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文化祭前日、俺と宇野さん、優吾、琢磨は、今まで作ってきたダンボールのパーツを視聴覚室に運んでいた。
1ヶ月コツコツと作ってきたパーツを全て並べると圧巻だった。
「じゃあ、みんなで組み立てていこう。
設計図に書いてある番号をダンボールの左上に書いてあるから、その番号に沿ってガムテープで繋げてもらえる?
俺らの目線の高さくらいまでの土台部分を作る組と、上の天井部分から作る組に分かれよう。」
話し合いの結果、1つ1つのダンボールのパーツが大きい土台部分は、昨年作った経験のある俺と、背が高く手も長い優吾が担当し、天井部分は宇野さんと琢磨に任せることにした。
視聴覚室は2階にあり、同じ階の2年生のクラス展示の準備も佳境に入ってることもあって、作業中、廊下は騒がしかった。
「太星、ガムテープなくなりそうなんだけど、替えある?」
「うん、あるよ。ちょっと待ってて、取ってくるから。」
ダンボールのプラネタリウム作りには大量のガムテープが必要になるので、今年もネットでまとめ買いをしていた。
ガムテープが入ったダンボールのそばまで行くと、宇野さんと琢磨が2人で作業している姿が目に入った。
廊下が騒がしいので、内容は聞こえないけど、2人が会話をしながら作業をしていたので、意外に思った。
宇野さんは話しかけられない限り、自分から男子とほぼ話さないし、琢磨も、女子と積極的に会話するタイプではない。
琢磨はクールでかっこいいと言われて、結構モテるタイプなので、女子から話しかけられることも割とあるのだけど、本人はそこから会話を広げる努力をしないので、話が盛り上がらずしょんぼりしている女子の姿を見ることが多かった。
...モテる人同士で、意外と気が合うのかな?
そんな風に思い、しばらく2人の姿を見てしまっていると、優吾から、
「太星、ガムテープは?」
と声をかけられて、ハッとした。
そうだ、ガムテープを取りに来たんだった。
急いでガムテープを数個取ってから、優吾の元に戻った。
「ごめん、待たせて。はい、どうぞ。」
「はい。受け取った。どうしたの?遅かったけど。
ガムテープ見つからなかった?」
「いや...宇野さんと琢磨が話しながら作業してて、2人とも異性と長く会話するイメージ無かったから、意外と気が合うのかなーって思って、ちょっと見ちゃってた。」
「ふーん...。」
俺が話す様子を興味深そうに見ていた優吾は、宇野さんたちの様子をその場から窺ってから、また俺のことを見た。
「...嫉妬した?」
ニヤリと笑いながら聞かれ、
「いやっ...そんなんじゃないです。」
動揺して、なぜか敬語になってしまった。
「なんで敬語なの?...まぁ、いいや、まだまだこれからってことだな。」
優吾は俺と宇野さんをくっつけようとし過ぎている。
恨めしい気持ちで軽く睨んでみるけれど、彼は俺の視線など気にせず、平然と作業を再開している。
やっぱり、彼の方が一枚上手だ。
俺は深呼吸をしてから作業を始めようとした。
けれど…つい、宇野さんと琢磨の様子が気になり、再び2人のことを見てしまった。
やっぱり会話を続けている。
なんとなく、黒い気持ちが胸の中に渦巻いているのが分かる。
...もしかしたら俺は、宇宙人と友達になれたことだけじゃなく、あれだけ人気者の宇野さんが唯一普通に接してくれる男子であることに、優越感を感じていたのかもしれない。
なんか...ダメだな。
邪な気持ちは抑えなきゃ。
純粋な気持ちに調査をしている宇野さんに相応しい協力者にならないと。
俺はもう一度、深呼吸をして、気合を入れ直してから、作業を続けた。
俺たちが作った土台部分と宇野さんたちが作った天井部分を繋ぎ合わせると、無事プラネタリウムのドームが完成した。
「すごい。設計図通り。立派だね。」
完成を楽しみにしてたであろう宇野さんは、嬉しそうな声を上げた。
「確かにすごい。想像以上にちゃんとしてる。」
「ダンボールだけでこんなにしっかりした作りになるんだ。」
琢磨と優吾も感心した様子で完成したドームを見ていた。
「みんな、ここまでやってくれて、ありがとう。
中に椅子を運んだら、テストで一度、投影してみよう。
本番と同じようにBGMも流して、俺が解説するから。」
3人に椅子を運び入れてもらっている間に、投影機と、タブレットを設置し、BGMを流し始めた。
BGMは”ヒーリングミュージック”で検索して出てきたフリー素材だ。
3人が椅子に座ったのを確かめてから、投影機をつけて、俺は解説を始めた。
「皆さん、プラネタリウムへようこそ。
今日は普段、皆さんが占いなどでみる星座の解説をしたいと思います。
太陽の周りを回る地球上の私たちからは、太陽が星座の中を一年かけてめぐるように見えます。
この太陽のみかけ上の通り道を黄道と呼びます。
生まれ月で決まる12星座はこの黄道上の星を結んで作ったものです。
それでは、それぞれの星座について、その由来も含めて解説をしていきます…」
俺が解説している間、3人は楽しそうにドーム内に映る星空を眺めていた。
「いやー、去年の文化祭では見られなかったけど、評判良かったから気になってたんだよ。
想像以上にしっかりしたプラネタリウムだった。」
解説が終わった後、優吾が軽く拍手をしながら褒めてくれた。
「キレイだったし、見応えがあった。
でも星座の由来は、悲惨な話が多いけど。」
琢磨は苦笑いをしながら、感想を言っていた。
