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 宇野さんが天文部に入部してから、理科準備室で一緒に天文宇宙検定の勉強をして、18:30頃に帰宅するのが習慣になった。

帰り道は彼女の待機場所(彼女がこう言っている)の手前の曲がり角まで見送ってから俺は帰宅する。

この日はお母さんが待つ家に帰った。


「ただいま。」

「おかえりなさい。」


今週は当直も出張もないので、俺が家に着く頃には、お母さんが既に帰宅していた。

お母さんはいわゆる姉御肌と言われるタイプで、しっかり者で、とても面倒見が良い。

テキパキと動くタイプなので、のんびりしていることが多い俺はよく叱られている。

いつものように2人で向き合い、夕食のカレーを食べ始めた。


「最近、帰り遅いね。勉強?」

「うん。天文宇宙検定の勉強してる。」

「へー。部室でやる方が、家より集中できるの?」

「先週から転校生が入部して、その子も検定を受けることになったから、一緒に勉強してるんだよね。その方が捗るし。」

「なるほどねー。…ちなみにその子って女の子?」

「そうだよ。」


俺がそう答えると、お母さんはニヤッと笑ってから口を開いた。


「…いい感じなの?」

「…そんなんじゃないよ。ただの同級生。」


本当は協力者だけど、もちろんそれは秘密だ。


「えー、つまんないの。」


お母さんは口をすぼませて、拗ねたような表情を見せながらカレーを食べていた。


「…お母さん。いまどき、男女が一緒にいることに対して、すぐに恋愛の話に発展させるの良くないよ。

職場で言ってたりしたらセクハラだからね。」

「そんなの分かってるって。

私、副部長だよ?さすがに細心の注意を払っているから。

他人にそんなことは言わない。

私は太星が心配で言ってるの。」

「何それ。」


俺がそう言うと、お母さんは水が入ったグラスを俺の方に向けながら口を開いた。


「年頃の息子が、毎日、宇宙のことばっかり考えてるのが心配なの。

恋愛に興味が無いわけじゃないんでしょ?

対象が異性か同性かは問わない。」

「…そりゃ、全くないってわけじゃないけど…。

それに俺はたぶん異性愛者。」

「じゃあ、多少痛い目を見たっていいから恋愛くらいして欲しい。

私の部下たちは、みんな、学生時代基本的に勉強ばっかりして恋愛してこなかった人たちだから、彼らの恋愛話を聞いてると、そんな学生みたいなことで悩むな!って活を入れたくなる。相手を見る目も全然ないし。

結局、ある程度は若いうちに恋愛経験積んでおかないと、後々苦労するんだよ。

大人になってから、どうしてそんな相手選ぶの?みたいな痛い恋愛してたら、ろくなことがない。

そういうわけだから、いつか結婚したいとか恋愛したいって思ってるなら、気になる子がいればちゃんとアピールして欲しいの。

これは親心であり、人生の先輩からのアドバイスだから。」


一通り自分の意見を言えて喉が渇いたのか、お母さんは持っていたグラスの水を飲み始めた。


そう言ってるお母さんもバツイチなくせに。


でも、これを言ったらお母さんが怒るのは分かっているので胸の中にとどめておいた。


「…アドバイスね。分かった分かった。」

「そんな、面倒くさそうに流さないでよ。

何?反抗期?」

「これくらいの返事で反抗期になるなら、世の中の高校生は全員反抗期だよ。

お母さんの言いたいことは分かってるから。」


俺がそこまで言うと、ある程度は満足したのか、お母さんは残りのカレーを食べ進めていた。



完食して、使い終わったカレー皿を流しに片付けていると、お母さんが話しかけてきた。


「土曜日の夜ご飯、いつものイタリアンで良い?」

「うん。何時から?」

「19:00。店で待ち合わせね。」

「分かった。」


最近は月1-2回のペースで、お母さん、俺、成田さん、亜子ちゃんの4人で食事会をしている。

お母さんと成田さんはいつもテンポよく楽しく会話していて、俺たちにも話を振ってくれるので食事会自体は盛り上がる。

問題は亜子ちゃんが俺に対して壁を作っていることだ。

正直、年下の女子と何を話せば良いのかよく分からない。

俺の興味は宇宙に関連することばかりで、いまどきの女子が興味があるものを全く知らない。

頑張って毎回話しかけてはいるけれど、共通の話題がないから、話が盛り上がらないのも当然だった。

次も、亜子ちゃんに頑張って話しかけては、話題が続かないことを繰り返すのかと思うと若干気が重かった。

...でも、俺は彼女と打ち解けなければいけない理由がある。

どうやら、お母さんと成田さんは、亜子ちゃんが高校に入学する来年の4月に籍を入れたいようなのだ。

そうなると、俺は高校3年生から名字が変わることになるのだけど、母さんからそのことについて聞かれた俺は、別に構わないと答えた。

お母さんは今まで色々な苦労をしてきて、そのたびに成田さんがお母さんを支えてくれたことは分かっていた。

そんな彼とお母さんが一緒になることに俺は反対しなかった。




「太星君、こっちのピザ取ろうか?」

「ありがとうございます。欲しいです。」

「亜子ちゃん、パスタ食べる?」

「ありがとうございます。美晴さん、残りのサラダいりますか?」

「ありがとうー。もらおうかな。」


約束の土曜日の夜。俺たちはよく行くイタリアンの店にいた。いつものようにお母さんと成田さんがたくさん話してくれるおかげで、食事会は盛り上がっていた。


「太星君、美晴さんから聞いたけど、部活に転校生が入部してきたんでしょ?どんな子なの?」

「はい、同級生の女子で、最初は宇宙に興味なさそうだったんですけど、部室に置いてる本とか読んでるうちに楽しくなってきたみたいで、意外と天体観測も乗り気でやってくれました。

