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「皆さんこんにちは。
今日は冬に見られる星座について説明したいと思います。
まず、この写真に写っているのが、冬の星座を探す目印になるオリオン座です。
この星座は長四角形の中央に3つの星が並ぶ姿がとても印象的です。
3つの星を結んで下に伸ばすとおおいぬ座のシリウスが見つかります。
オリオン座のペテルギウス、おおいぬ座のシリウスを結び、東側に見えるこいぬ座のプロキオンを結んだ三角形が冬の大三角です。
この3つの星を結んで上に伸ばすと...」
科学館の職員である中村さんが用意したスライドショーを、参加者である20人ほどの小学生の後ろから、俺と宇野さんは並んで見ていた。
今日は子供向けのイベントの手伝いなので、お揃いの緑のエプロンを借りている。
彼女はグレーの膝下が隠れる丈のワンピースを着ていた。
天文宇宙検定の時もワンピース姿だったので、ワンピースが好きなのかなと俺は思った。
中村さんのスライドショーには、実際の星の映像や写真が多用されていて、参加している子供たちの興味を惹きつけていた。
ふと隣に立つ宇野さんに目をやると、彼女も興味深そうに、スライドショーを見ていて、彼女の大きな瞳には、スライドショーで提示された星空が浮かんでいた。
目が大きいと映る星も多く見える気がする。
...キレイだな。
そんなことを思っていると、宇野さんが俺の視線に気づいて、小声で話しかけてきた。
「どうかした?」
「...すごい真剣に聞いてるなって思って。」
俺がそう言うと、彼女はニコッと笑った。
「すごくしっかりした説明だから面白い。写真も映像もキレイだし。
これを見たら、天川君みたいに、宇宙好きになる子たちも増えそうだね。」
「...俺くらい好きになったら、マニアすぎて、周りに引かれちゃいそうだけどね。」
俺が自虐的に言うと、
「...それもそうかもね。」
彼女はイタズラっぽく笑いながら答えた。
「うーん、否定しないんだ。」
俺が苦笑いで答えると
「太星君の宇宙好きはすごいと思うけど、もっと他のものにも興味を持った方がいいと思う。」
「まぁ...前よりは、宇宙以外にも興味持つようになったと思うけど。」
俺がそう話すと、彼女は少し驚いた表情をした後に、ぐいっと顔を近づけてきた。
「え?何に興味持ったの?教えてよ。」
彼女が好奇心に満ちた眼差しを向けてきた。
毎度のことながら、距離が近すぎる。
「...内緒。」
俺がそう答えると、彼女は不満そうに頬を膨らませた。
「えー、ケチ。」
「...ほら、小声でも話してたらうるさいから、大人しくスライドショー見よう。」
「...はーい。」
彼女は納得してなさそうだったけど、手伝いに来ている以上、迷惑をかけたらまずいと思ったのか、大人しくスライドショーに集中し始めた。
「では今から、星座早見盤を作ります。
材料を渡していくので、僕の説明を聞きながら、一緒に作っていきましょう。」
スライドショーが終わると、中村さんがそう宣言したので、俺と宇野さんは用意していた工作キットを配り始めた。
配布している彼女の姿に子供達が見惚れているのが分かる。
このボランティアでは、子供達の工作のサポートをして、声をかけて回るのだけど、誰が彼女に手伝ってもらうか、争奪戦になりそうな予感がした。
「お姉さん、ここどうやるの?」
「お姉さん、こっちも教えて。」
「おねえーさーん!」
実際に作り始めると、予想通り宇野さんは子供達から声をかけられ続け、引っ張りだこだった。
やっぱり美人は年齢を問わず好かれるものなのだ。
「うーん、じゃあ、お兄さん、教えて。」
彼女が人気すぎて、順番待ちになってしまった子供達が、渋々俺に声をかけてくる。
なんとなく切ない気持ちになりながら、俺は対応をした。
30分ほどで星座早見盤は完成し、あちらこちらから子供達の歓声が上がっていた。
子供達が嬉しそうな姿を見るのは微笑ましい。
ましてや宇宙に関するものだと尚更だ。
「お姉さんできたよ!」
「こっちもこっちも!」
星座早見盤が完成した後も宇野さんは大人気で、あちこちから声をかけられていた。
