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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第二十章 勇者を必要としない世界へ

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実験

 これはトーナメント大会の、およそ二週間ほど前。



 リィカはアレクやバル、ユーリといったいつもの面々と、王都アルールの街から出ていた。街を出て南へ行くと、森がある。暁斗や泰基が、リィカ達と一緒に初めての実戦を行った森だ。


 リィカたちはその森の中を通り、さらに南下する。森の中は人と遭遇する可能性があるが、森を越えるとその可能性はほとんどゼロになる。


 行ったことがないのでどんな場所なのかは分からないが、騎士団長によると「手入れのされていない草原」とのことなので、これからやる実験には十分だろう。



「なるほど、確かに荒れ放題だな」


 森を抜けた先、その光景にアレクは苦笑した。騎士団長が言った、そのままだ。

 こんな場所を通る人はいない。道もないので自然のまま。雑草が伸び放題で、しかし魔物がいるからか、あちこち荒らされている。


 王都の南にも街はあるため、そこへ繋がる道もある。しかし、街があるのはもっと東側のため、まっすぐ南下したこの場所に道はない。ちなみに南下する道をずっと進んで行くと、リィカの故郷であるクレールム村の近くまで行ける。


「それで、何をするんだ?」


 アレクはリィカとユーリを見た。この二人に「実験に付き合ってほしい」と言われて、ここまで来たのだ。


 具体的な実験内容までは聞いていないが、アレクやバルが実験台にはならない、ということだけは確約をもらっている。「別になってもいいですよ?」とユーリに言われて全力で拒否したので、大丈夫だと思いたい。


「そうですね。とりあえず……あの岩で実験してみましょうか」


 ユーリが指さした先にあるのは、人の背丈ほどもある大きな岩だ。魔物がぶつかっているのか、あちこち壊れている。もしかしたらもっと大きな岩だったのが、魔物の攻撃を受けてここまで小さくなったのかもしれない。


「では始めましょうか」

「うん」


 そう言いつつ、ユーリが懐から二つの魔石を取り出した。そのうちの一つを、岩のちょうどくぼんでいる部分に置く。そしてもう一つをアレクに差し出した。大きさから見たら、Dランクの魔石だろうか。


「これを持ってください」

「……待て、実験台にはならないはずだろう」

「ええ。それを持って立っていればいいだけです。そのくらいはいいでしょう?」

「……本当に大丈夫なんだろうな」


 かなり不安だが、それでも受け取る。なにを実験するのか、さっさと聞いておけば良かったと思う。


「さて、リィカ」

「うん」


 リィカが岩から少し距離を開けて立っていた。右手を前に出して、いきなり魔法を唱えた。


「《水蒸気爆発スチームバースト》!」


 岩に向かって、魔法が放たれる。一体何をとアレクが思ったところで、手に持っている魔石が突然光った。


「なんだっ!?」


 驚きつつ、リィカの魔法を目で追うと、岩に置かれた魔石も光っているのが見えた。そして何かに遮られたかのように、リィカの魔法が岩のすぐ手前で止まり、そしてかき消えた。


 その結果にユーリが満足そうに頷き、リィカが微妙に残念そうにした。


「……防がれちゃった」

「リィカ、なぜ残念そうなんですか。目的を達成したんですから、喜んでください」

「そうだけど悔しい……」


 リィカとユーリのやり取りは、相変わらず意味が分からない。


「これはなんだ? 一体何をしたんだ?」


 リィカの《水蒸気爆発スチームバースト》を防ぐほどの力。何かの魔道具なのだろうが、一体何をしたのか想像もできない。


「一言で言えば《結界バリア》の魔石です。それを少し弄っただけですよ。さて、魔法以外でも試してみたいので、まずはバル、岩に向かって攻撃してもらっていいですか? 可能な限りの威力を込めて。――ああ、アレクを攻撃してもいいですよ。先ほどのように防いでくれるはずですから」

「お断りだ」


 アレクが言い返した。防いでくれるのかもしれないが、そんな危ないことにわざわざ身を晒すつもりはない。


 バルは引き攣った顔で、岩の前に立った。いっそ、本当にアレクを攻撃してみようか、と思わなかったわけではない。


 だが、ユーリはさきほど「まずは」と言った。ほぼ間違いなく、この後アレクとバルの役目が入れ替わるだろう。もしアレクを攻撃したら、今度はバルが攻撃される。そんな危険な目にはあいたくない。


 バルは剣を抜こうとして、ふと考える。ユーリの言う「可能な限りの威力」とはどのくらいなのか。


「魔剣、使った方がいいか?」

「ああ、そうですね。使ってもらっていいですか?」

「分かった」


 バルは、おおよそ「実験」の内容を掴んでいた。二つの魔石と《結界バリア》。そこから考えられるのは、アークバルトとレーナニアを魔族の攻撃から守るための手段だ。遠慮のない攻撃が仕掛けられるだろうと思えば、魔剣で試した方がいいと思ったのだ。


「《土の付与(アース・エンチャント)》」


 まずはエンチャント。バルの持つ魔剣フォルテュードが、土に覆われる。そしてそこから水の魔力を流すと、土が鋭い刃の形を作る。そして、一歩前へ踏み出しつつ、剣技を発動させた。


「【獅子斬釘撃ししざんていげき】!」


 土の直接攻撃の剣技。それが岩に命中する寸前、再び二つの魔石が光を放った。そしてバルの剣をしっかり受け止める。《結界バリア》が発動したのだ。バルはそのまま押し切ってみようとするが、《結界バリア》はビクともしない。


「こんなに威力あるのか?」


 ユーリの《結界バリア》は強力だが、使用している魔石はDランク。そうそう威力を込められるとは思えない。不思議に思いつつ、壊すのは無理だと判断してバルは攻撃をやめる。

