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 「迎えにきてくれてありがとう。」


宇野さんが希望した土曜日のお昼過ぎ、俺は、いつもの曲がり角で彼女と落ち合っていた。

宇野さんが家に行きたいと言っていることと、亜子ちゃんに会いたがっている話をしたら、お母さんはすぐに場をセッティングした。

口実は、亜子ちゃんが好きな洋菓子屋さんの期間限定のケーキを一緒に食べようというものだった。

俺の彼女が来るということを伝えると、亜子ちゃんはとても驚いていたようで、急な誘いなうえに、仕事の都合で成田さんが来られない状況では、参加することに難色を示すかと思ったけれど、意外にも彼女は来てくれることになった。

そして、その日約束の時間よりも少し早めに宇野さんはやってきたのだった。





「いらっしゃい、宙ちゃん。」


キッチンで紅茶を準備していたお母さんは、家にやってきた宇野さんを笑顔で迎え入れた。


「お邪魔します。これ、お土産です。どうぞ。」

「いつもありがとうね、せっかくだから、ケーキと一緒に食べようか。」


宇野さんは、試験の時にお母さんにお土産を買った洋菓子屋さんとは別の店の洋菓子の詰め合わせを持ってきた。

しばらく3人で話していると、チャイムが鳴り、亜子ちゃんがやってきたので、お母さんが玄関まで彼女を迎えに行った。

お母さんに連れられて部屋の中に入った亜子ちゃんが、宇野さんを見て目を瞠ったのが分かった。

やっぱり、宇野さんのビジュアルの強さは男女問わず強烈なインパクトを与えるようだった。


「はじめまして、太星君とお付き合いさせていただいている、宇野宙です。

よろしくお願いします。」


宇野さんが笑顔で自己紹介をしてから頭を下げると、宇野さんに見惚れていた亜子ちゃんは、ハッとした表情をした後、慌てて頭を下げていた。


「えっと、成田亜子です。

はじめまして。よろしくお願いします。」


亜子ちゃんの顔は遠くから見てもわかるくらい赤くなっていた。


「亜子ちゃんも座って、今ケーキ出すから。」


お母さんに促された亜子ちゃんは、宇野さんの隣の席に座った。


「亜子ちゃんは、今、中学3年生なんだよね?」


宇野さんは穏やかな微笑みを浮かべながら、話しかけていた。


「は、はい!そうです...う、宇野さんは...その...太星君と同じ学年ですか?」


宇野さんに話しかけられた亜子ちゃんは、明らかに緊張していて、ガチガチになりながら、会話をしていた。


「うん、そうだよ、同じクラス。

私が夏休み明けに転校してきて、同じ天文部に入ったの。

それで、私が太星君のこと、好きになって、グイグイアピールしてやっと付き合えるようになったんだ。」

「そうなんですね...。」


亜子ちゃんはとても意外そうな表情をしていて、宇野さんほどの美人が、俺のようなパッとしない容姿で宇宙オタクの人間を好きになったことに驚きを隠せないようだった。 

彼女は思っていることが、割と顔に出るタイプだ。


「それで、亜子ちゃんの話も太星君から聞いてて、話してみたいと思ってたの。だから今日会えてすごい嬉しい。」


宇野さんに言われて、亜子ちゃんの顔がより一層赤くなった気がした。


「...わ、私も嬉しいです...さっき、宇野さんを見た時、あまりにもキレイで、お人形かと思いました...。」


彼女は恥ずかしいのか、顔を伏せながら上目遣いで宇野さんのことを見ていた。


「えー、そんな風に言ってもらえるなんて照れちゃうな。

亜子ちゃんが良かったら、私のことを下の名前で呼んで欲しい。」


宇野さんは小首を傾げながら、亜子ちゃんを見つめて、話しかけていた。

 

「は、はい...宙さん...。」


宇野さんのあざとい仕草をまともに食らった亜子ちゃんは、もう、これ以上ないくらい真っ赤になっていた。


「...あと、さっきから思ってたんですけど、ネイル、すごい可愛いです...。」


亜子ちゃんは宇野さんのネイルを手で差しながら、賞賛していた。

亜子ちゃんに言われるまで気づかなかったけど、宇野さんはピンク色のマニキュアを付けていた。


「ありがとう!これはね、推しのメンバーカラーで、コーラルピンクなの。」


コーラルピンクという単語を聞いた瞬間、亜子ちゃんが目を見開いたのが分かった。

それに、宇野さんに推しがいるなんて話は初耳だった。


「...その...宙さんの推しって...?」

「ドリームアイドルクリエイティングの桃園ライラだよ。」

「えぇぇ!?...私、青空マイト推しなんです...」

「えー!そうなの?マイト推しなんだね!」


2人はそこから、その、ドリームなんとかの話で一通り盛り上がっていた。

何を話しているのか分からず、俺が呆気に取られていると、そんな俺の様子に気づいた宇野さんが、俺に説明してくれた。


「ドリームアイドルクリエイティングは、アイドル育成ゲームなんだけど、アニメ化されてて、キャラクターに声を当てた声優さんたちが、実際にキャラクターの衣装を来てライブとかもやってるんだよね。

プレイヤーはその5人組アイドルグループのマネージャーで、私はメンバー最年少の桃園ライラ君推しで、亜子ちゃんは最年長の青空マイト君推しなの。私も二推しはマイト君なんだよね。

