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午前中のプラネタリウムの営業は12:00までの予定だったけど、お客さんを誘導するのに手こずってしまい、全ての作業を終えたのは12:20頃だった。
視聴覚室の鍵を閉め、扉の前に"休憩中、午後の営業は13:00から"と書いた紙を貼り付け、4人で急いで理科準備室に休憩に向かった。
それぞれ、かなり疲れは溜まっていたものの、13:00よりも前に視聴覚室に戻らなければならなかったので、用意していた昼食を急いで食べ始めた。
「皆、お疲れ様。大変だったでしょ?ひっきりなしにお客さん来たから。」
俺が声を掛けると、宇野さんが大きく頷きながら応えた。
「すごかったね。最初は皆に聞こえるように割と大きな声で解説してたんだけど、途中からこの声量だと喉が保たなそうって思ったから、声小さめにしちゃった。」
「結構、声枯れちゃうからね。
俺も去年それで次の日、声かすれちゃったから。
のど飴持ってきてるけどいる?」
「それは欲しい。ありがとう。」
俺は自分の鞄から取り出したのど飴を宇野さんに渡した。
「しんどくなる前に舐めた方が良いと思うから、何個か渡しておくね。」
「ありがとう。助かります。」
彼女は両手でのど飴を受け取ってからお礼を言っていた。
「いやー。宇野さん人気恐るべしだわ。
もう、プラネタリウムじゃなくて、宇野さんしか見てない人たちもたくさんいたよ。
しつこく絡んできそうなヤツらのことはもれなく睨んでおいて、ひどくなりそうだと声かけたよ。」
「ありがとうね。武田君のおかげで、危ない目に遭わなくて済んだよ。」
やっぱり優吾に室内に待機してもらったのは正解だった。
「宇野さん、ごめんね。客寄せパンダみたいな感じになっちゃって。
優吾もありがとう。正直ものすごい助かった。
それに琢磨もありがとう。立ちっぱなしで疲れたでしょ?」
「まぁね。午後は俺と太星で1時間ずつ交代しようか、16:00までだもんね。
今、SNS見たら、ものすごい美人が解説してくれるって書かれてるから、宇野さんはプラネタリウムから出るわけにはいかないし、そうなると優吾はそのままボディガードした方が良いだろうし。」
そう言って琢磨は手にしていたスマホを俺たちに見せた。
どうやら、そこそこフォロワーのいるアカウントで、投稿されたらしく、その内容はどんどん拡散されている。
宇野さんがその投稿を見てうんざりした表情をしたのが見えた。
これは午後も忙しくなりそうだ。
12:50頃に視聴覚室の前に戻ると、既に20人以上の人々が列を作っていた。
それぞれ待機場所に移動し、整列担当になった俺は、廊下の通行の邪魔にならないように列を整備した。
「プラネタリウムを待っている方は、壁沿いに沿って並んでください、最後尾はこちらです。」
あっという間に人々が並び、列の最後尾は再び1階まで伸びたので、俺は声を掛けてくる人々に待ち時間を伝え続けた。
1時間経って、琢磨と交代するタイミングで、彼から、
「なんか、3年生のガラの悪いヤツらが、宇野さんに絡んでたよ。
優吾が睨みを効かせて、声を掛けたら、最後は出て行ったけど、結構しつこかった。」
そう報告され、すぐに、以前、宇野さんに絡んでいた3年生達だと思った。
「そうだったんだ…優吾がいてくれて、本当に良かった。」
「また絡んでくるかもしれないし、俺、先生に報告しておくよ。」
「そうだね、ありがとう。じゃあ、受付行ってきます。」
立て看板を受け取った琢磨にお礼を言ってから、俺は受付に向かった。
受付に座ってからしばらくすると、優吾の彼女の亜季ちゃんが女友達と2人で、並んでいるのが見えた。
列が動き、一番前まで来た彼女に、俺は声を掛けた。
「亜季ちゃん、いらっしゃい。来てくれてありがとう。
優吾は中にいるよ。」
「天川さん、こんにちは。プラネタリウムすごい人気ですね。
こんなに並ぶと思ってなくてびっくりしちゃいました。」
亜季ちゃんは色素の薄いふわふわの天然パーマに、つぶらな瞳、笑うと両頬にできるえくぼと口元から除く八重歯が特徴的で、いつもにこにこしている。
華奢な体格も相まっていわゆる守ってあげたい女子という印象があり、強面の優吾も彼女の前だと柔らかい笑顔を見せていた。
「やっぱり、宇野さんの人気ですか?なんかSNSでも拡散されてたし。」
「そうみたいだね。声を掛けられたりして大変だったから、優吾に中で待機してもらってるんだ。
ごめんね、大事な彼氏をボディガード代わりにしちゃって。」
「大丈夫ですよ。今日、この後、会う約束してますし。
優吾君、すごい強いから適任だと思います。
それに私、宇野さんすごいキレイだから、勝手に憧れてて。
宇野さんを守れるなんて光栄ですよ。」
そう答えて笑顔を見せる亜季ちゃんからは、優吾への深い信頼を感じた。
そして、目を輝かせながら宇野さんの話をする彼女を見て、美人って異性だけじゃなく、同性にもモテるものなんだなと思った。
「…この人が天川さんなんだ…。」
そんなことを考えていると、亜季ちゃんと一緒に並んでいたショートカットの女友達が俺のことをじっと見てきた。
「ちょっと、久美ちゃん、失礼だよ。そんなに見たら。」
「あ、すみません。なんか…意外で。」
恐らく、俺と天川さんの噂を聞いていたのだろう。
