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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第二十章 勇者を必要としない世界へ

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ルバドール帝国の情報

 放課後、アレクとともに城へ行ったら、国王の私室へと連れていかれた。部屋へ入ると、ソファに座ってくつろいでいる国王がいた。


「良く来たな、リィカ。呼び出してすまぬな」

「い、いえ、その、とんでもありません」


 国王は笑顔でリィカを迎えた。怒っている様子はない。ということは、本当にリィカが何かをやらかしたわけではないということだろうか。ここ最近ではだいぶ緊張も解けてきたのだが、『呼び出し』という単語にリィカはガチガチになっていた。


 そんなリィカの様子を国王は不思議そうに見て、アレクに問いかけた。


「リィカはどうしたんだ?」

「父上が呼び出しなんてするからです。せめて、その内容を教えてくれれば事前に教えることもできたのに、それすらない。何を言われるのかと、不安になっているんです」

「なるほど。それはすまないな」


 アレクも内容を知らないらしい。だったら本当に「気にするな」なのか分からないじゃないかと、リィカの緊張はますます高まっていく。そんなリィカに、国王は苦笑した。


「まあ、とにかく二人とも座れ」


 ソファを指さされて、素直に座ると国王は話を切り出した。


「さて、アークバルトの結婚式に、ルバドール帝国のルベルトス殿が来ることはアレクには伝えたが……」

「……? はい、リィカにも話しました」


 その前置きに、アレクは不思議そうにしつつ頷き、リィカも頷く。


「会ったことはあるんだな?」

「はい、ルバドールで会いましたが……もしかして」


 父王の確認にやはり疑問に思いつつ返したアレクは、不意に一つの可能性に気付いた。リィカが「え、なにっ?」とアタフタしている。それまで笑顔だった国王が、厳しい目を向けた。


「もしかして、なんだ?」

「……もしかして、結婚の申し込みかなんか、来ていますか?」

「やはり何かあったのかっ! 一体何をしたっ!」

「――えっ!」

「別に何もしていませんよ」


 リィカがビクッとして、アレクがため息をついた。完全に忘れていたが、まさかこのタイミングでその話が来るとは。


「あ、あの、アレクに結婚の申し込みが来てるってこと……?」

「なぜ俺なんだ。ルベルトス殿の話をしているんだから、気付け。結婚の申し込みは、リィカに対してだ」

「なんでっ!?」


 その反応に、アレクは「やはりな」と思う。まったく何も気付いていなかったのだ。

 父王の目が怖いと思いつつも、アレクは口を開いた。


「一目惚れだと」

「……え?」

「リィカの顔が、ルベルトス殿の好みど真ん中らしいぞ。態度に出してアキトの不興を買っていたから、そこまであからさまではなかったが、一度だけ露骨に言葉にも出していただろう?」

「……え?」


 リィカが目を丸くして、国王はどこか拍子抜けした様子でソファの背もたれに寄り掛かった。アレクは説明したくないと思いつつも、仕方なく口にした。


「ルベルトス殿の剣を見せてもらっているときだ。覚えてないか?」

「いや、覚えてるけど」


 剣を見せてもらったら、その刀身が魔石でできていることに驚いたのだ。サルマたちと教わった自分たち以外にも、魔石の加工をできる人がいた。

 あの時、リィカは使っている魔石のランクをCランクだと口にした。そしてその後、ルベルトスは驚いたように身を乗り出していた。


『そんなことまで分かるのか!』

『え、はい、その、何となくですが……』

『いや、素晴らしい! どうだろう、もし良かったら、オレと一緒に来て、いずれはオレの妃に……いでぇっ!!』


 そこまで会話を思い出して、リィカは「あれ?」とつぶやいた。あの時は「きさき」が何なのか、ピンとこなかったが……。


「あのとき、オレの妃にって……」

「ああ、言ってただろう?」

「い、いやでも……」


 アタフタしつつ、さらに思い返してみる。そう、あのときルベルトスの副官であるバジェットが、思い切り手の甲をつねった。それを見ていたら、アレクに言われたのだ。


「あのとき、アレク、忘れろって……」

「当たり前だろう。他の男が好きな女に勝手に求婚プロポーズしたんだぞ。意味が分かってないなら、そのまま忘れてもらうのが一番だ」

「……えーと」


 リィカは言葉に詰まった。どう反応していいか分からない。今考えると、なぜあのとき“妃”の意味が分からなかったのか、不思議だ。だが、分かっていたら絶対反応に困っていたから、分からなくて良かったのかもしれない。


「まったく。何をして帝国の第二皇子に気に入られたのかと思っとったのだが、一目惚れか」


 国王が笑いながら、話に入った。


「まぁそれなら、そんな面倒にもならんか。もっと早くに確認しておけば良かったな」

「……以前から話があったんですか?」


 アレクが眉をひそめた。あのとき、彼らは「ルバドール帝国へ正式に招待する」と話をしていた。もしかして、それがあったのだろうか。


「ああ。魔王が倒れたと思われるほぼ直後くらいに、ルバドールから手紙が届いた。アレクたちを招待したいという内容とともに、リィカも帝国へ招待するつもりであることと、仄めかし程度だが、求婚の内容も書かれていた」

