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放課後、理科準備室にいると、宇野さんがやってきた。
「はい、鍵返すね。」
「うん。確かに、受け取りました。」
鍵を受け取ると、彼女は俺の隣の席に座った。
「まだ、ちゃんと、聞いてなかったって思ったんだけど、天文部の活動内容教えて欲しい。」
昨日は屋上から校内に戻った後、そのまま彼女とは別れていたので、天文部がどんな活動をしているかを伝えていなかった。
「うーんと、特に普段はやること決まってなくて、放課後、理科準備室に集まって、宇宙に関する見識を各々深めるみたいな感じなんだけど、決まっている活動としては第1、第3金曜日の19:00-21:00まで屋上で天体観測をすること、文化祭でプラネタリウムをやること、年に何回か市民センターでやる子供向けの天体イベントのボランティアをやることかな。
そこさえ参加してくれたら、あとは自由に過ごしてもらって大丈夫だから。
別に毎日ここに来なくてもOK。」
「へぇー、緩いんだね。」
「まぁ、俺1人しかいなかったしね。
ガッツリ観測をするにも、予算もそんなにないし、設備にお金かけるのも難しいから、できる範囲で天文学に関わりましょうってスタンスなんだよね。元から。」
「なるほどね...ところで、天川君が開いてるその本何?」
宇野さんは俺が広げていたテキストを指さして質問してきた。
「天文宇宙検定っていう試験のテキストだよ。11月に試験があるから、その勉強。」
「へぇー。天川君、本当に宇宙好きなんだね。」
天文宇宙検定は天文学や宇宙科学に関する知識を問う試験だ。
1-4級まであり、1級は理工系大学で学ぶレベルの天文学・宇宙物理学など宇宙科学全般を範囲としており、難易度も高い。
去年の試験で2級までは合格できていたので、今回は1級の試験を受ける予定だった。
「うん。俺のお父さんが元々好きでさ、その影響で小さい頃から好きなんだよね。太星って名前も、太陽と星から取ってるから。」
「天川も、天の川だもんね。キレイな苗字。」
そう言われた瞬間に、お父さんが前に話していたことを思い出した。
お父さんがお母さんの天川と言う苗字を見て、
「天の川ですね。キレイな苗字。」
と話しかけたことから、2人の関係が始まったこと。
そして、その話をするお父さんの表情はどこか切なかった。
「...ありがとう。
俺もこの苗字すごい好きで…気に入ってるんだ。
天の川に、太陽に、星だから、これで宇宙が好きじゃなかったら、逆に不自然なくらいでしょ?」
「確かにそうだね。」
宇野さんはそう言って、軽く笑った。
「宇野宙って名前は...どうやって決まったの?」
「地球人の姿の時の名前は上が決めるの。
宇宙人を連想しやすい名前だからどうかなと思うけど、上の指示だから仕方がない。」
「なるほどね...。
でも、地球人の姿の宇野さんに似合った名前だと思うよ。
なんかミステリアスな感じ。」
「そう言ってもらえるのは嬉しい。」
話が終わると、彼女は理科準備室の本棚を見つめた。
「あの本棚に並んでる本も天文部の持ち物なの?」
「うん。部費で買ったものだから、好きに読んで良いよ。」
そう答えると彼女は本棚のそばに寄り、ゆっくりと本を選び始めた。
「宇宙から来てるなら、もうすでに知ってる知識ばかりかもしれないけど。」
宇宙船で生まれ育った彼女なら、地球で調べられている宇宙についての知識以上のことを既に知っていそうだと思った。
「まぁ、否定はしないけど、この星から見た宇宙の認識を知りたいから、興味がある。」
「なるほど。
確かに、同じことでも、違う呼び方だろうしね。
地球に独自の知識なら星座についての本の方が面白いかも。」
「星座って...あの占いのやつ?」
「うん、基本的に神話が由来になってるんだけど、結構ツッコミどころが多くて、びっくりするかも。」
「へぇー、じゃあ読んでみようかな。」
彼女はそう言うと、星座についての本を持って、再び俺の隣の席に座った。
彼女は静かに本を読み始めたけど、しばらくすると眉間に皺を寄せて話し始めた。
「...なんか、神話に出てくる登場人物ってめちゃくちゃじゃない?みんな。」
「そうなんだよね。
初めて知った時、俺もびっくりした。」
「おおぐま座とこぐま座の話とか。」
「えーっと、確か、女神のアルテミスに仕えていたカリストっていう妖精にアルカスっていう子供がいることに、怒って、カリストを熊に変えちゃうんだよね?」
「そう、純潔の女神だから、子持ちなのが許せなかったって。
それで、そのことを知らないアルカスが、森で熊の姿に変えられたカリストを見て、お母さんだと気づかないで殺そうとするんだけど、それを見ていたゼウスっていう1番偉い神様が、アルカスも熊の姿に変えて、2人を空に放り投げて、おおぐま座とこぐま座になって2人仲良く暮らしたっていう話だけどさ...
