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「どうして同じテキストを2冊持ってるの?
もう一方はすごい年季入ってる感じがする。」
放課後、理科準備室で天文宇宙検定の勉強をしていると、隣に座っていた宇野さんに話しかけられた。
「こっちは新しく出たテキストで、最近自分で買ったやつ。
古い方は、天文部の元部長の先輩が使ってた本だよ。
このテキストって結構短いスパンで改訂されてるから、新しい方のテキストだけでも充分勉強はできるんだけど、先輩が、この本で勉強して、合格できたから、願掛けの意味も込めて、お下がりでもらったんだ。」
「なるほど、優しいねその先輩。」
「うん、すごい優しい人だよ。
1級の試験は大学生レベルの内容だから、結構難易度高いんだけど、その先輩は真由子さんって言って、高1で試験に合格してて、すごい優秀なんだ。
今は大学で天文学勉強してて、俺も同じ大学行きたいなって思ってるから、ときどき連絡取ってる。
面倒見のいい人だよ。」
「へー、...仲良いんだね。」
「うん、俺以上に宇宙オタクで、宇宙の話をしだしたら止まらないから、真由子さんが部長だった頃は、何時間も宇宙談義してた。」
3年の真由子さんと、宗介さん、当時1年生俺の3人で、理科準備室で延々と宇宙の話をしていた頃を思い出していた。
今はもう慣れてしまったけど、1人になって、最初の頃は、宇宙談義をする人がいなくなってしまったことをとても寂しく思っていた。
「...天川君って、その真由子さんのこと...好きなの?」
「へ?」
思ってもいなかったことを質問されて、俺は間抜けな声を出してしまった。
彼女は上目遣いで俺の表情を窺っていた。
「いやいやいや、尊敬してるし仲良いけど、そういうんじゃないよ。
ていうか、同じ天文部だった、宗介さんっていう同級生とずっと付き合ってるから、そんな風に見たことないよ。」
俺が頭を横に振りながら否定すると、彼女は少しだけホッとしたような顔をした。
「そっか、てっきり好きな人なのかと思っちゃった...今更だけど、天川君って彼女いる?」
彼女は真剣な面持ちで聞いてきた。
「急にどうしたの?いないよ。」
「好きな人は?」
「それもいない。」
俺が答えると彼女はパッと明るい表情になった。
「よかった...ほら、彼女持ちの人に協力者をお願いしてたら、私と秘密を共有することで、彼女との関係がギクシャクしちゃうかもしれないでしょ?
好きな人がいたら、その人に私との関係を誤解されたら困るだろうし。」
「あぁ、なるほどね、それは大丈夫。
今まで彼女がいたこともないし、これからできる気配も全くないから、安心して。
好きな人もいないし、しっかり協力者、できると思う。」
俺が言い切ると、彼女は嬉しそうに笑った。
「良かった...その試験...私も受けようかな。
確か、1-4級まであるんだよね?
4級なら、私も勉強すればいけるかな。」
自分以外にこの試験に興味を持つ人がいることが嬉しかったし、何より宇宙人がこの試験を受けるなんてとても面白い。
「え、すごい良いと思う。
宇野さんなら俺よりも宇宙詳しいはずだし、様式さえわかれば全然いけると思うよ、まだ受験締め切り前だし。
本当に受けるなら俺が昔使ってた4級のテキスト渡そうか?
