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宇野さん誕生日から一番近い土曜日、俺はいつもの曲がり角で彼女と待ち合わせをしていた。
試験と部活で今まで2回彼女と校外で会ったことはあったけど、俺から誘って外出するのは初めてだし、調査のためと理由を付けたものの、彼女への好意を自覚している以上、自分の中で、これはデートなのではないかと浮かれる気持ちもある。
過去2回の外出では、自分の格好に全く無頓着だったので、襟付きの長袖シャツに、チノパンという、ファッションのことなど何も考えずに選んだ服装だった。
ただ、さすがにデートとなるともう少ししっかりと服装を選んだ方がいいのではないだろうかと考えて、クローゼットの中の手持ちの服を一通りベッドの上に並べてみたけど、長袖の服はほぼ全て似たような襟付きのシャツで、ズボンもチノパンとジーンズしかなかった。
どれもユニクロでまとめ買いしたものだ。
恐ろしいほどバリエーションが無いし、洒落っ気もない。
新しく服を買うことも考えたけど、俺が気合を入れた服装をして行って、驚かれたり、引かれたら元も子もない。
大人しく、いつもの服のレパートリーの中から今日の服装も選んだ。
まぁ、デートって思ってるのは俺だけだろうし、誕生日祝いの調査ってことにしてるから、急に色気付いたことをするのも違う気がするし...。
そんなことを思っていると、曲がり角の向こうから声が聞こえた。
「太星君、お待たせ。」
そう言って笑顔で現れた彼女の姿を見て、俺は目を見開いた。
過去2回と同じく今日もワンピースだったけど、膝上丈の真っ白なワンピースに、襟と手首にファーのついたベージュのコート、黒いタイツに、リボンのついた茶色のショートブーツ、肩からはピンク色の小さなポーチが掛かっていて、当たり前のように俺がプレゼントしたピンクの手袋をしていた。
彼女はいつも髪を下ろしていて、ヘアアレンジもほとんどせず、せいぜい体育の時に緩くポニーテールにするくらいだけど、今日の髪の毛は全体的に緩くウェーブがかかっていて、キラキラと光るバレッタを付けてハーフアップにしていた。
首元には華奢なネックレスが光っており、両耳には小さなイヤリングが揺れている。
普段メイクなしでも充分過ぎるほど整った顔立ちは、薄いメイクを施されていることで、いつもの数倍その造形の美しさが際立っている。
元々、自分の人生で出会った人の中で一番キレイだと思っていたけれど、こうして完全装備された姿を見ると、思わず怯んでしまうほどの眩しさを放っていた。
あまりにもキレイ過ぎる。
自分の本来の美のポテンシャルがあまりに高過ぎるので、普段はわざとを抑えているのではないかと思ってしまうほどだった。
...俺みたいなのが隣に立っていいのか?
驚いて目を見開いたまま固まっている俺の姿を見た、宇野さんは、キョトンとした表情をしてから、
「天川君、どうかした?」
そう聞いてきた。
あまりにもキレイすぎて驚いてしまったと答えたいけど、衝撃的すぎてうまく言葉が出てこない。俺がもごもごと口を動かしていると、その様子を見た宇野さんはイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「なにー?私が可愛いからびっくりしちゃった?」
おどけるように、軽く笑いながらそう言われて、
「うん。キレイすぎてびっくりした。」
まるで脊髄反射のように俺は答えた。
人は、あまりにも図星だと、素直になってしまうらしい。
俺の答えを聞いた彼女は驚いた後、嬉しそうに顔を赤らめた。
「それは...素直でよろしい。」
彼女にそう言われてから、2人で顔を見合わせて笑い合った。
「頑張って、準備したからね。
すごく楽しみにしてたし、誕生日祝いだし...デートかなって思ったから。
デートの時は頑張って可愛くなろうとするものだと聞いてます...だから、褒められて嬉しい。」
はにかみながら上目遣いで言われ、心臓に矢が刺さった気がする。
俺は思わず両手で胸を押さえた。
なんだこの可愛すぎる台詞は…落ち着け、俺。
「...そうだね、せっかくの...調査なんだし、本気でやらなきゃね。」
あくまで、調査という名目で彼女を誘ったのだ。
俺が下心を出しすぎてはいけない。
自分を冷静にさせるためにそう言うと、彼女は一瞬不服そうな顔をしたけど、またすぐに笑顔に戻った。
「うん。何事も全力でね。」
そう言って眩しすぎる笑顔を向けてくる。
何度見ても、今日の彼女の可愛さは異常だ。
あまりに光り輝いているので、こちらが若干卑屈になってしまうほどだ。
「...なんか、俺が横に立ってるのが申し訳ない。ごめんね、オシャレでもないし。」
おそらく時間をかけてこの姿になったであろう彼女に対して、服選びは時間がかかったけど、結局いつも通りの服装を選んで着てきただけの自分が申し訳なくて、そう言うと、
「全然そんなことないよ。
私、太星君の格好、落ち着いてて好きだよ。」
彼女は笑顔で励ましてくれた。
ビジュアルだけでなく気遣いまで抜け目がなさすぎる。
彼女が今日1日楽しめるように頑張らなければ。
そう思って、俺は深呼吸をしてから気合を入れ直した。