いや、アルカスを熊の姿に変えるんじゃなくて、カリストを人の姿に戻しなよって思わない?
なんでこれでハッピーエンドみたいな感じになってるの?
ていうか、ゼウスってカリストの父親でしょ?
ゼウスとアルカスから生まれたのがカリストだから。
父親なら尚更戻してあげなよ。」
「俺も初めて読んだ時そう思った。
ゼウスってどの話でもやりたい放題なんだよね。」
「基本的に、功績を上げた場合も、罰する場合も空に放り投げちゃうのね。」
「そうそう、良いことしても悪いことしてもね。」
「なんか、教訓にならない話ばっかり。」
宇野さんは呆れたように笑いながら読んでいた。
「男女問わず美人なら神様に誘拐されちゃうし、姿変えられちゃうし、理不尽すぎるなー。」
「ゼウスの方が変身するパターンもあるしね。
俺、おうし座だけど、おうし座の由来は、ゼウスが牛に変身して、エウロパっていう美女に会いに行って、背中に乗せてそのまま連れ去って結婚しちゃうっていう。」
「そうそう、さっき読んだけど、なんで、その馴れ初めで幸せに暮らしましたっていうオチになるんだろうね。
エウロパの気持ちは?
神様だからって傍若無人すぎる。」
星座の元になったギリシャ神話自体が、現代の感覚だと理解できない話ばかりなので、仕方ないとはいえ、多くの人に知られる星座の由来がめちゃくちゃな話なのは、面白いと思う。
俺が宇宙に興味を持った要因の一つだったりする。
「まぁ、ギリシャ神話がモチーフになっていない星座も意外とあるんだけどね。」
「そうなんだ。例えば?」
「時計座とか、顕微鏡座とか、ハエ座とか。」
「え、そんなのもあるんだ。」
彼女はそう言うと、少しだけ考えた表情をした後に、
「...カマドウマ座はないの?」
イタズラっぽく笑いながら聞いてきた。
「残念だけど、昆虫で星座になってるのってハエ座だけなんだよね。」
俺も笑いながら答えた。
「なんだ、残念。ハエ座ってどう言う由来で名付けられたの?」
「特にないんだよね。」
「え!嘘でしょ?ないの?...ちょっと適当すぎない?」
彼女は信じられないという表情をして、笑っていた。
「そう思うよねー。
なんか、16世紀くらいにやたらと世界中で星座の名前がつけられてた時期があって、1920年代になって、88個までまとめられたらしい。
だから、由来がわからないのもそこそこあるんだよね。」
「へー、なるほど。
なんか、想像以上に昔の地球人って適当だね。」
彼女は楽しそうに笑いながら本を読み進めていた。
「私、誕生日が1/16でやぎ座っていう設定なんだけど、やぎ座の由来、1番嫌かも。」
「あれだよね、上半身が人間で、下半身がヤギの神様のパーンが、怪物が現れた時に、魚に化けて川に逃げようとしたけど、変身に失敗して、下半身は魚、上半身はヤギの姿になっちゃって、それを見て面白がった他の神々が、みんなに見せるために無理矢理空にあげたってやつ。」
「晒し者にするってどういうこと? みんな性格悪すぎじゃない?
こんな由来だって知りたくなかった。」
彼女は困ったような表情をしながら笑った後に、ため息をついていた。
「まぁ、そう思っちゃうよね。
でも、星自体はキレイだから、一旦、星座の由来は忘れて、天体観測で見てみると良いと思うよ。今の時期ならやぎ座も見られるし。」
「...可哀想なパーンを思い出しながら見ようかな」
宇野さんはそう言うと、もう一度本の続きを読み始めた。




