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テーブルの上には、お母さんと亜子ちゃんが作った料理が所狭しと並んでいた。
「全部並べるとテンション上がる!」
亜子ちゃんは何枚も写真を撮っていて、撮れた写真を画面で確認して満足そうに笑顔を見せた。
「じゃあ、皆グラスを持ってね。乾杯!」
4人で食卓に着き、俺と亜子ちゃんはジンジャーエール、お母さんと成田さんはシャンパンが入ったグラスを持って、乾杯をした。
クリスマスパーティーはとても盛り上がった。
会話が途切れることはなく、笑いすぎて顔の筋肉が痛くなるほどだった。
食事を一通り食べ終わった後は、亜子ちゃんと成田さんがテレビゲームをやっていた。
「ちょっと!お父さん!早く動いて、右!」
「うわっ、待って、右?」
「ほらー、遅いよもう!」
2人が楽しそうにゲームをしている姿を、俺とお母さんはソファーに座って後ろから見ていた。
再婚話が無くなったことで、逆に家族団欒ができている気がして、不思議な感覚だった。
4人で楽しく過ごしていると、ふと、宇野さんのことが思い浮かんだ。
今、彼女は、何してるんだろう。
一度気になりだすと、頭から離れなくなり、俺はスマホを取り出して、彼女にメッセージを送った。
“急にごめん、今、電話かけても大丈夫?”
すると、送信してすぐに返信が来た。
“大丈夫だよ、待ってる”
そのメッセージを見てすぐに、俺は自分の部屋に向かって電話をかけた。
何コールかすると、彼女が電話に出た。
「もしもし?」
いつもの彼女の声が聞こえてほっとする。
「もしもし?急に電話かけてごめん。」
「ううん、大丈夫だよ。何かあった?」
そう聞かれて、一瞬、答えに詰まってしまった。
率直に言うと、彼女が今、何をしてるか気になって、声が聞きたくて電話したのだけど...それだと協力者としての範疇を超えてしまっている気がする。
「えーっと...この前のお礼、やっぱりちゃんと伝えたくて。」
先日、お母さんに自分の本心を伝えられた後、宇野さんに、お母さんに再婚してほしくないと訴えて、受け入れてもらったことをメッセージで送っていて、彼女は、とても安心したと返信をくれたのだった。
「そんな、わざわざ、良いのに。でも、本当に良かったね。」
彼女が電話口でも安心しているのが分かった。
「うん。良かった。今日、クリスマスだがら4人で集まってるんだけど、なんか、今までで一番楽しいし、自然にいられてる気がする。
ちゃんと本音を言えて良かったよ。
宇野さんのおかげ。本当にありがとう。」
「役に立てたなら良かった。」
声を聞くだけで、彼女の優しい笑顔が思い浮かんで、俺も自然と笑顔になった。
「...今、何してたの?」
「うーんと、ざっくり言うと、この3ヶ月の調査の中間報告を上にしてた。
もう、折り返し地点だからね。本当にあっという間。」
その言葉を聞いて、彼女が来年の3月いっぱいで、いなくなってしまうことを、思い知らされる。
分かっているけど、その事実を聞くと、胸が締め付けられて苦しくなる。
「...そっか、任務お疲れ様。」
「ありがとう、もう今日の分は終わったから、休んでたんだ。」
「そうなんだ...宇野さんの待機場所ってどんな感じなの?」
ずっと、学校以外の彼女はどんな場所にいるのか気になっていた。
宇宙船みたいなところなのか、あるいは普通の部屋なのか。
「うーん、詳しく話すのは禁止事項に該当するからざっくりとしか言えないけど、イメージ的には繭みたいなところかな?白くて丸い。
でも窓はあるから、外は見えるよ、今も月が見える。」
繭みたいなら、イメージ的には宇宙船で合っていそうだ。
彼女に言われて、窓の外を見ると、立派な満月が見えた。
「...本当だ。月、キレイだね。」
そう言ってから、そう言えば、”月がキレイですね”には”愛している”の意味があったことに気づいた。
しまった。意味深だったかもしれない。
「いや、あのえーと、これにはそんな深い意味は、」
電話口で、しどろもどろになっていると、
「本当だね。すごいキレイ。」
宇野さんは穏やかな声で返してきた。
...これは、”月がキレイですね”に”愛している”の意味があることを知らないのかもしれない。
俺はほっと胸を撫で下ろしてから、返事をした。
「うん。本当に。」
5分ほど電話してからリビングに戻り、ソファーに座っていたお母さんの隣に腰を下ろした。
「どこ行ってたの?ずいぶん長かったけど。」
お母さんに聞かれて、
「ちょっと電話してた。」
そう素直に答えた。
こういう時に誤魔化しても、俺はすぐにボロが出るのだ。
「ふーん...宙ちゃん?」
「...まぁね。」
俺の答えを聞いて、お母さんはニヤっと笑った。
「良かった、良かった。クリスマスイブにお互いの声を聞いているだけでも、まぁ、良いでしょう。」
お母さんは腕を組んで、何度も頷いていた。
「...なんで、お母さんに評価されなきゃいけないの。」
俺は思わず苦笑いをしながら返した。
「お付き合いしていくうえで、こういうイベントごとを、大事にできるかって、長続きできるかの分かれ道な気がするから。
せっかくのクリスマスなんだし、たとえ電話でも、愛の言葉くらい言ってあげたの?」
