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ロビー殿との首脳会談の終わった翌日。朝食後に帝都の副長や東西の農村からの報告書をお茶を飲みながら読んでいた。
「う~む・・・進展は無しか・・・・・」
副長からの報告では隠し部屋の存在を知る者は無く隠し扉の類も見つかっていない。だが私は『必ず有る』と踏んでいる。あの強欲な男がいざと言う時の逃げ道を用意していない筈がないからだ。
副長には引き続き聖王の捜索を最優先で続けるように指示を出すとして、東西の農村に送る支援物資を増やせないか陛下に進言せねばな。
震源地であるグリム山に近かった北方四村の被害は帝都周辺の農村の比ではなく、村長の屋敷から出火し敷地内の備蓄倉庫にまで延焼した所もあるのだ。全焼はしなかったものの今と同じ物量では冬は越せないだろう。
「すみませ~ん!誰か責任者は居ませんか~!」
陛下宛の進言書の内容を思案していると国境の壁の方から声が聞こえて来たので顔を向けた。
「お・・・は、はい!私が責任者のクライブになります!」
壁の上に乗る五体の魔物・・・は失礼だな。五体の方々が見えて立ち上がって返事をした。
「本日より我々がこちらの門の周辺担当になりましたのでご挨拶に参りました!」
「おお、これはご丁寧に。お名前が御座いましたらお教え頂けますでしょうか?」
「はい、先日ロビー殿より授かりました私の呼び名は緑虎と申します」
「私は黒蜥蜴になります」
「私は青鹿と言います」
「牙犀です」
「角狼っす」
見た目からとった名前は覚え易く、こう言う所でもロビー殿の優しさを感じた。
「おい!牙犀と角狼!挨拶位ちゃんとしろ!クライブ殿に失礼だろうが!」
「「すみませんでした!」」
「いえいえ、お気になさらず。寧ろ仲間同士で話す時と同じような口調で構いませんから」
緑虎殿の指摘も解らなくもないが私としては気軽に話して貰った方が早く仲良くなれると思うのだ。
「お気遣い感謝します。ですがロビー殿からも『我々とは常識が違う』と言われておりますので初めから軽口を利く訳にはいきません」
ああ、ロビー殿は些細な行き違いを懸念されているのか。
「そうですか・・・解りました。しかしロビー殿は皆様の事を第一に考えておられる素晴らしいお方ですね」
「ええ。この壁もですが、我々の食料が無くならないように獣の繁殖場も作って下さったのですよ」
獣の繁殖場か・・・出来たばかりでは増えてはいないだろうが駄目元で打診してみるか。
「おお、それはまた素晴らしい行いですね。その・・・大変申し訳ないのですが、余裕が出来たらで良いので此方に少し融通しては頂けないでしょうか?」
「ああ、それでしたら問題ありません。私達の判断で仲間達の負担にならない程度なら渡しても構わないと言われておりますから」
「えっ?!ほ、本当ですか?」
聞いてみる物だな。問題の北部四村の支援に回そう。
「勿論です。何でも地震?が有ったとかで困っているのではないかとロビー殿も心配しておりましたから」
「・・・・・ロビー殿にお伝え下さい。クライブが『このご恩は必ずお返しします』と言っていたと」
ロビー殿がたった一度会って話をしただけの我々の事まで気に掛けていて下さった事に感極まって目尻に涙が浮かんだ。
「確かに承りました。おい!直ぐに食用の獣を用意するぞ!」
「「「「おう!」」」」
緑虎殿達が壁の向こう側へと消えて陛下への報告書を書き直し終えた頃に緑虎殿達がそれぞれ魔物を咥えて戻って来られた。
「クライブ殿、お待たせしてすまない」
「いえ、此方は支援して頂く身ですから多少待つ位如何と言う事も有りませんよ」
彼等がそれぞれ咥えている魔物は我々では短時間で集められるような代物ではない事からも彼等の力量が伺えた。
「クライブ殿、これ等は何方に置けば宜しいでしょうか?」
「・・・解体する都合が有りますので・・・そちらの開けた場所に置いて頂けますか?」
支援して頂く上に運んで貰う訳にはと一瞬考えたがここは遠慮してはいかんなと水場近くの開けた場所に置いて貰う事にした。
「解りました。よし、お前等さっさと運んじまうぞ!」
「「「「おう!」」」」
緑虎殿の号令で彼等が魔物を置いて行くと、直ぐに踵を返して壁を越えて次の魔物を咥えて戻って来た。
「ちょっ!お待ち下さい!流石にそれは貰い過ぎです!其方の負担になる訳にはいきませんから!」
大型の猪や牛に蛇や熊の魔物が積み上げられた上に更に壁の向こうへ取りに戻ろうとしたので慌てて止めた。
「いや、この程度では負担にはなりませんからご安心を。我々は二、三日に一匹も食せば十分ですし、これらは養殖場の外で集めた物ですから」
「そ、そうだとしてもですね・・・・・」
「ふむ・・・人は弱っている者のために食料を運んでやらないのですか?」
「えっ・・・・・」
緑虎殿の問いに言葉を詰まらせた。人はその様な善人ばかりではないからだ。
「我々は怪我をして動けなくなった者が居ればその者のために動ける者が代わりに狩りをしてその者に食料を運ぶ。それが当たり前であり『仲間としての証』でもあるのです」
「・・・緑虎殿、有り難く受け取らせて頂きます・・・・・」
「赤竜の旦那から聞いていた通りクライブ殿は話の解かるお方でありますな」
緑虎殿の言葉に涙が溢れ出す。ほんの数回言葉を交わしただけの私を彼等は仲間と認めてくれたのだ。
私はこの日の事を一生忘れる事は無いだろう。そして陛下の次にロビー殿と赤竜殿に敬意を払い続けると誓った。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