こんなに普通の男が、美人で有名な宇野さんと噂になっているのが解せないという表情をしていた。
そりゃそう思うよな。
はっきりと噂の真相を確かめられているわけではないので、否定することもできず、俺は終始苦笑いをしていた。
視聴覚室の扉が開きお客さんが出て行くと、優吾が扉から顔を出した。
「お、亜季、来てくれたんだ。」
「優吾君、お疲れ様、約束通り来たよ。楽しみ。」
優吾達はお互いを見つめ合いながら、2人だけの世界に浸っていた。
「…優吾、ごめん、お客さん待ってるから、案内お願いね。」
「あ、悪い。皆さんどうぞ。」
2人がラブラブなのは分かっているけど、さすがに後がつっかえているので、優吾に案内を促した。
午後もずっと慌ただしく案内を続けていると、あっという間に営業終了の16:00になり、最後のお客さんが出て行った視聴覚室の中で、俺たち4人は、やっと一息つくことができた。
「本当にみんなありがとう、お疲れ様。疲れたでしょ?」
「天川君もお疲れ様。
想像以上に忙しかったけど、お客さんが結構喜んでくれたから頑張った甲斐があったよ。」
疲労感は漂っていたけれど、宇野さんの表情は晴やかだった。
「いやー、働いた働いた、人生で1番睨みを効かせたかもしれない。
下心バレバレのやつに限って、ちょっと睨むとすぐ怯むから、面白かったよ。」
今日の盛況っぷりの立役者が宇野さんだとすれば、影のMVPは優吾だろう。
彼がいなければ、宇野さんが変な絡まれ方をされた可能性が高い。
「本当にありがとうね、武田君。
おかげさまで怖い思いをせずに済みました。」
「どういたしまして。宇野さんこそお疲れ様。」
「...俺、行列の最後尾で案内してる人にもっと優しくなろうって思ったわ。
あちこちから声かけられて対応するのって結構しんどい。」
琢磨も床に座り込みながら、伸びをしていて、疲れが顔に滲んでいた。
「みんなのおかげで、過去最高の集客人数だったよ、しばらく記録は破られないだろうね。
じゃあ、疲れてるところ申し訳ないけど、視聴覚室は今日中に片付けなきゃいけないから、撤収作業始めよう。」
「「「はーい 。」」」
うちの高校の文化祭は毎年10月の第3土曜日に開催され、その片付けは、翌週の月曜日の午前中に行われることになっている。
その時間は全ての授業が無くなるので、撤収作業に専念することができるのだけど、各部活ごとの展示は、月曜日の午前中に使用される可能性のある教室を使っているので、文化祭当日に片付けをする必要があった。
4人で協力して組み立てたドームのダンボールを外していき、数枚にまとめて、理科準備室まで運ぶ作業を始めた。
ダンボールは大きいので、2人1組になり、宇野さんと優吾、俺と琢磨のペアで何往復もして運んだ。
黙々と作業を進め、ダンボールが残り数枚になった時点で、
「ごめん、もうすぐ、峯岸先生と約束してる時間だから、抜けさせてもらっても良い?
中途半端なタイミングでで悪いんだけど。」
優吾がそう声をかけてきたので、もちろん了承した。
峯岸先生は学年主任でボクシング部の顧問だ。
「全然大丈夫だよ。むしろここまでありがとう。絶対お礼するから待ってて。今日はお疲れ様。」
「ありがとう、最後、これだけ持っていくわ。宇野さん行こうか。」
「うん。武田君がすごい力持ちだから、実質、武田君1人で運んでもらってた感じだったよ、私はほぼ手を添えてただけ。本当にありがとう。」
2人が理科準備室に向かった後、俺と琢磨で最後のダンボールをまとめた。
「さっき話してた宇野さんにウザ絡みしてた三年生だけどさ、峯岸先生に伝えたら、他にも問題起こしてたみたいで、またあいつらかって反応だったわ。
面倒なヤツらに目つけられたね、彼女も。」
「うん。なんか、前にも宇野さんに絡んでて、困ってたわ。」
「へー。その時はどうやって追い払ったの?」
「...うーん。向こうがたまたま転んで、非常ベルのボタン押しちゃったから、どさくさに紛れて逃げた感じ。」
「うわ、ドジじゃん。ダサいな。」
本当は宇野さんが超能力で転ばせたんじゃないかと思っているけど、もちろんそれは伏せておいた。
視聴覚室内に何も残っていないことを確認してから、琢磨と2人で最後のダンボールを持って理科準備室に向かった。
階段を登っていくと、4階の廊下から聞き覚えのある男たちの声が聞こえて、胸騒ぎがした。
「宙ちゃんー。今度こそゆっくり話そうよ。」
「あの黒くてでかいヤツがいなくなるの待ってたんだ。」
「今日のプラネタリウムも宙ちゃん可愛かったー。」
4階まで上がると、例の3年生が前と同じく4階の廊下の突き当たりで彼女に絡んでいた。
おそらく優吾が宇野さんのそばから離れるのを待っていたのだろう。
やり方が汚い。
「...私、まだ片付け残ってるんで。失礼します。」
「ちょっと、ノリ悪いってー、他のヤツらに任せれば良いじゃん。
せっかく可愛いのにそんなブスッとしてるのもったいないよ。
ほら笑って笑って。」
「困ります。やめてください。」
宇野さんは毅然と対応していたけど、それで怯む相手ではなかった。
このままだとまた彼女が超能力を使わざるを得ないかもしれない。
…俺は彼女が困っていたら助けると約束しているのだ。
行かなきゃ。
「うわ、最悪。峯岸先生呼んでくるわ。」
「...俺、行くわ。」
「え?ちょっと太星!」
俺はその場から彼女が留められている4階の突き当たりまで走り出した。




