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「感情的になってしまい済まなかった。護衛の方は剣を収め、マルクス殿は席に着いて貰えるかな?もし、日を改める、もしくは決裂と言うのならそれも仕方ない事だと思う。だが我々は我々の領土を侵す事だけは許さない。万が一、あの壁を破壊若しくは超える場合はそれ相応の覚悟をしておく事だ」
ロビー殿がテーブルの向こう側の席に着き私から目を離さずにそう告げた。
正直この場から逃げたかった。だが国王として、全ての民の生命が掛かっている以上、逃げる事など許される筈がなかった。
ロビー殿とその後ろに控える赤竜殿とマリア殿の視線に怯えながら震える足で立ち上がり何とか席に着いた。
「良かった・・・では改めまして私の事はロビーと呼んで下さいマルクス殿。先程名乗った名は遥か昔に捨てましたので忘れて下さい」
「・・・いえ、此方こそ取り乱して申し訳ない・・・クライブ、私の荷物の中に鍵付きの箱が有るので持ってきてくれるか?」
彼の真摯な態度に私は私の知る全てを彼に打ち明ける事にした。
「は、はい」
クライブが怪訝な表情をして馬車へと走って行く。何故彼が平静で居られたのかがなんとなく解かった。先日の会議で言っていた『理知的な行動をする新たな生命体』と言うのは中身は我々人間と左程変わらないと言う意味も含まれていたのだと。
事実彼は、ロビー殿は自分を『サザンデラ王国第三王子』の『ロベルト・ノーティス』と名乗ったではないか。過去に何かが有って金属の身体を手にして最近まで眠っていたと考えれば聖王の予言ともある程度辻褄も合う。聖王からすればロビー殿の存在は自身を破滅へと誘う『魔王』でしかないのだから。
正直、告白の書と彼等を直接目にしていなければただの与太話だと私も信じる事など出来はしなかったであろうが。
「ロビー殿、少々お待ち下さい。今、貴方が知りたい事の全てを記した書が御座います。それを読んだ後に私の処遇をお決め下さい」
「へ、陛下何を・・・・・」
「良いのだ。私達王家が犯した罪を清算する時が来ただけの事だ。決定権はロビー殿にある、其方達は大人しくしておれ」
どのみち逃げる事など不可能なのだ。後ろに控える赤竜殿とマリア殿は私が逃げる事を決して許しはしないだろう。それこそその翼で地獄の果てまで追いかけて来るだろうしな。
今にしてみれば初代様が残した告白の書が発見されたのも運命だったのだと思う。この世界が新しい歴史を刻むために必要な事象だったのかもしれん。
「陛下、此方で宜しいでしょうか?」
「うむ。ロビー殿、この中にエルデン・グランバートが犯した罪の告白が記された書が御座います。先ずはこちらをお読み下さい」
ロビー殿に話し掛けながら箱の鍵を開け、中から取り出した告白の書をテーブルの上に置いてロビー殿の前に押し出した。
ロビー殿は一度だけ告白の書に目を向けたが、中を見る事無く私に問いかけて来た。
「これの内容を何時知りました?他に知っている人は居ますか?」
「年明けの夜になりますから十二日前になりますな。私以外ですとそれを発見した使用人の女性一人になりますが・・・・・」
「発見?何処かに隠されていたのですか?」
「先日の大震災のおりに私室の壁の一部が剥がれ落ちまして、その中からこの書が見つかりました」
「大震災・・・・・ふむ・・・成程、よく解りました」
ロビー殿の問いに答え終わるとロビー殿が軽く頷いて告白の書を左手で取り、そのまま横へ腕を伸ばした。
「あの、お読みにならないので?」
不思議に思った私の問いにロビー殿は答えずに、手首だけを動かして告白の書を軽く宙に浮かせて掌から炎を出して告白の書を一瞬で塵にしてしまった。
「うおっ?!なっ、なぜ・・・・・」
「もし私が父上だったとしてもこうしたでしょうから・・・あの日から私が知る限り百五十年以上経っている筈です。その間に何が有ったのかは知りませんが、相当苦悩したでしょうし、死に至るその時まで罪の意識に苛まれ続けたのでしょう・・・少なくともこんな物を残す程度には・・・・・エルデンは十分罪を償ったと、私はそう思いますよ。サザンデラ王国の時よりかなり国土も広がっているみたいですし」
「で、ですが何の咎めも無いと言う訳には・・・・・」
「だから遠い遠い昔の話ですよ。今を生きる貴方や貴方を敬愛する者達には何も関係ありません。って言うか、証拠も有りませんし?証言者も貴方を含めても二人なんでしょ?そんなの誰も信じませんし、私にグランバート王国でしたっけ?押し付けられても困るんです。私には私の、彼等の主としての役目が山のように有りますから」
私の問いに彼は遥か昔の事だと、そんな事が有ったと言う証拠も無いと言い、更にはお互いこれからの事を、主としての役目を全うしようと遠回しに言ってくれた。
彼の優しさに心が震え、私は目頭を押さえ涙が止まるまで唯々「はい」と言い続ける事しか出来なかった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




