旅の始まり、その前に
第二章の始まりです。
今日は、序章みたいな感じですね。
しばらく、シリアス度が強めです。
リィカたち六人は、馬車の中にいた。
御者を務めているのは、騎士団の副団長のヒューズだ。
「俺たちはこれから、王都から一番近い街、リマブルを目指す。馬車でまっすぐ行けば数日で到着するが……俺たちは一週間くらい掛けて目指すことになる」
アレクが今後の予定について、話を行う。
いよいよ、魔王討伐の旅に出発したが、それにはまず解決しなければならない、大きな問題があった。
「その一週間で旅の技術を身につけるから、頑張ろう」
つまりは、そういうことである。
旅を行う上で、いつも宿に泊まれるはずもない。
必ず野宿をしなければならない時もあるが、そのための技術を六人の誰も持っていなかった。
野宿するのには、そもそもどういった場所が適しているのか。
火を熾すのは魔法や魔石があるが、きちんとやらないと火はすぐに消えてしまう。
食事だって、おいしいものを食べたい。
どのくらい旅がかかるか分からないから、なおさらだ。
食材については、魔物の解体はある程度はできるが、野草類となると知識が怪しいし、回復に魔法に頼れないこともあるかもしれないと考えると、薬草などの見分けもできるようになった方が良い。
色々上げれば切りがないくらいに、旅に必要な技術や知識というのは多い。
もっと早く誰か気付けば良かったのだが、皆が見事に戦う方にしか頭がいっていなかったので、急遽実践で学ぶことになった。
ヒューズ副団長が、先生役である。
ガタン、と馬車が止まった。
「降りて下さい。今日はここで野宿しますよ」
ヒューズの声がして、六人は馬車を降りた。
そして、一週間。
全員、頑張った。
なんせ、これから自分たちで全部しなければいけないから、ここで覚えられなければ、その後が地獄だ。
だが、頑張った中でも、どうしても差は出てくる。
ということで、
「アキトとアレク、バルは、料理はしないで下さい。食材が無駄になるだけです」
一番顕著に結果が表れたのが、料理面だった。
一応、周りの誰に聞かれるか分からないので、殿下等の敬称は省略である。
落ち込む三人を見ながら、ヒューズは容赦なかった。
「でも、良かったじゃないですか。後の三人は、お見事ですよ。メンバーの半分が料理できれば、十分すぎるくらいです」
リィカと泰基はもともと料理をしていたから、覚えるのも早かった。
そして、料理未経験ながら、はまってしまったのがユーリだ。時々、こだわりすぎて失敗するので注意だ。
「アキトとタイキさんは、魔物の解体は無理ですね。――とりあえず、アキトは野草などをしっかり見分けられるように頑張って下さい。後は、水くみとかの力仕事を率先して行うことですね」
「……はーい」
現状、一番技術や知識を身につけられなかったのが、暁斗だった。
完全に落ち込んでしまった。
リマブルの街に到着した。
宿で一晩泊まって、そこでヒューズともお別れだ。
ヒューズが、六人に告げた。
「この一週間、頑張りましたからね。後は、嫌でも慣れていくでしょう。私は、これで王宮に戻りますが……、皆様のご武運をお祈りいたします」
そう言って、去って行くのを、見送った。
「さて、じゃあ、ここからは歩きだ。みんな大丈夫か?」
行けるところまで馬車で行く、という案もあったが、却下した。
歩いて体力を付けておくに越したことはない。
「ここから北上して、まずはモントルビア王国を目指す」
アルカトル王国と国境を接している王国だ。
もう一つ、デトナ王国もあるが、こちらの国境は、険しい山々がそびえている。
「しばらくは、魔物との戦いだけなんだよね?」
そう暁斗が確認する。
「ああ。魔族は真っ正面からしか攻めてこない。魔族が攻め落とした圏内に入らない限り、魔族との遭遇はないはずだ」
これまでの記録を見る限り、魔族が戦略を練ってきたり、ゲリラ作戦をしかけてきたり、と言うことは、一度もない。
せいぜい、魔物が放たれるくらいで、とにかく正面からの力業ばかりだ。
その力がとんでもないので大変だが、戦いやすいのも確かである。
そして、現状、一番魔国と近い国々も、まだどこも魔族の手に落ちていない。
当分は、魔物と戦って、力を付けていくことになる。
ここからが、本当の旅の始まりだった。