なかなかドリアイの話ができる人が周りにいないから、今日、亜子ちゃんと話せてすごい嬉しい。」

「私もです!身近にドリアイ詳しい子がいなくて、いつもSNSのファンアカウントで呟いてるだけなんで、こんな風にたくさん話せて嬉しすぎます〜!」


亜子ちゃんは満面の笑みで興奮しながら話していて、彼女のここまでの笑顔を見たことがなかった俺は、かなり驚いてしまった。


「...その、青空マイト君のメンバーカラーが...もしかして水色なの?」

「そうなんです!スカイブルーです!」


亜子ちゃんに質問すると、元気いっぱいに答えてくれた。

その返事で彼女がいつも水色系のものを身につけている理由がよく分かった。

あれは推しのメンバーカラーだったのだ。


「なるほど、だから亜子ちゃんいつも水色系の服とかグッズ身につけてるんだね。ファンの鏡だ。」


俺がそう言うと、亜子ちゃんは驚いているようだった。


「太星君、気づいてたんですね、私がスカイブルー好きなの。」

「うん。単に好みなのかなって思ってたんだけど、推しのメンバーカラーなら納得した。すごい素敵だと思う。」


俺がそう言うと、亜子ちゃんは一瞬泣きそうな表情をして、俯いてしまった。

...まずい、何か傷付けるようなことを言ってしまったのだろうか。

俺が焦っていると、亜子ちゃんは顔を上げて、俺のことを見てきた。

彼女の目は潤んでいて、泣く一歩手前のように見えた。


「ご、ごめん、俺、何か嫌なこと言っちゃった?」

「...違うんです。嬉しくて、泣きそうになっちゃった。」

「え?」


彼女が嬉し泣きするようなすごいことを俺は言ったのか?


「...前に、クラスの男子に、ドリアイ好きなのがバレて、ものすごいバカにされて...“おじさんたちが似合わないアイドル衣装着てるのを見て喜ぶなんて、キモい”って...」

「何それ!ひどい!ドリアイの声優さんたちは、確かに年齢層高めだけど、その分、実力派揃いだから、演技力も歌唱力も高いのが良いのに!

それに、あれぐらいのキャリアがある声優さんたちが、ファンのためにキラキラアイドルをやってくれるのが、覚悟を感じられて素敵なのに!

そんな失礼なことを言う人たちのこと絶対気にしなくて良いよ、亜子ちゃん。」


宇野さんは会ったこともない亜子ちゃんの同級生に怒りを隠せない様子で、ドリアイの魅力をファン目線で説明してから、彼らを非難していた。


「...ありがとうございます。

正直、バカにされたのがトラウマで、男子と話すのが怖くなっちゃって...。」


もしかして、彼女が俺と話すとき、いつも緊張している感じがするのは、そのせいなのだろうか。

...でも人の趣味にケチをつけるような失礼な人たちのせいで、亜子ちゃんが必要以上に男性への苦手意識を持っているのなら、世の中にはひどいことを言う男ばかりじゃないことを伝えたい。


「...亜子ちゃん、自分が好きなもの、必要以上に隠さなくて良いと思うよ。

もし、非難するようなことを言う人たちがいたとしても、別にその人たちに迷惑なんてかけてないわけだし。

俺も、度を越えた宇宙オタクだから、キモいとか他人に言われたことあるけど、気にせず、自分の宇宙好きを曲げずにやってきたら、周りもそういう人なんだなって、認識して、嫌な思いをすることもほとんど無くなったし。

むしろ、そこまで熱くなれる好きなものがあること自体、なんていうか...すごく尊いことだと思うから、少なくとも俺たちの前では隠さず自然に過ごしてほい。俺も亜子ちゃんの推しについて知りたいし。」


亜子ちゃんは目を真っ赤にしながら、俺の話を聞いていた。


「...そんな風に言ってもらえるなんて嬉しい...。

ごめんなさい、私、今まで勝手に、太星君も、あの男子たちみたいに、私のことバカにするんじゃないかって思って、勝手に怖がって、壁を作ってた。

そんな必要なかったんだね。」


そう言うと、亜子ちゃんは両手で目元を拭っていた。


「...太星君は、自分が宇宙のことを大好きな気持ちを大切にするのと同じくらい、人の一生懸命な気持ちを大事にしてくれる人だから、安心して大丈夫だと思うよ。」


宇野さんは見守るような笑みを浮かべながら、亜子ちゃんに話しかけていた。


「ありがとうございます...じゃあ、マイトのどこが好きか語っていいかな?」

「うん、もちろん。」


俺が笑顔でそう答えると、亜子ちゃんは楽しそうに話しはじめた。

マイト君は、グループ最年長だけど、あまりにも天然なので、リーダーは別のレッドの子が担当しているらしい。

彼の天然エピソードとしては、コーヒーに砂糖と間違えて塩を入れて、変な味だと思いつつ、飲み干してしまったり、コンビニでポイントカードを持っているか店員に尋ねられて、「持ってます。」と所持している事実だけ答えて、一向にカードを出さず、店員を困惑させたり、インタビューで年齢を尋ねられて、「享年22歳です。」と答えてインタビュアーを戸惑わせたりと、枚挙にいとまがなかった。

そして、推しの話をしている時の亜子ちゃんは、幸せそうで、見ているこっちまで嬉しくなった。

彼女の新たな一面を見ることができて、今までで一番話が弾み、一気に距離が縮まった気がした。


「...こんなにたくさん話せて嬉しいし、楽しい。

太星君が聞くの上手だからどんどん話せちゃった。」

「亜子ちゃんの話がすごく面白いからだよ。

俺の方こそ、話聞けて嬉しい。これからも色々教えてね。」

「うん!たくさん語るね!」


俺と亜子ちゃんの会話が盛り上がってる様子を見ている宇野さんは、とても満足そうな笑みを浮かべていた。














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