試験結果
それから約一ヶ月後。騎士団や魔法師団の試験結果が届いていた。
「合格したぞ」
「落としてやろうと思ったのに、残念だ」
バルは当たり前のように言うと、アレクがそう返しつつ笑う。
「楽しそうでいいですね」
少し残念そうな様子なのは、ユーリだ。その様子に、リィカは首を傾げた。
「そういえば、教会ってそういう試験みたいなのってないの?」
ユーリは、教会での仕事をしていくらしい。光魔法を使える大半の人がそうなるから、別に珍しいことでもない。だが、昔から教会で働いていると言っているし、その辺りの仕組みがよく分かっていなかった。
「試験はないですよ。治療のときには、その人の実力に応じた傷病者が宛がわれるので、たいした実力がない人は、軽傷の人の治療に回されますから」
大体は、祝福を受けて光魔法を得たばかりの人が行う仕事らしい。とはいっても、そこからまったく魔法の威力が上がっていかない人もいるらしいが。
「重傷の人を治療するほどに、もらえる報酬も多くなります。だから、軽傷の人の対応しかやらせてもらえない人の中には、怒り出す人もいるんですけどね。なぜか真面目に練習しない人ほど、怒るんですよね」
なるほど、とリィカは思う。試験がないのは、軽傷の人を治療する人だって必要だからなんだろう。だからといって努力しないと、もらえる報酬は少ないまま。教会内も結構な実力主義だ。
「そういえば、セシリー嬢やミラベル嬢の結果は聞いたんですか?」
「うん。二人とも合格したって」
結果は昨日の夕方に届けられた。自宅から通っている者は自宅へ、入寮している者には寮へ、それぞれ届く。セシリーとミラベルの結果も寮へ届いており、その結果をリィカは夕食時に聞いたのだった。
※ ※ ※
「合格!」
食堂でリィカとミラベルの顔を見ると、セシリーは一言そう言って、親指をピッと立てた。
「良かったね、セシリー!」
「おめでとう、セシリー」
リィカが拍手すると、ミラベルもそれに習って拍手した。それにセシリーは照れくさそうに笑うと、ミラベルを見た。
「んで、ベルは?」
「ええ、受かってたわ」
「おおっ! やったねっ!」
セシリーも拍手する。リィカは魔法師団の結果は知っているので、ミラベルの合格も当然知っていた。それでも、こうやって本人の口から聞くと嬉しい。
ここまで立ち話をしていたので、食事を取って席へ着く。相変わらず、ガラガラの食堂だが、三人が座る席はいつも同じだ。
「でもさーホントに良かった。ベルが受かんなかったら、卒業した後が心配だったし」
「そうね。私も結果が届くまでは不安だったわ」
セシリーが話を切り出すと、ミラベルもしみじみと同意していた。リィカは首を傾げる。
「ベル様、無詠唱で魔法を使ってたし、不合格になんてならないよ」
「そうはいってもね、騒ぎを起こしてしまったし」
「あれはベル様のせいじゃないよ」
ヴィンスが乗り込んできて、勝手にミラベルを連れていこうとした結果である。確かに、あれで試験が中断してしまったが、ミラベルが悪いわけではない。
そう言い募るリィカに、ミラベルは嬉しそうにして、ふと何かに気付いたように言った。
「そうそう。リィカさん、私に『様』をつけなくていいわよ。一応、身分は平民なのだから」
「えー……。なんかもう言い慣れちゃって」
「いいから直しなさい」
「……はい」
平民だと言いつつも、容赦のない言い様である。
「ベル様、じゃなくて、ベル。ベル、ベル……。うーん、愛称じゃなくてミラベル様って呼ぶならあり?」
「なしよ。ちゃんと呼び捨てにして」
「……がんばります」
ミラベルがレイズクルスから勘当され、その結果平民になった。それでも今まで通り貴族寮にいて学園に通えているのは、特例に等しい。
