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クラス委員である千島さんが、今日の休み時間に誰も視聴覚室を使っていないことを先生に確認してくれたので、俺たち2人は視聴覚室に向かった。
「天川君、本命チョコもらったって本当?」
視聴覚室に入りドアを閉めるやいなや、千島さんに単刀直入に切り出された。
「…どうして知ってるの?」
「今朝の玄関での宙ちゃんと天川君のやりとり、結構色々な人に見られてみたいだよ。
ほら、そもそも宙ちゃんと天川君のカップルって注目度高いから。」
確かに、普通に登校時間だったし、俺たちの様子を見ていた人も多いのだろう。
「…宙は千島さんに何か話してた?」
もし、彼女が千島さんに愚痴を言っていたりしたら、彼女の怒りを沈めるためにどう行動すれば良いか、分かりそうな気がした。
「ぜんっぜん。なんにも話してくれてないよ。
明らかに機嫌が悪いから、どうしたのって聞いてみたけど、なんでもないよって、感情のこもってなさそうな薄い笑顔で返されただけ。
ていうか、そもそも、普段から宙ちゃんって、私も含めて、天川君以外の人に自分のこと話さないようにしてると思うよ。」
俺に対してはいつも何でも話してくれるので、忘れかけていたけど、そもそも宙が周囲とのトラブルを避けるため、距離を置くように接していると以前話していたことを思い出した。
「…でも、天川君と付き合い初めてからの宙ちゃんは、明らかに笑顔が増えたし、私たちにも色々な表情を見せてくれてる気はする。
…心を完全に開いてくれていないのは分かるけど、前より近い距離になれた気がしてるから、私個人としては天川君に感謝してるの。
私は宙ちゃんのこと、大事な友達だと思ってるから。」
宙との距離を無理に縮めようとせず、彼女のことを温かく見守っている千島さんを見て、もし彼女が宙に協力者になるようにお願いされていたら、とても良い協力者になったのではないだろうかと思った。
...でも、そこまで想像して、自分以外の誰かが、宙の協力者になるのは、絶対に嫌だと思った。
「だから、宙ちゃんと仲直りしてほしい。
宙ちゃん怒ってるだろうけど…何より悲しそうだから。」
千島さんは懇願するような瞳で俺を見つめながら訴えていた。
俺も早く宙といつもの仲に戻りたい。
覚悟を決めて、深呼吸をしてから、千島さんに質問した。
「…あのさ、今から変なことを聞くと思うんだけど…そもそもなんで宙って怒ってると思う?」
俺がそう質問すると、彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような表情になった。
「…いや、それは、自分の彼氏を狙っている人がいたら、嫉妬して嫌な気持ちになるでしょ。」
本当に俺が宙と付き合ってたらそうかもしれないけど、俺たちは宇宙人と協力者の関係で、付き合っているフリをしているだけなのだ。
嫉妬心で怒っているというのは...ちょっと違う気がしてしまう。
「自分の彼氏を好きだって言う人がいたら、その人に彼氏を取られるかもしれないって不安になるからね。まず、その不安を解消しないと。」
そう言われてハッとした。
もしかしたら、宙は俺に彼女ができたら俺が協力者としての役目を果たせなくなるんじゃないかと心配しているのかもしれない。
「…天川君?私の話聞いてる?」
しばらく黙り込んでいる俺を見て、千島さんは怪訝そうな表情をしていた。
「あ、ごめん…そもそも、俺が宙以外の相手を優先する可能性なんて、全くないって思ってるから、宙が不安に感じてるかもしれないって、思いつかなかった。」
俺がそう言うと、千島さんは目を丸くした後、ワンテンポ遅れてから笑い始めた。
「ははは、あーおかしい、天川君の愛が深すぎるわー。宙ちゃん全然心配する必要ないじゃん。」
そう言ってお腹を抱えて笑っていた。
まさかここまで笑われると思っていなかったけど、とりあえず、俺が宙のことを裏切る可能性がないことは分かってもらったようだった。