「天川君、ありがとう。
これまでの準備期間を思い出して、ちょっとうるっときた。頑張った甲斐があったね。」
宇野さんは満足そうな笑顔を見せていた。
「みんな、ありがとう。
投影装置も解説文も毎回同じものなんだけど、割と喜んでもらえてるんだ。
おかげさまで、毎年まぁまぁ混むから、当日は大変だと思うけど、よろしくお願いします。
この後、分担決めるね。」
今回は、教室外で受付と整列を担当する2人、教室内で、プラネタリウムの外にいて、ドーム内への案内、緊急事態などがないか見守る役割1人、プラネタリウム内で投影と解説を担当する1人と言う分担にしている。
宇野さんの希望で、彼女は終日、投影と解説を行うことになっていた。
「勝手に決めちゃってごめんね。
たぶん、外にいたら声を掛けることが多そうだから、なるべく中にいたくて。」
宇野さんはそう言って、琢磨と優吾に謝っていた。
「全然良いよ。たぶん、宇野さんナンパされるだろうし。
1年生の後輩から、プラネタリウムに行けば、宇野さんと話せるかもしれないって、言ってるやつも多いって聞いてるから、決まってることだけ話せば充分な状態にしておいたほうが良いよ。
もし、ドーム内で変な絡み方されたら、ドームの外にいる担当者が声かけるし。」
「俺も別に構わないから。」
恐らく、亜紀ちゃんから1年生内の話を聞いたであろう優吾が、そう言って、琢磨も同調すると、
「ありがとう。よろしくお願いします。」
彼女はほっとした表情で感謝を伝えていた。
文化祭当日、プラネタリウムは想像以上の大盛況で、2階の視聴覚室から伸びた列は階段を経て、1階まで伸びていた。
優吾は室内で見守り、琢磨には受付をやってもらい、俺は"プラネタリウム最後尾はこちら"という立て看板を持って、人々を誘導していた。
「うわープラネタリウムすごい混んでるじゃん。」
「宇野さんが解説してくれるんだって、それだけでお金取れるよね。」
「なんか宇野さんへの質問コーナーとかないのかな?」
「外からイカつい背の高い男が睨んでるから、ヘタに宇野さんには話しかけられないらしい。」
来場する多くの人の目当ては宇野さんのようだった。
開場時間前に既に宇野さんについて話している多くの人が並ぶ姿をみて、急遽、優吾には彼女のボディガードのような役割を請け負ってもらうことになった。
ボクシング部次期部長が睨みを切らしていれば、彼女に手出しをするやつもいないだろう。
予想はしていたとはいえ、宇野さんに客寄せパンダのような役割を負わせてしまったことを申し訳なく感じながら、俺は慌ただしく、人々を誘導していた。
「今、何分待ちですか?」
「今からだと、時間は多少前後すると思いますけど、だいたい2時間から2時間半待ちです。」
最後尾に並ぼうとする人達に待ち時間を伝えると、みんな驚いていたけど、それでも並ぶ人の方が多かった。
プラネタリウムの定員は8人、解説時間は15分、お客さんの入場と退出の移動時間を含めて1回当りにかかる時間は20分と考えると、1時間で案内できる人数は最大で24人である。
9:00に営業がスタートして現在は9:40。
12:00の昼休憩までの間に案内できるのは最大で152名だけど、今、並んでいる人数だけで既に140人になっている。
この勢いなら10時までに午前営業の分の定員を迎えそうだと思い、俺は自分の持っていた立て看板の裏にマジックで"プラネタリウム定員につき、午前の営業終了"と書いた。
152人並んだ時点で看板を裏返して、これ以上人が並ばないようにするつもりだった。
「あの人だよね。ほら、宇野さんと噂になってる。」
「そうそう。」
「えー、全然普通じゃん、本当なの?釣り合ってないけど。」
「2人が手を繋いでるの見たって聞いたよ。」
廊下に立っていると、辛辣な視線と共に、俺と宇野さんの噂話が耳に入ってくる。
宇野さんと俺のビジュアルが釣り合わないのは俺自身が一番よく分かっている。
…まぁ、彼女の真の姿はカマドウマだけど。
他人って言うのは好き勝手言うもんだな。
宇野さんに人の噂なんて気にしなくて良いと言われてから、多少気持ちを強く持てている気がしたし、結局こういうのは慣れだと思うようになっていた。
予想通り10:00を待たずに、午前中の分の案内は終了し、俺は立て看板を裏返した。
プラネタリウムに行こうとしていた人々は、俺が持つ看板を読んで、がっかりした声を上げていた。
「すみません。午後の営業は何時からですか?」
「13:00からです。」
その後も、数え切れない人に午後営業の開始時間を尋ねられたので、午後も忙しくなることは確実だった。
そのタイミングで琢磨から電話がかかってきた。
「太星、立ちっぱなししんどいでしょ?もう10:30過ぎたし、交代するよ。」
「ありがとう。正直助かる。」
既に脚がかなり疲れてきていたので、琢磨からの申し出をありがたく受け入れた。
「ありがとう、琢磨。
看板のこっちの面を持って最後尾に立ってれば良いから。
午後の営業開始時間を聞かれたら、13:00からって言ってね。」
「お疲れ、了解。」
最後尾まで来てくれた琢磨にお礼を言ってから、俺は受付に座った。
視聴覚室から出てきた人々が、
「解説のお姉さん美人過ぎない?最初そっちばっかり見ちゃった。」
「やっぱり宇野さんキレイすぎるー。」
「あの子と密室にいられるなら、もう一回並びたいな。」
プラネタリウムの感想よりも先に宇野さんについて言及していて、この行列は彼女の功績だと改めて思った。