あの後、ライアンが後見人となることをミラベルに申し出た。養子縁組などとなると、色々と手続きなどが面倒になるが、後見人であればたいした問題はない。
あくまでもライアンの庇護下にあるというだけで、身分は平民だ。本来であれば、その時点で学園を退学となるか、平民クラスへの移動となる。しかし、卒業まであと数ヶ月であるし、ライアンの後見もあるからいいだろうという話になって、現状維持となったのだ。
「卒業しちゃうと、後見もなくなるんだよね?」
「ええ。後見は未成年を保護するためのものだから。卒業したら成人よ」
「……えっと、大丈夫なの?」
「何も問題ないわよ。魔法師団に合格したのだから、なおさらね。入れる寮もあるから、住む場所に困ることもないし」
そうだった、とリィカは思う。軍には寮もあるから、そこに入ることだってできるのだ。
「あたしも寮に入るよ。でも、騎士団と魔法師団だと寮が分かれてるから、今みたいに一緒にご飯食べたりはできないね」
「どこかで時間が合ったら、外で食べましょう?」
「いいね」
「……いいなぁ」
セシリーとミラベルの会話に、リィカが羨ましそうにした。卒業したらリィカは王宮住まいになる。それこそ今までのように気軽に、外へ行くことなどできない。アレクにそう言ったら「抜けだせばいい」と言われたが、そんなことできるはずないと思う。
「お忍びで出かけるとき、あたしを護衛にご指名下さいませ? そうしたら、一緒のご飯くらいお付き合いさせていただきますよ?」
「あ、なるほど。それいいね!」
「まったくもう、二人とも。駄目よ」
おどけたセシリーの台詞に、リィカが意気揚々と乗っかる。それをミラベルが窘めるが、言葉だけで表情は笑っている。
「ベル様も一緒に行こうよ」
「……指名があれば、拒否はしないわ。それと、様はつけないように」
「あ」
リィカがバツの悪そうな顔をして、セシリーが笑う。
卒業すれば、それぞれお互いの立ち位置が変わる。その差は大きい。けれどそれでも、ずっと友だちなのだと、こんな話をしながらリィカは感じたのだった。
※ ※ ※
受験が終わると忙しくなったのが、アークバルトとレーナニアだ。卒業と同時に行われる結婚式の準備が、いよいよ大詰めを迎えるからだ。
それで学園に来られない日も多い。けれど登校してきた二人は、疲れた様子も見せずにいつも通りだ。それがすごいと、素直にリィカは思う。
そして結婚式が近づくということは、リィカたちにとっても大きな緊張を迎えることとなる。対魔族用の対策の準備は行っている。
魔族たちに誰も害されることなく、そして魔族たちを殺さずに交渉の席に着かせること。それが、リィカたちにとっての勝利だ。果たして上手くいくのか、自分たちの読みは間違っていないのか。不安は多いが、やれるだけの準備を行うだけだ。
※ ※ ※
それは軍の試験結果の発表から、およそ一週間後。リィカは、寮長であるパウエル夫人から声をかけられた。
「ご実家から手紙が届いていますよ」
「……実家?」
母親から手紙など届くんだろうか、と思いつつそれを受け取る。差出人を見て「実家」に納得した。そこにあった名前は「クリフ・フォン・ベネット」だ。確かに、実家に当たるのだろう。
「ありがとうございます」
礼を言って寮の自室に入る。兄から手紙が来るのは初めてだ。何だろうと思いつつ、中を読む。そして、目を見開いた。
「こっちに来るんだ!」
それは、クリフがアークバルトとレーナニアの結婚式に出席することになった、という連絡だった。
十九章、非常に長くなりましたが(全部で71話)、これで終了です。
次話から最終章である二十章が始まります。
なかなか思うように書けていないのですが、週一ペースなら何とか切らさずに投稿できるかな……というか投稿したいと思っております。
最後までどうかよろしくお願いします。




