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銀の姫君と蒼の魔法使い  作者: 苫古。
とある侍女の手紙
38/43

第18の月・闇月宮(トト) 21日





親愛なるお姉さまへ



 生誕祭、おめでとう!

 遅くなったけれど、そう言わせてね?



 王宮の生誕祭は、豪華絢爛の一言に尽きたわ。

 女神さまがお生まれになったとされている日だものね。冬には手に入らない果物や、見たことのない細工のお菓子がいっぱい!

 あたし、村の外で生誕祭を迎えたのは初めてだったでしょ? それがいきなり王宮だもの。もうびっくり。

 すごいねって興奮しながら話したら、またエルストに笑われちゃった。

 でもね、あとでエリオトおじさんから聞いたんだけど、エルストだって、6年前に初めて宮廷魔導士見習いで王宮に来た時には、おのぼりさんみたいにキョロキョロしてたっけ。なのに、あたしを笑い者にするなんて、ひどいわよね。

 次に笑われたら、エルストが王宮に入りたての頃、迷子になって半泣きになってたっていう話をしてやるつもり。

 教えてくれたエリオトおじさんには感謝、ね。





 ああ、そうだ。

 生誕祭といえば、お姉さま、ちょっと聞いて?


 この前、いつも通り早朝に一人で神殿に行ったの。

 神殿は王宮の敷地内にあるから、毎日、仕事が始まる前に聖歌を歌いに行ってるって話は、前にも手紙に書いたわね。

 知っての通り、あたしは別に信心深いわけじゃないわ。

 ただね、誰もいない空間で思い切り大声で歌うと、すっきり爽快な気分! クセなっちゃって。だって、いつもみたいに葦の川原に穴を掘って叫ぶわけにはいかないでしょ?


 その日もね、一曲だけ歌い終えて、すぐに帰ろうとしたの。

 そしたら、一人の神官さまがあたしをお呼び止めになって。

 こんな朝早くに誰かいるなんて思わなかったから驚いたんだけど、その方が若くて格好いい男性だったから、もっと驚いちゃった。

 金髪サラサラで、瞳は澄んだ水色なの。白い神官服がとってもお似合いで、正直、彼の後ろに掛けてあった宗教画の天使より、遥かに綺麗だと思ったわ。

 ほら、あたしはパッとしない薄黄緑色の髪で、瞳はありふれた茶色でしょう? 顔だって、亡くなった父さま似で平凡だし。

 世の中には、男の人でもこんな美人さんがいるっていうのに……女神様は残酷ね。ムカつく。


 ――― という、自虐話は置いといて。

 その神官さまが、にっこり笑ってこうおっしゃるの。

 今度の生誕祭に、ぜひ聖歌隊に入って歌って欲しいって!

 王宮神殿の聖歌隊よ。すごいでしょ! 夢みたいだと思わない?

 結局お断りしたんだけど、もう少しで気持ちが傾いちゃうところだったわ。だって、その方、すごく熱心に誘ってくださったんだもの。きっと、生誕祭をより良いものにしたいって想いが、人一倍強いのね。手まで握って、言葉を尽くしてくださるの。

 でもね、お姉さま。あれは少し良くないと思ったわ。

 女神様への信仰心が強いのはとても素晴らしいことだと思うけど、あんな美人な方に一生懸命説得されたら、女性――― もしかしたら、一部の男性もみんな、勘違いしちゃうもの。

 無邪気に罪作りなことをしてしまう人って、本当にいるものね。神官さまに妙な崇拝者が付きませんようにって、お祈りしておくわ。





聖歌隊ソリストになりそこねたかもしれない女の子

クレア=ハイルより






追伸


 まだまだ冬は深まって、もっと寒くなるのでしょう。

 そちらは、ここよりは暖かいだろうけど、お姉さま、ちゃんと暖かくしてる?


 もう、お腹は大きくなり始めているのかしら。

 また本を読んでるうちに、毛布なしでお昼寝しちゃった、なんてこと言わないわよね? ………ね!?

 あたしの可愛い甥っ子か姪っ子のためにも、そんなずぼらなことをなさっていませんよーに!


 先日、街に出かけた時に、手芸屋さんで可愛い布を見つけたので、湯たんぽカバーを作りました。ウチでいつも使っていたのが入るはずよ。

 夜は暖かくして、身体を大切にしてね。




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