彼女は呼んでくれた子供達一人一人に笑顔でしっかりと対応していて、笑顔を向けられた子供たちはとても嬉しそうだったし、彼女も、同級生相手だと、見せないような屈託のない笑顔を見せていて、楽しんでいるようだった。
...子供、好きなんだな。
保育士さんとか似合いそう。
ふとそんな風に思ったけど、そもそも彼女は宇宙人だ。
そんな未来が来ることはない。
彼女の協力者だというのに、彼女が宇宙人であることを忘れかけるなんて、俺はどうかしてる。
そう思って自嘲気味に笑ってしまった。
「お疲れ様。大人気だったね。」
イベントが終わり、完成した星座早見盤を持った子供達が嬉しそうに帰っていく様子を目を細めながら見ていた宇野さんに声をかけた。
「うん、たくさん話せて楽しかったよ。
あれくらいの子供たちって、結構しっかりしてるようで子供らしいところもあって、すごい可愛かった。」
宇野さんは嬉しそうに答えていた。
「楽しんでもらえたなら良かった。
これも大事な天文部の活動だからさ。
休みの日にありがとうね。」
2人でそんなことを話してると、
「あの!お姉さんたち!」
何度も宇野さんに声をかけていた小学校低学年くらいの女の子2人組が、声を掛けてきた。
「どうしたの?」
宇野さんが彼女たちに目線を合わせるために、屈んでから答えた。
2人はお互いに目を合わせていたけど、ツインテールの子がポニーテールの子を肘で突いて、何かを言うように促すと、ポニーテールの子がゆっくりと口を開いた。
「...お姉さんと、お兄さんは...付き合ってるの?」
思いがけない質問をされて、宇野さんは目を丸くしていた。
「えーっとね...」
「うん、そうだよ。付き合ってる。」
どう答えようか迷っていたであろう、宇野さんは、俺がこの質問に即答したことに驚いていた。
俺の答えを聞いた2人はきゃーと歓声を上げた。
「わぁー!ラブラブだー!」
彼女たちはその場でぴょんぴょんと跳ねながら、興奮していた。
「うん、そうだね。
もう、帰る時間だから、2人とも気をつけて帰ってね。」
俺がそう言うと、2人は元気よく、「はーい」と返事をして、駆け足で部屋から出て行った。
宇野さんはまだ驚いた様子で俺のことを見ていた。
「...びっくりしちゃった。即答したから。」
彼女にそう言われ、
「...付き合ってる設定なら、否定しない方がいいでしょ?
...うちの高校の生徒の兄弟かもしれないし。
念には念を入れた方がいいかなって思って。」
俺が最もらしく答えると、彼女は照れくさそうな笑顔になってから、
「...そうだね。」
と答えた。
「天川君も宇野さんもお疲れ様。今日はありがとうね。」
子供達を見送っていた中村さんが戻ってきて俺たちに声を掛けてきた。
「お疲れ様でした。こちらこそありがとうございました。」
「ありがとうございました。スライドショーすごい面白かったです。」
2人でお礼を伝えると、中村さんは嬉しそうに笑顔を向けてくれた。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。天川君はもう5回目だから、何でも任せられて安心だったし、宇野さんはすごい人気だったね。
子供達にあのお姉さんに次はいつ会えるの?って何度も聞かれたから。」
「そうなんですね…実は私、3月には転校することになってるんで、今回が最初で最後で…またあの子達に会いたかったです。残念。」
彼女はあと2ヶ月半で調査を終えて、この町を去るのだ。
分かっているはずなのに、改めてその事実を思い知らされると、俺は胸が苦しくなる。
「えー、そうなんだ、残念だな。転校先でも元気でね。
天川君は次もよろしくね。」
「はい。」
彼女が参加せず、俺一人で手伝うことになるであろう次回のイベントに、今回参加した子供達がまた来たら、"あのお姉さんは?"と聞かれるのが目に浮かんだ。
片付けを終えた後、科学館の玄関から外へ出ると、全身に冷たい風が吹き付けた。
「やっぱり寒いね。さすが1月」
宇野さんはそう言いながら、俺がプレゼントしたピンク色の手袋をはめた。
...悩みながら選んだ品を、相手がきちんと使ってくれると、こんなに嬉しいのか。
俺は思わずにやけた。
「使ってくれてるんだね。」
俺が声をかけると、彼女はパッと笑顔になった。
「もちろん!すごい温かいから助かってる。
いいプレゼントくれてありがとうね。」