古いから新しいテキストは買わないとダメだけど、使えないことは無いと思う。」
「嬉しい。うん、テキスト欲しいな。
勉強頑張るね。」
こうして、二人で天文宇宙検定を受験することになった。
「太星、お前噂になってるぞ。」
「え、何の話?」
いつものように琢磨、優吾と3人でお昼ご飯を食べていると、優吾が真剣そうな表情をしながら話しかけてきた。
「宇野さんと付き合ってるんじゃないかって。」
二人だけの天文部だし、彼女自身が、俺以外の人には壁を作って対応していると言っていたので、そう誤解されるのも仕方ないかもしれない。
だけど、あくまで俺は彼女の協力者だ。
「そんなんじゃないよ。
同じ部活で同じクラスだから、よく話すってだけで、話してる内容も宇宙に関することだけだよ。」
俺がそう答えると、
「まぁ、そうだろうと思った。
太星って宇宙のことしか考えて無さそうだし。」
優吾は少し安心したような表情をしていた。
「...なんか、それはちょっと悪意のある言い方な気がする。」
俺が苦笑いをしながら言うと、
「自分の興味があるものに一直線でよろしいって意味だから、安心して。
もう少しそれ以外のことも興味持った方が良いかもしれないけどね。」
琢磨が軽く笑いながら、付け加えた。
「...やっぱり、悪口言われてる気がするな。」
自分が宇宙のことしか考えていない宇宙マニアであるという自覚もあるので、反論することもできない。
そう思って唸っていると、
「ちなみに、この噂は、亜季から聞いたから。
他の学年にも噂が広まってるって認識した方がいい。
人気者と2人っきりで同じ部活だと大変だな。」
亜季ちゃんは、優吾の彼女で1年生だ。
宇野さんの人気は学年を問わないようだ。
宇野さんが天文部に入ってから、主に男子から好意的ではない視線を受けることも少なくなかったので、噂が流れているんだろなとは思っていた。
でも、本当に付き合っているわけじゃないし、俺はあくまで宇宙人である彼女に調査に協力しているだけなのだ。
彼女が人気者なのは分かるけれど、下心は一切無いと言い切れる。
あくまで純粋な宇宙人への興味からで協力者を引き受けたのだ。
それに、彼女は否定していたけど、もしかしたら、彼女たち宇宙人が地球侵略をしないと言い切ることはできないし、俺としては人類代表で、彼女たちと接している気持ちもある。
ここまでの責任感を持っているので、彼女と友好的に接することで何か不利益を受けることがあるなら、少し、理不尽だと思ってしまう。
「天川君、鍵、貸して。」
そんなことを思っていると、宇野さんが声をかけてきた。
「うん。どうぞ。」
俺はいつものようにキーボックスの鍵を貸した。
「ありがとう。あと、これ。」
彼女がレジ袋の中からチョコトーストを取り出して、見せてきた。
「あ、買ったんだね。気に入った?」
「うん、最近では1番のお気に入り。
教えてくれてありがとう。
それと、テキストで聞きたいことあるから。また放課後よろしくね。」
彼女はそう言って手を振ると、教室から出て行った。
俺と宇野さんが話す様子を見ていた優吾は、
「...俺の認識が間違ってなければ…良い感じなんじゃないかなって気もするけどな...。」
そう呟いてから、腕を組んで考え込んでいた。
「…悪いけど、彼女とはそういうんじゃないからね?勘違いしないでね。」
そんな俺たちの様子を琢磨は少し複雑そうな表情で見ていた。
「これは…こっちの新しい方のテキストのここに書いてある。」
「本当だ。ごめん、確認不足で。」
「いいよ。細かいところが変わってるから困るよね。」
放課後、理科準備室で宇野さんから質問を受けていた。
想像以上にしっかりと彼女は勉強していた。
「星座の辺りは、天文部の本読んでたからなんとなくいけそう。」
そう言いながら、勉強している姿はなんだか楽しそうに見えた。
本当は宇宙人の彼女が、検定のために宇宙について勉強している姿は正直面白かったし、微笑ましかった。
そんな風に思いながら彼女のことを見ていると、俺の視線に気づいた彼女が声をかけてきた。
「どうしたの?なんか、嬉しそうな顔して。」
「なんか、宇野さんが楽しそうに勉強できてて良かったなって思って。
宇宙人だから、知ってることも多くて退屈なんじゃないかって心配してたんだけど。」
「まぁ、知ってる知識でも、地球人にはこう見えているんだなって感じで面白いよ、とっても。
…それに、天文宇宙検定を受けていいか上に確認したら、宇宙に興味を持つ地球人について知りたいから、是非受験しなさいって言われて、やる気があるんだ。調査の一環。」
「そうなんだ、それは燃えるね。」
これが宇野さんの仕事になるんだと思うと、彼女を応援したい気持ちがさらに強くなった。
「うん、任務頑張ります。」
彼女は笑顔で軽く拳を挙げていた。
「試験は、11月で2ヶ月くらいで宇野さんがまだここにいるうちに結果も分かるし、良かったね。」
そこまで話して、ふと、なぜ任務は半年間と決まっているのだろうと疑問に思った。
「…任務の期間は皆、半年って決まってるの?」
「うん、基本的にね。」
「もし、期間を延長してでも調べたいことができたら?」
「…その場合は別の担当者が着任して引き継ぐことになる。」
「へー、同じ人が担当した方が、手間が少ない気がするけどそうじゃないんだ。
なんで半年間なの?」
俺が質問すると、彼女は少し考え込むような表情を見せた。
「あ、もしかしてこれって禁止事項だった?
