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「天川君、鍵、借りてもいい?」
「うん。はい、どうぞ。
放課後までに返してもらえれば良いから。」
「ありがとう。」
翌日の休み時間、琢磨と優吾とご飯を食べていると、宇野さんから声をかけられた。
彼女は俺から鍵を受け取ると、軽く笑顔を見せてから、教室を出て行った。
俺が引き続きお弁当を食べようとすると、琢磨と優吾が固まったまま、俺を凝視していた。
「...太星、なんで宇野さんと仲良くなってんの?」
琢磨は軽く眉間に皺を寄せながら聞いてきた。
「宇野さん、天文部入ったんだよね。
だから、昨日の放課後話した。」
「へぇーー、天文部入ったんだ。
部員、太星1人だったから、2人だけじゃん。」
琢磨はとても驚いていた。
「まぁ、そうだね。」
「同じ部活で、しかも2人っきりなんてなんて、周りからものすごい嫉妬されるぞ。ほら。」
優吾に言われて周りを見ると、確かに好意的ではない視線を複数人から感じた。
「それに、宇野さんとあの距離で向き合って緊張しないのすごいな。
俺、あまりにもキレイな顔してるから、目を合わせられる自信が無い。」
優吾が笑いながら言った。
「…昨日そこそこ話したからね…。」
俺は昨日の彼女とのやりとりを思い出していた。
「…協力者?…何を協力するの?」
彼女からの突然の申し出に、俺は戸惑っていた。
「地球に関するありとあらゆる色々なことを知りたいの。
そのための調査に協力して欲しい。」
協力…?宇宙オタクとはいえ、俺みたいな何の変哲もない人間に務まるのか?
「…俺、別に何か重要な情報を持ってるわけでもないし、本当に平凡でどこにでもいる男子高校生だけど、それが調査に役に立つの?」
そう言うと、宇野さんはクスっと笑った。
「別に、国家機密を知りたいわけじゃないよ。
この星の市井の人達が、何をして、何を考えているか、調べるのが私の仕事だから。
何をすれば良いかは、上からの指示があったらに言うね。
その時に協力してもらえれば大丈夫。
犯罪行為とか、命の危機にさらされるような危ないことをしてもらうことはないから安心して。
あくまで協力者には敬意を払って、丁寧に対応するのが決まりだから。」
現地調査ってことか。
それなら俺みたいな一般人だとちょうど良いのかもしれない。
何より、宇宙人に会えただけではなく、調査協力を依頼されて、これからも関わることができるかもしれないのだ。
万が一危ない目に遭うとしても、断る理由なんて1つもない。
俺が引き受ける気満々でいると、
「でも、1つだけ、必ず守って欲しい約束がある。」
彼女は人差し指を立てながら意味深に話した。
「…約束?」
「私が宇宙人であることは誰にも口外しないこと。2人だけの秘密にして。」
そう言うと、彼女は俺の目をじっと見た。
やっぱり吸い込まれそうになる。
「…うん。約束は守るよ。
…でも、もし俺が約束を破ったら…どうなるの?」
何か恐ろしい代償でもあるのかと思い、俺はおそるおそる尋ねた。
「元々、私の任務が終わる時に、協力者の頭の中の私が宇宙人であるという記憶を消す決まりなの。
私という存在も、そんな人がいたかもしれないな、くらいにぼんやりとしか思い出せなくなる。
そして、秘密をばらしたら、それが早まって、その時点で、天川君と天川君が秘密を教えた相手の記憶を消すことになるの。
もしそうなっても、天川君に危害を加えることはないけど、天川君が、宇宙好きなら、宇宙人に対しては優しくしておいた方が良いんじゃない?
