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 その日の放課後、俺は理科準備室で静かに勉強をしている宇野さんの横顔を見ていた。

天文宇宙検定が終わり、今は主に期末試験の勉強をしている。

俺も彼女も、割と真面目に勉強するタイプなので、お互いに疲れたら雑談はするけど、基本的には黙々と取り組んでいた。


…やっぱり、キレイな顔してるな。


まじまじと見ると彼女の顔の造形の美しさがよく分かる。

長いまつげ、大きな瞳、高く通った鼻筋、口角がきゅっと上がった薄い唇。


…これだけの美人なら、付き合っている(フリだけど)というだけで、俺の株が上がってしまうのも仕方ないか。


そんなことを思っていると彼女と目が合って、俺はドキッとしてしまった。


「…どうしたの?何かあった?」


彼女に小首をかしげながら尋ねられて、


「えーっと…ほら、ここの問題、宇野さんなら解けたかなって思って。」


咄嗟に誤魔化すように数学の問題集の応用問題を指差した。


「あー、これね。私もすぐには解けなかったんだけど、ここで公式を...」


宇野さんは理系科目全般が得意で、俺は文系科目が得意なので、お互いに教え合いながら勉強できている。

咄嗟だったけど、その問題を解けなかったのは事実なので、彼女に教えてもらえたおかげで、解き方が分かった。


「なるほどねー、分かりやすい。

ありがとう、これで解ける。」

「ふふふ、数学は任せて。」


俺がお礼を言うと、彼女は自信ありげに微笑んだ後、何かを思い出した表情になった。


「そうそう、一個聞きたかったんだけど、終業式の日って天体観測するの?

午前で学校終わりだよね?」

「うん、年内最後だからやる予定だったよ。

一旦家に帰ってから、夕方また学校に戻ってきてからやる感じで。」


今年の終業式は第3金曜日だった。

天体観測は、うちの部活でできる一番天文部らしい活動なので、可能な限りやっておきたいのだ。


「良かったー...実は、やりたいことがあって...。」


宇野さんはそう言うと、上目遣いでこちらの様子を窺いながら話し始めた。


「一緒にクリスマスケーキ食べない?1ホール。」

「...ここで?」

「うん、もうすぐクリスマスでしょ?