俺に対して心を許してくれるからこそ見せてくれるであろうあまりにも魅力的な笑顔を目の当たりにしながら、この年末年始で心に決めていた計画を実行することにした。
「…寒いけどさ、良かったら、一緒に初詣行かない?」
俺が誘うと、彼女はまた目を丸くしていた。
「…今後の調査も無事に終えられるように、願掛けも込めて。
初詣って、場所によっては1/8くらいまでだから、今日行っても充分間に合うし、それに三が日を外してるから、混んでないと思うし、やっぱり日本の伝統行事だから、調査も兼ねて行くのはアリなんじゃないかって…」
天文部の行事以外で彼女を誘うのは初めてだった。
ずっと、協力者としては出過ぎた真似なんじゃないかと思って躊躇っていたので、誘うのには勇気が必要だったけど…どうしても彼女を誘いたかった。
断られるのが怖くて、俺は一緒に初詣に行くべき理由をつらつらと並べてしまっていた。
お願いだから断らないで欲しい。
そう願いながら言葉を重ねる俺の様子を見ていた宇野さんは、ゆっくりと笑顔になった。
「…そうだね。うん、行こう。」
彼女が承諾してくれたので、俺は心の底からほっとした。
科学館から歩いて15分ほどの神社に向かうと、予想通り空いていて、すぐにお参りすることができた。
賽銭箱の前に立ち、ここはベタにご縁がありますようにの意味で5円玉を賽銭箱に入れた。
二礼二拍手をしてから目を瞑って、願い事を心の中で唱えた。
俺の大事な人たちが健康で幸せでありますように。
…何より、宇野さんの調査が上手くいきますように。
願いを心の中で思ってから目を開けて、隣に立つ宇野さんを見た。
彼女は目を閉じたまま真剣に祈っていた。
西陽に赤く照らされるその横顔はとても美しくて、神々しさすら感じた。
...今までみたいに、どんなに彼女の真の姿がカマドウマに似ているのだと心の中で唱えても、俺の中の彼女を愛おしく思う気持ちは消えなかった。
もう誤魔化すことはできない。
俺は彼女のことが好きなんだ。
ゆっくりと目を開けた彼女は、俺の視線に気づくと、俺を見て、ニコッと笑った。
その笑顔を見て...胸がギュッと締め付けられて、苦しくなった。
帰り道を2人で並んで話しながら歩いた。
「太星君、何をお願いしたの?」
「…内緒。こういうのって言うと実現しなくなっちゃうらしいから。」
「えー、ちょっとぐらい良いじゃん。
なんか今日の太星君、内緒ごとが多くて残念。
科学館でも何に興味を持ったか教えてくれなかったし。」
彼女は頬を膨らまして不満げに呟いた。
「…じゃあ、そっちは何をお願いしたの?」
「それは内緒。」
「…おあいこじゃん。」
俺がそう言うと、彼女がこちらを見たので2人で顔を見合わせて笑った。
…俺が宇宙以外でこんなに興味を持ったのは宇野さんが初めてだよ。
宇野さんのことが好きな気持ちを伝えたいけど、俺が好きだと言ったら、純粋な協力者ではいられなくなる。
きっと彼女との間に距離ができてしまうだろう。
そうすれば彼女は協力者がいない状態で、調査任務をしなければいけなくなって、結果的に彼女の仕事に支障をきたすかもしれない。
彼女のここまでの頑張りも無駄になってしまう可能性もある。
...それは絶対にダメだ。
俺は彼女の任務の妨げだけはしたくない。
だから、好きだと伝えることはできない。
…でも、言葉にできなくても、せめて、態度で、行動で彼女を大切に思っていることを伝えたい。
俺は、お父さんが切なそうにお母さんへの気持ちを話している姿を思い出していた。
「…あのさ、宇野さんの誕生日って1/16だよね。」
「うん、そうなってる。」
「…一緒に出かけない?誕生日祝いで。」
緊張しながら提案すると、彼女はまたしても驚いて目を丸くしていた。
「…地球の誕生日祝い、味わってみたら?
…調査の一環。」
調査という言葉を都合良く使ってしまっているのは否めないけど、彼女に好意を伝えることができない以上、誘う理由としてはそう言うしかない。
俺の言葉を聞いてから、彼女は俯いて黙っていた。
…嫌だったかな。
不安な気持ちのまま、彼女の様子を窺っていると、
「…うん。行きたい。」
彼女はそう言って顔を上げて俺を見た。
両頬が赤く染まって、恥ずかしそうにはにかむ姿は、恐ろしいほど可愛くて、とんでもなく魅力的だった。