それならごめん。」
聞いてはいけないことだったのかと思い、謝ると、
「…ううん、話していい範囲だと思う。
今までのデータで、半年以上同じ調査員が、その星に潜入すると、協力者との間に、深い愛情が芽生えちゃうパターンがあるの。
平たく言うと、恋に落ちちゃう。
すごい場合だと、子供ができちゃう。
そうなると、調査員が戻りたくないって拒否することが多くなって、充分に調査結果を持ち帰れないから、半年って決まってるの。」
想像もしていなかった理由で驚いてしまった。
秘密を共有し合う仲だと、一緒に過ごす時間も多くなるし、関係が発展してしまうことも多いのか。
それなら、基本的に協力者を同性にした方がいいのかな。
いや、でも同性同士でも好きになる場合もあるし、あんまりそこはこだわらないのか。
…どうして、宇野さんは俺を協力者にしようと思ったんだろう?
でも、これを聞くと、俺がまるで、宇野さんと恋に落ちる可能性があるんじゃないかって心配しているみたいで、なんだか自惚れてる気がする。
色々考えてしまい、腕を組んで唸っていると、
「…何か気になることあるの?
聞いてもらって大丈夫だよ。」
宇野さんが俺の顔を覗き込んできた。
彼女と、恋に落ちる可能性を想像してしまったので、彼女の顔を見て、一瞬、自分の顔が熱くなったのが分かった。
落ち着け、俺。
彼女は今はものすごい美少女だけど、真の姿はカマドウマ星人なんだから。
ゆっくりと深呼吸をしてから、俺は口を開いた。
「宇野さんが言う理由で、半年間なら、調査員と協力者は同性同士が多いのかなって思って。
あ、協力者が異性愛者の場合の同性ね。」
少しだけ緊張しながら伝えると、彼女は考える様子を見せた後に、
「うーん、確かに上から推奨されているのは、天川君が言うパターンなんだけど、そもそも宇宙人の存在を信じてくれる人って少ないから、あんまり条件にこだわってると協力者が見つからないの。」
と説明した。
そうか、そもそも俺みたいにすんなり信じる方が少ないのか。
目から鱗が落ちた。
「ここの学校に来て、初めて正体を明かしたのが天川君だったんだけど、すぐに信じてくれて、協力的で、友好的で、我ながら良い人に声を掛けたなって思ってる。」
笑顔で感謝を伝える彼女を見て、彼女との仲が発展する可能性を想像した自分が恥ずかしくなってしまった。
彼女は純粋に調査のために協力してほしいって言ってるのに、邪なことを考えてはいけない。
俺は自分を戒めるように、背筋を伸ばした。
しっかりしろ俺。
「ちなみに、もし、調査員がどうしても、残りたい、帰りたくないって言った場合は、どうなるの?」
そう質問するとまた彼女は黙ってしまった。
これは禁止事項に該当するんだろうか。
「…その場合は、調査員の記憶を改竄することになる。
自分が宇宙人だった記憶を消して、元々その星で生まれた存在だってことにするの。
そうすれば、我々の機密が漏れることはないから。」
宇宙人の記憶の改竄をすることも可能なのか、それはすごい。
確かにそこまですれば、秘密は守られるし、安全な気がする。
でも、好きな相手と一緒にいるためとはいえ、自分が本当は宇宙人であることを忘れてしまうのは…とても寂しいことのような気がした。
「正直、調査員を星に残すこと自体、調査内容を充分に把握できないから、好ましくないんだけど、人道的配慮と、こちらの存在を公にしないための苦肉の策なんだよ。
昔は問答無用で連れて帰っていたけど、あるとき、その星の協力者と恋に落ちた調査員が、残れないことにヤケを起こして、その星の人々にこちら側のことを広めた事件があったから、記憶を完全に消去、改竄したら残れるってルールにしたの。
ちゃんとした調査をするためにも一時の感情に流されるのは良くないんだ。
私も気を引き締めないとね。」
宇宙人も色々な失敗を重ねて、試行錯誤をしてることが分かって興味深かった。
人間みたいに感情に振り回されることがあるんだ。
彼女が良い調査結果を持って帰れるように、より一層、協力者として頑張りたいと思った。
「宇野さん。俺が協力できることがあったら、何でも言ってね。
宇野さんにはしっかり、成果を持って帰って欲しいから。」
俺がそう言って彼女を見つめると、彼女はゆっくりと笑顔を見せてくれた。
「ありがとう。まずはこれからも仲良くしてね。」