 だがユーリはそれに答えず、さらに指示した。


「では今度は、アレクが攻撃してみてください。……ああそうだ、どちらの魔石でも問題ないことを確認したいので、バルは岩に置いた魔石を持ってもらっていいですか?」


 何も言わず、バルは岩にある魔石を手に取り、アレクは持っていた魔石を岩に置く。

 アレクもなんの実験なのかを理解していた。アイテムボックスから魔剣アクートゥスを取り出して構える。


「《風の付与ウインド・エンチャント》」


 エンチャントを唱えると、剣の周りに風の渦ができる。アレクはそこからさらに集中する。このままだとアクートゥスの能力を邪魔しかねない。だから、できるだけ風の力を剣に密着させるようにイメージする。


「――っ!」


 見ていたリィカたちは息を呑んだ。アレクの唱えたエンチャントが、魔剣に吸収されて一体になった。剣に緑色の魔力が満ちる。


「アクートゥス!」


 剣のを言いつつ、横凪ぎに振るう。岩を一刀両断するかと思われた瞬間、バルの持つ魔石と岩に置かれた魔石が光った。同じ現象だ。


(なるほど、たいした威力だ)


 アレクはそう思いつつ、さらに剣に力を込めてみるが、やはりビクともしない。……いや。


 パキィンと軽い音が聞こえ、光が消滅する。同時にアレクの剣を受け止めていた力も消滅して、岩はあっさりと真っ二つになった。


「あれ?」

「ここらが限界でしょうかね」


 リィカが首を傾げ、ユーリが苦笑する。

 魔石は二つとも、見事に真っ二つに割れていた。


「三回かぁ。あんまり長持ちしないね」

「最初の一回を防いでくれればいいわけですから、十分ですよ」

「それもそっか」


 その会話を聞きつつ、アレクは壊れた魔石を見る。途中で壊れてしまったものの、それまでは完全にアレクの剣を受け止めていたのだ。正直、ユーリが普通に張った《結界バリア》であれば、壊せるくらいの威力は込めていたつもりだ。


「何をしたんだ?」

「ああ。普通、Dランクの魔石に込められる威力じゃねぇだろ」

「大変だったんだよ。――ユーリが」


 アレクとバルの疑問に、リィカが笑って答える。ユーリがリィカを睨んだ。


「いいですよね、リィカは。ただ見てるだけで」

「アイディア出したの、わたしだよ!」

「ええそうでしたね。後は全部僕にぶん投げてくれましたけど」

「だって、わたしにできることなかったし」


 その言い合いに、アレクとバルは視線を交わした。そしてお互いに、「珍しいこともあるもんだ」と思っていることを確認する。


 これまで作った魔道具の大半は、リィカが主力だった。ユーリもできることは協力していたが、リィカじゃないと作れない魔道具がほとんどだったのだ。それがまさか「できることがない」とは。


 リィカの能力が攻撃に寄りがちで、防御はユーリの方が長けていることを考えると、順当なのかもしれないが。


「どうやって作ったんだ?」


 興味本位のアレクの質問。だが、ユーリの口の端が楽しそうに上がったのが見えて、アレクはその瞬間に後悔した。


「使ったのはCランクの魔石です。まずはそれに《結界バリア》の魔法をかけてから石を二つに割ったんですが、この順番がどちらがいいのかがまず難航しました。そもそも魔法を掛けてから石を二つに割ることができるのか、あるいは二つの石に割ってから《結界バリア》をかけたとして、二つの石の力は連動してくれるのか。それらを試すところから始めたんですが、どちらも技術的に難しく、実際に試してみるまでに非常に時間がかかりました」

「……聞いて悪かった」


 説明されてもまったく分からない。それはリィカのときに分かっていたはずなのに、聞いてしまった。いい加減学習しようと思いつつ、それでも先ほどのユーリの説明で分かったことを口にした。


「二つが連動しているのか」


 攻撃されたのは岩だけなのに、アレクやバルが手に持っていた方まで反応したのだ。あり得ないと思うくらいの防御力は、その連動が作用しているのだろうか。


「ええ、そうです。王太子殿下とレーナニア様、お二方の分が必要になりますからね。連動させて相互作用で効果が強くならないだろうか、というリィカの案です」

「うまくいって良かったね」

「ええ。僕が大変でしたけどね」

「……まだそれ言うんだ」


 いい加減リィカが疲れた顔をした。きっと何度も言われているんだろうが、しつこいときのユーリはとことんしつこい。それを分かっているから、アレクが動こうとすると、その前にバルが動いて、ユーリの頭を叩いた。


「――いっ!? 何するんですか、バル!」

「いい加減にしろ、ユーリ。魔封じの枷んときは、リィカだけが大変だったんだ。それでも文句なんか言ってなかっただろ」

「……悪かったですね」


 言われたユーリは、ややバツが悪そうだ。フーと息を吐いて、リィカに向き直る。


「リィカ、すみませんでした」

「あ、ううん、いいよ。実際、大変だったと思うし。もう一つのもあるし」

「そうですね、そっちも大変でした。……ということで、アレクとバル、まだ実験にお付き合いくださいね」


 ユーリがしおらしくなったのは一瞬。すぐ元の調子に戻り、「実験」を口にする。まだやるのかと思ったアレクだが、気を取り直す。これは、アークバルトとレーナニアのための実験なのだ。


「分かった、何でも言ってくれ」

「そうですか? そうしましたら、ちょっと実験台に……」

「それは嫌だ」


 速攻でアレクは断り、ユーリは不満そうにする。バルが苦笑して、リィカが楽しそうに笑う。


 四人の実験は、まだしばらく続いたのだった。


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