クリスマスケーキという文化を知りたくて。

去年も気になってたんだけど、流石に1ホールは1人で食べられないから、諦めたんだよね。

今年は、太星君がいるから、できるかなって。

チョコレートケーキ食べたい。」


これも調査の一環なのか。

ただ、宇野さんのチョコレート好きを知っていると、公私混同していそうだと思ってしまうけど。 

前のめりでケーキの話をする彼女の姿が微笑ましくて、ついニヤけてしまった。


「うん、一緒に食べようか。

俺、そこまでの量食べられるか自信ないけど。」


俺がそう答えると、彼女の表情がパッと明るくなった。


「やった、嬉しい。大丈夫、一番小さいサイズにするから。一緒に買ってから、学校戻ろうね。

楽しみだなー、どのケーキにしたいか、候補決めておくね。その中から明日一緒に選ぼう。」


嬉しそうに、ケーキを想像している彼女の姿は、正直とても可愛らしかった。


…ダメだ、煩悩が多すぎる。

彼女はカマドウマ星人、カマドウマ星人、カマドウマ星人…


こういうときは冷静になるために、彼女の本当の姿は、カマドウマに似ている宇宙人であることを自分に言い聞かせている。

そうやって暗示をかけると、邪な気持ちが抑えられる気がした。





 終業式の後、一度帰宅してから、夕方に宇野さんといつもの曲がり角で待ち合わせをした。


「お待たせしました。」


彼女は見るからにご機嫌だった。

その様子を微笑ましく思って見ていると、彼女がいつもの通学鞄以外に紙袋を持っていることに気づいた。


「その紙袋どうしたの?持とうか?」


重かったら大変かもしれないと思い声を掛けると、


「大丈夫、これは私のサプライズだから、自分で持っていたい。

太星君はケーキを持ってもらえる?」

「…分かった。」


サプライズって何だろう。


よく分からないけど、とりあえず彼女の言う通り、ケーキを運ぶことに専念することにした。

2人で相談して、最終的に、天文宇宙検定のときにお母さんにお菓子を買った洋菓子店のクリスマスケーキを予約していた。

お店に到着すると、一気にケーキの甘い匂いに包まれる。

店内のデコレーションはクリスマス一色で、サンタクロースやトナカイ、雪だるまなどがたくさん並んでいた。

どれも良くできたデコレーションだったので、俺がついゆっくり見てしまっていると、宇野さんは1人でカウンターに向かった。


「17:00にクリスマスケーキを注文している宇野です。受け取りに来ました。」

「少々お待ちください。」


宇野さんに話しかけられた店員は、箱に入ったケーキを持ってきて、その中身を彼女に見せた。


「こちらでお間違いないでしょうか?」

「はい、間違いないです。」


店員からの質問に、彼女は笑顔で答え、支払いを済ませてから、約束通り、俺がケーキを受け取って運んだ。





 終業式後で人がまばらな校内に入り、いつものように理科準備室に向かった。


「さぁ、始めようか!」


荷物を置いてコートを脱いだ宇野さんは嬉しそうに声を上げた。

クリスマスケーキがよっぽど楽しみなのか、彼女は既に満面の笑みだった。


「じゃあ、ケーキ開けるね。」


俺がそう言ってケーキの箱に手を伸ばすと、宇野さんが制止してきた。


「待って、太星君。まずは準備しなきゃ。」

「準備?」

「せっかくのクリスマスケーキだもん、クリスマスらしい飾りをつけたい。

地球のクリスマスを満喫するためにも。」


彼女はそう言うと、紙袋の中身を俺に見せてきた。

中には小さなクリスマスツリーや、スノードームなどが入っていた。


「100鈞で色々買ってきたんだ。

クリスマスの雰囲気を出したくて。」


これがさっき彼女が話していたサプライズか。

ここまで準備して、地球のクリスマス気分をしっかり味わおうとしているとは。

調査の一環なのだろうけど、彼女は明らかに浮かれている感じもするので、自分が楽しむために行動している部分もあると思う。


「すごいね、確かにクリスマスっぽい。」

「でしょ?最近のクリスマスグッズってたくさんあるから、どれくらい買うか迷っちゃった。

一緒に飾りつけしよう。」


そこから2人で、小さなサンタクロースやトナカイ、雪だるまの置物を机の上に並べて、20cmくらいのサイズのツリーに小さなオーナメントを飾り付けした。

15分ほどで、いつの殺風景な机の上はクリスマス一色になった。


「予想通りすごく可愛い。

本当は、サンタクロースとかトナカイの帽子も被りかたっかけど、誰かに見られたら、さすがに浮かれすぎかなって思って、これくらいにしておきました。」


店頭に並ぶサンタクロースの帽子の前で、眉間に皺を寄せながら、買おうか迷っている宇野さんが目に浮かび、つい、笑ってしまった。


「ちゃんと満喫してるね。クリスマス。」

「うん、せっかくの機会だから、こういうのは楽しまなきゃ損かなって。

じゃあ、飾り付けもできたし、ケーキ食べよう。」


彼女にそう言われ、テーブルの上でケーキの箱を開けた。

選んだケーキはブッシュドノエルで、横から見ると年輪のようにスポンジケーキとガナッシュクリームが重なっている。

上には削られたチョコレートと、いちご、小さなリース、そしてMerry Christmasと書かれたホワイトチョコのプレートが載っていた。


「あー、もう美味しそう過ぎる、早く切って分けよう。」


食べる前から宇野さんはもう充分に幸せそうだった。

宇野さんがケーキを切り分けている間、天文部の備品の電子ケトルで湧かしたお湯で彼女が買ってきたクリスマスツリー柄の紙コップに紅茶を入れた。


切り分けたケーキと紅茶をクリスマスグッズのそばに並べると、机の上からこれ以上無いほどのクリスマスムードが漂っていた。


「じゃあ、早速。」


宇野さんそう言って咳払いをすると、紅茶を持ち上げて俺の方を見た。


「メリークリスマス、太星君。」

「メリークリスマス。」


お互いにそう言ってから乾杯した。


ケーキは口に入れるとチョコレートの芳醇な香りと甘さが口いっぱいに広がった。

ガナッシュクリームには細かいナッツが入っていて、風味豊かで食感も楽しかった。


「美味しいー!想像以上!