お母さんはニヤニヤしながら聞いてきた。
息子の心配よりも、野次馬根性の方がありそうだと思ったけど、その質問を受けて、さっき宇野さんと交わした”月がキレイですね”のくだりを思い出した。
「...まぁ、それなりにね。」
俺がそう答えると、お母さんは目を丸くしながら驚いた後、笑顔になって、俺の頭を勢いよくわしゃわしゃと撫でた。
「何?髪ぐちゃぐちゃになるじゃん。」
俺が乱れた髪の毛を直しながら抗議すると、
「子供の成長が嬉しいってことだよ。」
お母さんは満面の笑みを俺に向けた。
「あけましておめでとう。」
年が明けた1/3、俺はお父さんの家に遊びに行っていた。
「あけましておめでとう。ピザ、もうすぐ届くから。」
毎年、年越しから1/2まではお母さんと過ごし、1/3はお父さんと過ごしている。
お母さんはしっかりとおせち料理を用意するタイプだけど、お父さんは季節や行事関係なく食べたいものを食べる人なので、毎年、お正月に遊びに行くとジャンクフードを用意してくれている。
こういう考え方のズレが、もしかしたら夫婦関係が上手くいかなくなった要因なのかもしれないと勘ぐってしまうけど、2人の間を行き来する子供としては、休みの間、違う種類の食事が用意してある方が嬉しかったりする。
「いつからいつまで休みなの?」
部屋のソファーに座ってからお父さんに質問した。
「今年は昨日と今日が休みだよ。明日から仕事。」
「大変だね、新年早々。」
「まぁ、慣れだよね、これは。」
俺が成長するにつれて、お父さんは前よりも進んで休みの日に仕事をするようになっていた。
どこも人手不足だからとお父さんは言っていたけど、以前、仕事に没頭していた方が、色々な悩みを忘れられると話していたので、プライベートの悩みを、仕事の忙しさで紛らわしているのかもしれないと思っている。
「学校は1/7からだよね?それまで、どこか行ったりするの?」
「明日、天文部のボランティアで、科学館でイベントの手伝いをするくらい。」
うちの高校の天文部は、長期休みに同じ市内の科学館での天文イベントの手伝いをしている。
主な仕事は子供達の星座早見盤の工作を手伝うことだ。
夏休みと冬休みの自由研究として利用する児童も多く、毎年盛況になるイベントである。
「…太星、天文部の人と、付き合ってるの?」
お父さんは俺の様子を窺いながら聞いてきた。
お父さんが俺に恋愛話を振ることなんてなかったので、質問されて驚いてしまった。
「ほら…お母さんからこの前、連絡があってさ。」
そうか、お母さんから聞いたのか。
それなら納得だ。
「…うん。付き合ってる。前に話した転校生の子。」
「そっか…。」
お父さんはそのまま黙っていた。
お母さんは、お父さんと事務的な会話しかしようとしないので、雑談で宇野さんの話をしたとは思えない。
たぶん、俺が再婚に反対したときに、本当は両親揃って一緒に過ごしたかったと言ってたのをお父さんに伝えたのだろう。
そしてその時に、俺が宇野さんのおかげで本心を言うことができたことも一緒に教えたのかもしれない。
「…お母さんから、色々話を聞いたよ…太星が、再婚、反対したって。
それに、俺とお母さんと3人一緒にいられなかったのが寂しかったって…本当にごめん。ずっと寂しい思いをさせて。」
お父さんはそう言うと頭を下げた。
「いいんだ、俺も、寂しいって言わなくてごめん。
変に我慢しちゃったから…もっと早く言えば良かった。」
俺がそう言って謝ると、
「いや、太星は悪くない。
俺たちの事情に付き合わされたんだから、謝らないで。」
お父さんはまっすぐに俺を見ながら話していた。
そんなお父さんの様子を見ていると、ずっと遠慮して聞けなかったことを、今なら聞ける気がした。
「お父さんに聞きたかったことがあるんだけど、聞いてもいい?」
緊張しながら俺が尋ねると、
「うん。何でも聞いて。」
お父さんはすぐに答えてくれた。
「…お父さんは、お母さんのこと、まだ好きだよね?」
俺に聞かれた瞬間、お父さんが息を呑んだのが分かった。
「…小さい頃から、お父さんは、お母さんのことが好きそうなのに、一緒にいようとしないのが不思議だった。
お母さんが、お父さんと、事務的な対応しかしようとしないから、お父さんは、本当はもっと話したいのに…遠慮してる気がして。
だから…仲直りして欲しいって思ってた。
お父さんがお母さんに謝るのか、お母さんがお父さんに歩み寄るのかどっちが良いかは分からなかったけど。
…もちろん、夫婦のことは夫婦にしか分からないのは、俺でも理解はできる。
でも、お母さんだって、お父さんのことを心の底から嫌いなわけじゃないだろうし、お父さんがお母さんのことを好きなら、なんとか一緒に居られるようにならないのかなって思ってた。」
俺が話している間、お父さんは俺から目を逸らさなかった。
そして、俺が話し終えると、一度目を瞑り、深呼吸をしてから、ゆっくりと口を開いた。
「…太星の言うとおり、俺はずっとお母さんのことを好きだよ。それは今も変わらない。」
お父さんは淀みなく答えた。
あぁ、やっぱりそうだったんだ。
お父さんがお母さんを見つめる瞳はいつも切なそうだったから。
お父さんは遠い昔を思い出すような目をしていた。