今後良いことあるかもよ。
ちなみに私の任務は半年間です。」
彼女はそう言うと、小首をかしげながらニコッと笑った。
それなら大丈夫だ。
せっかく友好的に接してくれている宇宙人がいるのに、その信頼を裏切るような真似は絶対にしない。
これは俺にとっては大チャンスなのだ。
「なるほど…。分かった。もちろん協力するよ。」
俺がそう答えると、宇野さんはとても嬉しそうに顔を綻ばせた。
「…でも、俺からも質問していい?」
宇宙人と話せる機会なんて、滅多にないだろう。
聞きたいことは山ほどある。
「口外することが禁止されている事項以外で話せる範囲なら答えられるよ。どうぞ。」
「…じゃあ、宇野さんの故郷の星はどこ?」
「禁止事項に該当するから話せないな。
それに、私、故郷の星にいたことないの。
生まれたときから、宇宙船にいてずっとそこで過ごしてたから。
その宇宙船は、色々な惑星の現地調査をしていて、そこで生まれた子供達は教育と指導を受けて、ある年齢に到達したら、指定された星で現地調査をするの。」
…宇宙船で生まれ育った。
本当にSF映画みたいだ。
「宇宙船…すごいね。」
「まぁね。...でも、殺風景なところだよ。壁も天井も真っ白で娯楽もほとんど無い。
早く大きくなって、この宇宙船から出たいってずっと思ってた。」
「なるほど...性別って概念ある?」
「それは地球人と一緒。男と女がいて、有性生殖で子供が産まれる。」
なんとなく宇宙人のイメージで無性生殖なんじゃないかと思っていたので、意外だった。
「宇野さんって…何歳くらいなの?
地球人に換算すると。」
彼女は話し口調がとても落ち着いているから、もしかしてものすごい年上なんじゃないかと考えていたのだ。
「17歳だよ。寿命も地球人とほとんど一緒。」
「そうなんだ。
落ち着いてるから、何百歳とかなんじゃないかと思っちゃった。
敬語を使った方が良いかなとか。」
「ため口で良いよ。
それに協力者とは友好関係を築くのが理想だから、仲良くしよう。」
そう言ってにっこりと笑ってきた。
宇宙人と友好関係を築けるのは嬉しいけど、正直、想像していた宇宙人よりも美人すぎる。
これだけキレイだと、目を合わせて話すだけで照れてしまう。
「…宇野さんって、元からこの姿なの?地球人みたいな。」
「ううん、これは地球に合わせた姿に擬態している状態。
本当の私はこうじゃないよ。」
「え、そうなんだ。…本当の…宇宙人の状態だとどんな姿なの?」
今まで色々なSF作品や、UFOの目撃情報で挙げられてきた宇宙人の姿を思い浮かべながら、俺は質問した。
「カマドウマって虫いるでしょ?あれにすごく似てる、ほぼ一緒。」
「…カマドウマ?」
まさか...あのバッタみたいな虫?
…今の宇野さんからは全く想像できない。
宇宙人ってあんな感じなんだ...。
でも、その事実を知ると、今のキレイな彼女を見ても、緊張せずに接することができそうだと思った。
彼女の真の姿はカマドウマ型宇宙人。
俺は自分に暗示をかけた。
「…ああいう感じなんだ…。全然違うね。」
「まぁ、その星の生命体の姿に合わせるのが基本だからね。
私がカマドウマみたいな姿だと、皆、驚いて怖がるでしょ?調査どころじゃなくなっちゃう。」
巨大なカマドウマ姿の宇野さんが教室にやってくる姿が頭の中に浮かんだ。
確かに、これじゃあパニックホラーだ。
「...そうだね。…でも、よかった。」
俺がそう言うと、彼女は不思議そうな表情をした。
「…何がよかったなの?」
「ほら、宇野さん、ものすごい美人だから、今の姿だと話すの緊張しちゃうけど、本当はカマドウマに似てる宇宙人なんだと思ったら、普通に話せる気がする。」
俺がそう話すと、彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような表情をした後に、吹き出した。
「あはは、そんな風に言われたの初めて。
天川君、面白いね。」
そう言って今までで一番の笑顔を見せてくれた。
その表情はとんでもなく可愛くて、彼女が本当はカマドウマの姿をしていると知らなければ、一瞬で恋に落ちてしまいそうな破壊力があった。
「じゃあ、天川君との間では、私のことはカマドウマ星人って称することにしよう...。
ただ、元の姿の私もカマドウマ星人の中だと美人なんだよ。
細長くてしなやかな触覚を持つほどキレイとされているから。
擬態してるときの姿って、基本的にカマドウマ星人の時のビジュアルに比例した状態になるから、元の状態が美人であればあるほど、地球人の時のビジュアルも美しくなるって感じ。」
「へー、面白い。ルールがあるんだ。」
まさか、宇宙人とこんなに気さくに話せる日が来るなんて。
宇宙が好きで、ずっと星空を眺めて思いを馳せていた小さい頃の自分に教えてあげたい。
「例えば…超能力みたいな力ってあるの?