興味がどんどん湧いてきたみたいで、受ける階級は違いますけど、今度一緒に天文宇宙検定っていう試験を受験することになったんで、部室で勉強してます。」

「へー、良いね。なんか青春って感じ。

やっぱり太星君の宇宙の知識がすごいから、どんどん知りたくなったんじゃない?」

「どうですかねー。最初は、星座の由来ってめちゃくちゃな話が多いんで、それが面白かったんだと思います。

自分の星座の由来の話がひどい話だったんで、若干呆れてましたけど。」

「あー、前に聞いたことあるかも。

その子は何座なの?」

「やぎ座です。」

「どんな由来なの?」


成田さんに聞かれて、俺はやぎ座の由来を説明した。


「うわー、可哀想。

面白がって空に張り付けられたって、ひどいな神様たち。」

「久しぶりに聞いたけど、そんな話だったねーそう言えば。」


成田さんとお母さんは俺の話を聞いて呆れながら笑っていた。

隣に座る亜子ちゃんの表情をちらっと見ると、軽く笑顔を見せてくれていたけど、言葉は発していなくて、口角を無理矢理上げているようにも見える。


「亜子ちゃんは何座だっけ?」

「さそり座です。」

「太星、さそり座の由来ってどんな話?」

「えーっと、昔オリオンって名前の強い大男がいて、自分は強いんだって傲慢な態度を取っていたら、神様達が怒っちゃって、彼を懲らしめるためにサソリを送り込んだんだ。

それで、そのサソリがオリオンを倒したから、功績を称えて空に上げたって話だったと思うよ。」

「へー、割とちゃんとした話。

傲慢になっちゃダメっていう教訓もあるし。

ね、亜子ちゃん。」

「そうですね。」


亜子ちゃんはそう答えると、お母さんに笑顔を見せたけど、そこで話は止まってしまった。


やっぱり、今日も打ち解けるのは難しいな。


そんなことを思いながら、俺は目の前に置かれたピザを食べていた。




 「文化祭でやるプラネタリウムの準備、そろそろ始めようと思うんだけど。大丈夫?」


翌週の月曜日、いつものように理科準備室で、隣に座る宇野さんに話しかけた。


「うん、もちろんちゃんとやるよ。

どうやって作るの?」

「ドームはダンボールで手作りして、プラネタリウムの投影装置は元々あるものを使うよ。」

「え!ダンボールで作れるの!すごいね。」


彼女は驚いて目を丸くしていた。


「うん。JAXAの公式ページに、ダンボールで作るプラネタリウムドームの設計図があるから、それを元にして縮尺を変えた設計図を昔の先輩が作ってて、代々それを元にして、作ってるんだよね。ダンボール自体はネットでまとめて買ってる。

毎年、視聴覚室でプラネタリウムを設置してるけど、ドームを何日も置いておくことはできないから、ダンボールを組み立てるのは文化祭前日にやって、前日までに、設計図通りにダンボールを切り分けておく。」

「なるほど。もう作業内容は決まってるんだね。」

「うん。2人だし、毎日1時間くらい作業すれば1ヶ月で充分作れるよ。

前日だけ何人か応援を頼んで組み立てて完成させる。

今年は俺の友達が2人手伝ってくれることになってるから。」


去年は既に、引退していた真由子さんと宗介さんに手伝ってもらったので、今年は琢磨と優吾に手伝いをお願いしていた。


「当日は何をやるの?」

「受付とプラネタリウムの解説で2人は最低でも必要で、列が伸びたら整列させる係も必要だし、トイレ行ったり、緊急事態もあるだろうから、これも俺の友達に応援を頼む感じ。」

「なるほど。その友達って早野君と武田君?」

「そうだよ。」

「それなら良かった。」


彼女がホッとした様子を見せたので、少し不思議に思った。


「良かったって...俺たち2人だと作業量が多くて大変そうだと思ったの?」

「それもあるけど、武田君は可愛い彼女のことしか見てないし、早野君は私に興味がないのが分かるから、安心したの。

調子に乗ってると思われるかもしれないけど、彼女がいなかったり、私に興味を持つ人と一緒の時間を過ごすと、好かれちゃうから。

その2人なら安心。」


なるほど、モテる女子は大変だ。


「2人とも良いやつだから、きっと作業も捗ると思うよ。

明日ダンボール届く予定だからちょっとずつ作業していこう。」




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