上にサンタクロースとトナカイが乗ってる、定番のケーキと迷ったけど、こっちにしてよかった気がする。やっぱりチョコレート好きだな。」


宇野さんは満面の笑みを浮かべながら、パクパクと食べ進めていた。


「本当だね、美味しい...それに、すごい幸せそうに食べるね。」


俺が少しだけ茶化すように言うと、


「だって、幸せだもん。

こんなに美味しいケーキを食べられて、地球のクリスマス気分を味わえて。それに...」


そこまで言うと、彼女は体を俺の方に向けた。


「太星君と一緒だから、寂しくないし。

いつも本当にありがとう。」


彼女は穏やかな笑みを浮かべながら、話していた。

そんな彼女の姿を見ていて、また胸の奥がじんわりと熱くなっているのが分かる。


「俺の方こそ、本当にありがとう。

...おかげさまで、今までできたことのない経験をたくさんできてる気がする。すごい感謝してる。」


そう返すと、彼女は照れくさそうに笑顔を見せてから、自分の通学鞄に手を伸ばし、ラッピングされた小さな小包を取り出した。

そして、少しだけ緊張している様子を見せてから、口を開いた。


「これ、クリスマスプレゼント。」

「...俺に?」


まさか彼女からもらえると思っていなかったので、とても驚いてしまった。


「うん、いつもお世話になってるから。

ささやかだけど、受け取って。」

「...ありがとう。すごい嬉しい。」


俺はおずおずと手を伸ばして小包を受け取った。


どうしよう、すごく嬉しい。


きっと今、俺の口角は信じられないくらい上がっている。


「開けてもいい?」

「うん、開けてみて。」


彼女に言われて、早速包装紙を解いた。

中身は黒くて丸いガラス製の球体の中に、金色の点と線が描かれたキーホルダーだった。


「これって...おうし座?」

「うん、太星君、おうし座だから。」


角度を変えると、光に反射してキーホルダーの中の星座はさらにキラキラと輝いていて、とてもキレイで見惚れてしまった。


「すごいキレイ...ありがとう、嬉しい。」


俺がお礼を言うと、宇野さんは嬉しそうに笑顔を見せた後に、自分のバッグの中から、別の小包を取り出した。

そして、その中身を出して、照れくさそうに、俺の方に見せてきた。

それは、俺がもらったものと同じシリーズのやぎ座のキーホルダーだった。


「...せっかくだから、お揃いにしちゃった。」


彼女は少しだけ恥ずかしそうに上目遣いで俺のことを見ながら、話していた。


...やばい、あまりにも可愛過ぎる。


彼女の行動と表情が可愛くて内心悶絶していると、


「ほら、付き合ってるって周りに思わせるなら、お揃いのもの持ってた方が、信憑性増すかなって思うし。」


顔を赤らめながら、まるで言い訳のように、話している姿がさらに可愛くて、正直たまらない気持ちになる。


「...そうだね、ありがとう。一緒に付けよう。」


俺がそう返事すると、まるで花が咲いたように彼女はパッと笑顔になった。


「うん、嬉しい。」


そう言って大事そうに自分のキーホルダーを見つめる彼女を見て、心臓の鼓動が早くなっているのが分かる。


...ダメだ、一旦落ち着こう。


俺は深呼吸をしてから、ゆっくりと切り出した。


「...実は、俺からも、プレゼントがあって...。」


そう言うと、彼女は驚いて目を見開いていた。

通学鞄の中から、リボンのついた包装紙に包まれたプレゼントを取り出して、彼女に渡した。


「はい、これ、どうぞ。」


俺が差し出すと彼女はゆっくりと手を伸ばして受け取った。


「ありがとう。すごい嬉しい。開けていい?」

「うん、もちろん。」


彼女は、側から見ても分かるくらいワクワクした様子で包装紙を開けていた。


「...手袋?」


手首にパールの飾りが付いた、ピンク色の手袋を手に取りながら彼女は目をキラキラと輝かせていた。


「ほら、いつも手が冷たいから、これからの季節は手袋あった方がいいかなって。

亜子ちゃんと推しの話をするときにピンク色がメンバーカラーのキャラクターのことを言ってたから、ピンクだったら嫌じゃないかなって思って。」


俺が説明している間も、彼女は手袋から目を逸らさず、愛おしそうに見つめていた。


「...可愛い。本当にありがとう。たくさんつけるね。」


彼女は頬を赤らめながら本当に嬉しそうにお礼を言っていた。


「…こんなにちゃんとしたものもらえるなら、私もキーホルダーよりも高いの買えば良かったかな?なんかごめんね。」


彼女が恥ずかしそうに言うので、


「いや、そんなことないよ。キーホルダーめちゃくちゃ嬉しいから。

返してって言われても返さないよ。」


俺が食い気味にいたずらっぽく返すと、彼女は吹き出した。


「分かりました。そのキーホルダーは、太星君のものです…本当にありがとう。

手袋大事にするから。」


彼女は手袋を両手で握りしめて、自分の胸に当てていた。


「喜んでもらえてよかった。

天文宇宙検定のときお守りもらったお礼だから。

本当に感謝してる。いつも、ありがとう。」


俺がそこまで言うと、彼女は照れくさそうにしていた。


「それに、亜子ちゃんと仲良くなれるきっかけをもらったお礼でもあるから。

…お母さんも、成田さんも、俺と亜子ちゃんが打ち解けられて、喜んでるし。」


お母さんと成田さんは、俺たちが仲良く話している姿をみて、とても安心したようだった。

たぶん、予定通り、来年の4月には二人は入籍して、俺たちは正式な家族になる。

亜子ちゃんも賛成しているみたいだから…これで良いんだと思っている。


そんなことを考えていると、宇野さんが俺のことをじっと見ていることに気づいた。


「…どうかした?俺の顔になんかついてる?」


俺が質問すると、彼女は何か言いたそうだったけれど、


「…なんでもない。大丈夫。」


そう言って軽く笑顔を見せてくれた。


「…じゃあ、ケーキ食べ終わったら、屋上行こうか。」

「うん。」


その後、2人で残りのケーキをゆっくり味わった。


































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