寄ってきた巨猿と赤熊が見下ろし、次の瞬間には巨猿に足を掴まれ角蜥蜴の所へと軽々と放り投げられた。
宙を舞い、地面を転がった先でウォルタードが目にしたものは金色に光る角蜥蜴の瞳だった。
「ァ・・・グ・・・・・」
「おいおい、もう少し優しく投げてやれよ。死んじまったらどうすんだ?」
「そん時ゃそん時で皆でロビー殿に謝まりゃいいだけだ」
「そうそう、そいつ死なないらしいし?ロビー殿も許してくれるだろ、がはははは!!」
混成軍が一縷の望みをウォルタードに寄せていたが、それさえも打ち砕かれ絶望が頭を過る。
だがウォルタードが立ち上がる様を見てまだ終わった訳ではないと皆が希望を胸に抱いた。
しかしそれも、その僅かな希望さえも打ち砕かれる事になる。
「アオオオォォォォン!!」
大気を揺るがす咆哮と共に漆黒の闇を纏った狼が現れたのだ。
「遅かったすね、黒狼さん」
「もう終わっちまいますよ」
「いいんだよ、俺の用事はそいつなんだからよ。角蜥蜴、お前も向こうに混ざりな、後は俺がやる」
「了解」
黒狼の登場で止まっていた蹂躙劇が再開する。
黒狼の放つ圧倒的な存在感と威圧に晒されて最早抵抗する者は誰一人としていなかった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