「ありがとう。そう言ってもらって嬉しい。
じゃあ、行こうか。」
俺がそう言うと、彼女はにこやかに頷いた。
誕生日祝いを誘ってから、当日彼女に何をしたいか聞くと、
①文化祭のプラネタリウムに感動したから、本物のプラネタリウムに行きたい
②美味しいチョコフォンデュが食べたい
と、2つ希望を出されたので、どちらも叶えることにした。
まずは、駅から電車で40分ほどで、この地域最大規模のプラネタリウムがあるので、そこへと向かった。
「楽しみだなー何度もホームページ見ちゃった。
太星君は行ったことあるんだっけ?」
「うん。何回か行ったことあるけど、何度見ても良いなって思う。
元々解説付のバージョンだけだったんだけど、何年か前にリニューアルして、映像だけの解説なしのバージョンができたんだよね。
解説なしのバージョンは新しい投影機を使ってるから、映像が本当にキレイで、BGMもアニメとかの曲を作ってる有名な作曲家の人がこのプラネタリウムのために作った曲が流れるから、すごい迫力がある。」
このプラネタリウムがリニューアルされてから初めて行ったとき、まるで本当に宇宙にいるような感覚になり、そのクオリティの高さに感動して、少しだけ泣きそうになってしまった。
宇野さんにもそう説明しようかと思ったけど、実際に宇宙船にいた宇宙人の彼女にまるで宇宙にいるみたいだと言うのもおかしな気がしたので、その感想は伝えなかった。
「あー、楽しみだな。早く着いて欲しい。」
彼女は、誘ったこっちが嬉しくなってしまうほど、ワクワクしているようだった。
文化祭のプラネタリウムであれほど喜んでいた彼女なら、実際のプラネタリウムも楽しんでくれるだろう。
俺も彼女と同じように、電車がプラネタリウムの最寄り駅に着くのが待ち遠しかった。
40分ほどで目的の駅に到着してから、プラネタリウムに向かって歩いていると、すれ違う人々の視線を感じた。
「見て、あの子。すごい美人」
「めちゃくちゃ可愛いじゃん」
「芸能人みたい」
元々注目を集める容姿をしている宇野さんが、服装もメイクもフル装備だと、さらに人目を引いていた。
「…隣の人、彼氏?」
「…うーん、なんか微妙」
「釣り合ってなくない?」
そんな眩しい美しさを放つ彼女の隣にいるのが俺のようなパッとしないやつだと、そう言われてしまうのも無理はない。
なんとなく卑屈な気持ちになってしまいながら歩いていると、そんな俺の様子を見ていた彼女が立ち止まった。
「どうしたの?」
いつものように顔を覗き込まれる。
当たり前のように距離が近いうえに、いつも以上に光り輝いているので、眩しく感じる。
どうしても、そんな彼女と自分を比べてしまって、卑下するような気持ちを隠せなかった。
「いや...宇野さんは褒めてくれたけど、今日の宇野さんいつも以上にキレイだし、周りから見たら、俺、釣り合ってないよなって思って...ごめん、なんか暗くて。」
あまり自虐をしすぎたら、彼女を困らせてしまうのは分かっているけど、今日の彼女があまりにもキレイなので、引け目を感じて、ネガティブな言葉がつい口に出てしまう。
俺の表情を見ていた宇野さんは、自分のことを噂している周囲の人々を一瞥した後に、俺の顔の前に自分の手を出してきた。
「太星君、手を繋ぎましょう。」
「えっ!?」
思ってもみなかった申し出に俺が驚いていると、
「デートなんだから、手は繋ぐでしょ?
...調べたらそう書いてあったし。
あと、私、太星君と初めてのデートをすっごく楽しみにしてたの。
だからこんなにメイクもファッションも頑張ったの。
そのせいで、そんな風に言われたら...正直、悲しい。今日は楽しもう、ね?
私の誕生日祝いなんだから、私のお願い聞いて。」
彼女はそう言いながら、ずっと手を出し続けていた。
彼女が今日のデートを楽しもうとしてるのに、誘った俺が、彼女を悲しませるなんて、絶対にあってはならないことだ。
勝手にネガティブなことばかり考えて、彼女に気を遣わせるなんて情けない。
しっかりしろ、俺。
俺は自分の頬を両手で叩いて気合を入れた。
よし、もう周りなんて気にしない。
今、目の前にいる彼女だけを見ればいいんだ。
「宇野さん、ごめん、もう暗いことは絶対に言わない...デート楽しもう。」
俺はそう言ってから、しっかりと彼女の手を握った。
手を繋ぐと彼女は満面の笑みになった。
「うん、よろしい。...でも、ちゃんと下の名前で呼ぶのも忘れないでね。」
「...ごめん。」
やはり、いつも彼女を下の名前で呼ぶことをつい忘れてしまう。
これはもう慣れるしかない。
俺は咳払いをしてから、口を開いた。
「じゃあ、行こうか...宙。」
彼女をまっすぐ見つめて言うと、彼女は満足そうに微笑んだ。
「うん。よろしい。行きましょう。」
彼女がそう言ったので手を繋いだままプラネタリウムに向かって歩き始めた。
なんか、今日は”よろしい”ってよく言うな。
言い回しがちょっとおどけているようで、おかしくて、ふと彼女の横顔を見ると、彼女の耳が赤くなってることに気づいた。
...これは彼女なりの照れ隠しなのか。
だとしたら...めちゃくちゃ可愛いな。
そう思ってついニヤけてしまった。