「それを、なぜ俺たちに言わなかったんですか?」


 そんな手紙が来ていたことは、アレクはまったく知らなかったのだ。知っていたら、「本当に送ってきた」と毒づいていただろうが。


「一体何があって、リィカへの求婚などという話だったのか分からなかったからな。とりあえず、ルバドールにさらわれないように、どうやってリィカを早急に貴族にしようかと、その方が問題だったな」


 距離が離れているとはいえ、相手は大きな国であり、その国力はアルカトル王国より遙かに上。下手に動けず、とりあえずはリィカが勝手にルバドール帝国へ連れていかれないため、対策をすることを優先させた、と国王はそう話す。


 説明をされて、リィカは「え?」と言っているだけだが、アレクは一つ思い当たることがあった。


「もしかして、俺たちがリィカを貴族にしてほしいと言ったとき、二つ返事で受け入れてくれたのは、それがあったからですか?」

「え?」

「ああ、そうだ」


 やはり疑問を繰り返すリィカに、国王は笑って頷く。


 それは旅から戻ってきてパーティーを行った日、リィカがアレクに別れを告げた、その後のことだ。魔王を倒した報酬として希望した「リィカを貴族にしてほしい」という言葉に対して、国王はあっさりと頷いたのだ。


「貴族にするためには、万人が納得する理由が必要だ。ベネット公爵の娘であると分かっていても、あの時点でそれを公にするのはリスクが高かった。だが魔王討伐の報酬ならば、不満がある者でも納得せざるを得ない。あれは有り難かったぞ」

「……そうですか」


 あの報酬すら、父王の手の平の上で転がされていた気分になるが、確かにリィカが貴族になったことで、ルバドールも勝手にリィカに手出しできなくなった。アレクはあの時のことを思い出して、眉を寄せた。


「リヒトーフェン公爵は、四属性持ちのリィカを国に引き入れることを狙っていたようでしたし、確かに色々牽制になったようですね」


 アレクは苦笑する。リィカと別れてなんかやらない、という気持ちで希望した報酬だが、結果としてルバドール帝国の動きを抑え込めていたということだ。良かったと思いながら父王を見たら、凝視されていた。


「父上……?」

「……リヒトーフェン公爵とは、確か軍の大将だったな? そいつが、リィカを手に入れようとしていたのか?」

「ええと、はい、はっきりそう言ったわけではありませんが、リィカに帝国に招待すると話したときも、強引に承諾の返事をさせていましたから」


 顔に手を当てた父王は、大きくため息をついた。


「アレク、そういうことは早く言いなさい」

「……申し訳ありません、すっかり忘れておりました」


 だったらもっと早く話をしてほしかったと思いつつ、アレクは謝罪した。旅の途中の出来事であり、その後も色々あったのだ。きっかけでもなかったら、思い出せるものじゃない。


「そういう目論見があると、厄介になるな。リヒトーフェン公爵もルベルトス殿と一緒に来る予定だ。アレク、気をつけろよ」


「かしこまりました。ですが、今のリィカは俺の婚約者であり、ベネット公爵の妹です。下手なことをすれば、モントルビアすら敵に回します。そう警戒する必要はないと思いますが」


「その辺りの判断は、的確に行える人物か?」


「はい。そうでなければ、軍を率いて魔族たちとの戦いなどできなかったでしょう。采配は見事なものでした。将や兵士たちからの信望も厚いようでしたし、判断力は信用していいかと思います」


 ルベルトスがリィカへ好意を寄せたことで、勇者である暁斗の機嫌を損ねてしまった。それ以上怒らせないように、会議の場にお目付役としてバジェットを同席させたくらいだ。私情に流されることなく、分別は十分につくだろうと思う。


「なるほど、分かった。だが用心にこしたことはないからな」

「かしこまりました」


 そう答えたものの、それでも問題は何も起きないだろうと、アレクは思う。だがその脇で、途中から完全に話から置いていかれたリィカが、首を傾げていた。


「……つまりどういうこと?」

「ええとだなぁ」


 説明に困ったアレクに、国王が笑った。


「リィカはもう少し、自分の価値を理解するべきだな。謙遜と受け取れなくもないが、少し度が過ぎる」

「父上」


 アレクが睨む。リィカの表情が少し強張った。


「その、自分の価値というのが難しくて。魔法に関しては自信を持っていいと思ってますけど、じゃああと自分に何ができるのかなって考えると……」

「魔法に自信があるのは何よりだ。そこをないと言われたら、どうしようかと思ったぞ」


 国王は穏やかにリィカを見る。


「その自信のある魔法に、大きな価値があると思っておきなさい。魔法は軍事力にもなる。軍事力は国の力だ。自国を守る力であり、他国への力の誇示になる。我が国はそれを欲したし、他国が欲したとしても何もおかしいことはない」


 リィカの喉がゴクッと動く。


「国のために戦う軍人であれば、余計にその力を手に入れたいと思うのだろう。……だからといって、渡してやる気はまったくないがな。リィカも気をつけなさい。何か言ってきたら無視して良いし、できないなら儂の名前を出して受け流せ。良いな?」

「は、はいっ」


 リィカの気負った返答に、アレクは困ったように笑う。


「気楽にな」


 国王もそう言って、笑ったのだった。


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