旅の始まり(後)
文字数がバラバラ(..;)
今日は少なめで。
次の日、国境であるクバント川を越えて、モントルビア王国に入っていた。
しばらく、川沿いに北上していくのだが、周りは木々が多い。
そのせいで、今襲ってきている洗熊の対応が、少し面倒だった。
普通に地面から攻撃してくるのもいれば、木登りをして、上から攻撃をしてくるのもいる。
ランクはEランクだが、面倒くさい状況が出来上がっていた。
泰基と暁斗が背中合わせに戦っている。
二人にとって、この上下から来る攻撃に対応するのは結構キツい。
リィカとユーリも魔法で援護に入っていた。
一方で、アレクとバルは、まだまだ余裕だ。
そう時間を掛けず、倒しきることに成功した。
「父さん、大丈夫?」
暁斗が心配そうに父に問いかける。
少し旅に慣れてきた、というか、このままじゃ埒があかないと考えた泰基は、自分で自分に《回復》をかけて剣の練習を行うようになった。
元々、暁斗と同じく、日本で剣道をやっていた泰基だ。基礎はしっかりできているし、やり出せば勘を取り戻すのも早かった。
「タイキさん、後衛でも良いと思うんですけど。回復魔法も使えるわけですし」
そう言ったのはユーリだ。
回復だけではなく、攻撃魔法も中級魔法は完全に扱えるようになっている。
わざわざ前にでなくても、とユーリは思う。
「せっかくできるのに、やらないのはもったいないだろ。正直、後衛は三人もいらないだろうし」
リィカとユーリは剣を使えない。完全な後衛だ。
だったら、状況に応じて前衛もできる自分がいてもいいんじゃないか、と泰基は考えていた。
「あえていうなら、リィカが回復魔法を覚えてくれると良いんだけどな」
「……う……。がんばります……」
泰基の言葉に、リィカの声は小さかった。
毎日のように練習しているが、なかなか上手くいかない。
「……ちょっと思ったんだけど、リィカ、俺の《回復》使うときの魔力の動き、見てみるか? それが分かれば、もしかしたら使えるかも」
「あ、そうだね。そしたらできるかも。お願いしていい?」
ふと思い付いて泰基がそう提案すれば、リィカが食い付いた。
「おーい、良いから解体しろよ」
アレクから声が飛んだが、
「ごめん、一回だけ。泰基、一回だけ《回復》やってみて」
そう言って、泰基の左手を掴んできた。――と、アレクから思い切り睨まれた。
(なんでこんなあからさまで、リィカは気付かないかな)
凪沙もその辺鈍かったな、と思いながら、泰基は《回復》を発動させた。
泰基の、リィカに対する思いは複雑だ。
とにかく、凪沙に似ている。それは間違いない。
でも、平気で解体をやっていたり、料理が上手なところ(凪沙は下手だった)を見ていると、やはり凪沙とは違う。
自分が追っているのは、凪沙の面影でしかない。
リィカ個人に対して、特別な感情は抱いていない。だから、アレクがリィカに向ける感情も、別に気にならない。
それでも、凪沙によく似た表情を、仕草を見せられると、どうしても心が揺らいでしまうのを、止めることができなかった。
※ ※ ※
「もう少し行くと、村があるって話だったよね。今日はベッドで休めるかなぁ」
体を上に伸ばしながら、暁斗が嬉しそうに言った。
「そうだな。これだけ野宿続きだと、やはりきついよな」
アレクもそれに続く。
途中で出会った商人からの情報だった。
一緒に野営をしたときに、食材を分けてもらったのを引き換えに、夜間の見張りを引き受けた。その時に聞いた話だ。
そんなに大きな村ではないが、国境に一番近い村と言うことで寄っていく人も多いことから、宿もあるらしい。
久しぶりにゆっくりできるかと、楽しみにしていた。
村の近くまで来て、異変に気付いた。
――建物や門が壊れている。
警戒しながら中に入ると、バルが剣を抜いた。
体当たりしてきた牛を受け止め、弾き飛ばす。態勢を崩したところで、前足二本を切り飛ばす。
「――ちっ! もしかして村にいた動物が、魔物化しちまったのか」
見れば、他にも魔物の姿が見られた。
「みんな! 倒すぞ!」
アレクが声をかけて、動き出そうとしたところで、
「あーらら、またお客さんだよぉ? ポール」
「今度は六人……って、ヒューゥ! 女の子、めっちゃ可愛いじゃん。オレっち、もらっていいだろ、パール?」
「えー、ホンキ? 男五人に囲まれた女なんて、どれだけビッチなの、って感じじゃーん」
突然、目の前に男女の二人組が現れた。
旅に出る前、リィカはどうしても一つ調べておきたいことがあった。
それが、魔族の外見だ。
どういった姿をしているのか。
でも、分かったのは、細く尖った長い耳を持ち、髪も肌も白い色をした化け物。
それだけだ。
そして、目の前に現れた二人は。
細く尖った長い耳、髪も肌も白い。――でも、それ以外は人と変わらない。
「――まさか、魔族!!?」
そう叫んだのは誰だったのか。
たどり着いた村で出会ったのは、まだここにいるはずのない、魔族だった。