物に触れずに動かせるみたいな。」
「うーん...あることは否定しないけど、その星の生命体に擬態しているときは、基本的に使わないように言われてるんだ。
宇宙人だってバレちゃう可能性があるから。
何か自分の身に危険が迫っているとき以外は。」
「そっか、残念。
ちょっと見てみたかった。」
「…結構すごい力だから、びっくりしちゃうかもよ。」
そう言うと彼女はいたずらっぽく笑った。
「…そんなに強力な力があるなら、地球を侵略できちゃうかもね。」
俺がふざけて言うと、彼女は黙ったまま、穏やかな笑みを浮かべていた。
え、否定しないの?
「…え?もしかして…地球侵略が目的だったりする?」
俺が不安そうに質問すると、しばらく黙っていた彼女はまた吹き出した。
「あはは、もう、天川君、すぐに信じすぎだよ。私たちはあくまで調査が目的だから。
故郷の星は土地も資源も豊富だし、何より平和なんだよ。
わざわざ戦争を仕掛けたりはしない。
私たちの目的は、役に立つ知見を持ち帰ることだし、未知の生命体に対する知的好奇心が原動力だから。」
笑顔で彼女に言われて心底ほっとした。
「よかった…。
協力者になったことで地球侵略に加担しちゃうかと思った。」
俺が安心していると、
「まぁ….今のところはね。
それも、天川君次第かもしれないから、たくさん協力してね。」
そう言って彼女は意味ありげな笑みを浮かべた。
…やっぱり俺はとんでもないことをOKしてしまったのかもしれない。
「…ねぇ、屋上まで連れて行ってくれない?協力者ができたこと、報告したいから。」
彼女にそう言われ、俺はキーボックスに入っている屋上の鍵を取り出して彼女と一緒に屋上ヘと向かった。
屋上に出ると、日が暮れかけていた。
「誰かが来たら困るから、鍵かけておいて。」
「…俺がここにいてもいいの?
報告するところ見ちゃってて。」
「うん、どんな人が協力者か、上にも見てもらうから。
私の隣に立ってて。」
そう言われたので、俺は彼女の隣に並んだ。
「ちょっとおでこ触らせてね。
その方がクリアに伝わるから。」
彼女の右手が俺のおでこに触れた。
その手はとても冷たくて、触れられた瞬間とても驚いてしまった。
宇宙人って体温が低いのかな。
俺がそんなことを思っていると、彼女が深呼吸をしてから目を閉じた。
その瞬間辺りを冷たい風が一気に通り抜けた。
彼女はそのまましばらく動かなかったので、俺はどういう状態でいればいいのか分からず、そのまま棒立ちしていた。
1分ほど経つと、彼女はゆっくりを目を開けてから俺の方を見た。
「…これでよし、ありがとう。
天川君は晴れて協力者になりました。
よろしくね。」
そう言って彼女は微笑んできた。