「…でもね、天川君、あくまで第三者の立場の私から見たら、天川君が宙ちゃんのことを大好きなのは分かるけど、当事者から見える景色は絶対に違うからね。
どんなに彼氏に愛されてるって思ってても、不安な気持ちなんていくらでも湧き上がるんだから。
"僕はあなたのことが大好きだからあなた以外と付き合う可能性はありません"って、ちゃんと言葉にして伝えなきゃダメだよ。」
彼女は俺のことをじっと見ながら、念を押した。
…好きだと伝えることはできないけど、宙が俺が離れていく可能性を心配しているのであれば、そんなことは絶対にないと伝えなければいけない。
「うん、分かった…色々アドバイスしてくれてありがとう。」
俺の返事を聞いた千島さんは、にこっと笑い
「どういたしまして。じゃあ、先に行くね。」
そう言ってから、一足先に視聴覚室を出て行った。
俺は自分の両手で頬をパチンと叩いた。
よし、ちゃんと伝える。
気合いを入れて教室へ戻ると、相変わらず宙からは冷たい空気が流れていたけれど、意を決して彼女に近づいた。
「宙、ちょっといい?一緒に来てくれない?」
俺がそう声を掛けると、本を読んでいた彼女はゆっくりと顔を上げ、俺のことを見た。
朝と同じく、光が宿っていない真っ黒な目に見つめられて、ゾクッと鳥肌が立ってしまったけど、ここで怯むわけにはいかない。
俺は深呼吸をしてから、口を開いた。
「大事な話があるから、俺と一緒に来て欲しい。」
俺は、彼女から目を逸らさずに、返事を待った。
永遠にも思えるような長い沈黙の後、彼女はゆっくりと頷いてくれたので、一緒に教室から出た。
理科準備室に一緒に入ってすぐに、俺は彼女に頭を下げた。
「宙、ごめん。たぶん、俺がはっきり伝えなかったから不安にさせたよね?」
そう言ってから顔を上げて彼女の顔を見たけど、まだ無表情で、その感情は窺えなかった。
「…俺、誰に告白されても、その人と付き合う気ないよ。
俺が一番優先したいのは、宙の協力者でいることだし…一番大事なのは宙だから。」
俺がそう言い切ると、やっと彼女は俺と目を合わせてくれたけど、その瞳にはまだ不安の色が浮かんでいるように見えた。
「…さっき千島さんと少し話したんだけど、千島さん、宙が悲しそうだって心配してた。
それで千島さんって宙のこと大事な友達だと思ってるって言ってて、もし、宙が千島さんに協力者をお願いしてたら…たぶん良い協力者になったんだろうなって一瞬、想像したんだけど…やっぱりそれは嫌だなって思った。
俺、自分以外の誰かが、宙の協力者になるの…絶対に嫌なんだよ。
俺が、一番宙の近くにいたいし、宙のこと、誰よりも大切だから。
俺が宙から離れることは絶対にないから、俺のことを信じて欲しい。」
話している間、宙の目をずっと見つめていると、彼女の瞳に徐々に光が宿り、潤んでいった。
「…絶対に?嘘じゃない?」
彼女は口をへの字にして、上目遣いで質問してきた。
「うん。絶対に、約束する。指切りもするから、嘘ついたら、針何千本でも、何万本でも飲むよ。」
「…手紙くれた子、すっごい可愛いかもしれないよ。」
「俺にとって一番可愛いのは宙だから。」
俺がそう断言すると、宙が顔を赤らめた。
「…信じてくれる?」
彼女に一歩近づいてからそう聞くと、彼女はゆっくりと頷いた。
よかった…分かってもらえたんだ。
俺は心の底からほっとした。
「…クッキーはどうするの?」
彼女は心配そうに俺に聞いていた。
「受け取ることもできないし、捨てることもできないから、渡してきた本人に返すよ。ちゃんと断りたいし。」
「…差出人も分からないのに、できるの?」
「頑張って探すよ。いつか見つかるでしょ。」
「…誰か分かるよりも先に、クッキー傷んじゃうんじゃない?」
「…そうならないように急いで探す。」
そこまでやりとりをすると、宙は耐えきれなかったようで吹き出した。
…やっと彼女の笑顔をみることができて嬉しい。
「俺、宙にはいつも笑ってて欲しいから、頑張るよ。」
俺がそう伝えると、
「…うん。よろしい。」
彼女は照れくさそうに笑いながら答えた。




