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スイスの会社に雇われて、アルジェリアで先生になった件について ~日本人はぼく一人。生徒は砂漠のプラント技術者たち~  作者: Ryoichi


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生徒の家に招かれ、GANTZのようなどす黒い球体を差し出された

 どのクラスにも、問題児が何人かいる。同時に、優秀な生徒も必ずひとりはいる。中には成績がいいだけでなく、クラスのリーダーを兼ねている生徒も、たまにいる。そこでぼくは、こう考えた。


「彼を手なずければ、授業もスムーズに進められるぞ」


 さっそく、ぼくは実行に移した。



その1「休日ドライブと食事」


 次の休日は、彼とのドライブとなった。オランの町はずれの海岸に連れていく。例のおしゃれな通りのある所だ。遊んだり、彼の欲しい物を買ってやったりした。


 最後は、そこのいちばん高級なホテルで食事をした。彼は、全部平らげた。


「ごちそうさまです、ムッシュ」

「きょうは一日楽しかったかい?」

「ええ、もちろん。ぜひ帰りは、自分の家に寄ってください。家族に会ってほしいんです」

「ああ、いいよ」


 ぼくは彼の家に着いても、車のエンジンを止めなかった。玄関先で家族にあいさつすれば、それでいいだろうと思っていたからだ。ところが、彼はそれを許さなかった。


「エンジンを止めて、家の中に入ってください。もうすでに食事が用意されているんですから」


 確かに、歓待の準備が整っていた。


「さあ、どうぞ召し上がってください」


 ぼくはあぜんとした。テーブルには、所せましと料理が広げられている。ぼく1人に対し、5人分のごちそうの量だ。しかも彼の他には誰も顔を出さない。家族へのあいさつは、食べ終わったあとになる。とにかく食べるしかない。


 しかも中には、自分の口に合わないメニューもある。


「こりゃあ、おいしいね」


 ぼくは食べるふりをする。彼が席を立つと、それをゴミ箱へ。気づかれないように、何とかごまかした。



その2「最後の料理」


 ところが最後に出された料理には、ギョッとした。これを料理といっていいものかどうか?


 形は球体。大きさは、野球のボールをひと回りデカくしたくらい。色は、どす黒い。おまけに表面が、ブツブツとした突起物でおおわれている。食欲をそそるどころか、鳥肌が立った。ぼくは手を出したものか、悩んでいた。完全に体が固まっている。すると、彼がうれしそうに皿を差し出した。


「ムッシュ、これは我が家のいちばんのごちそうです。ぜひ食べてください!」

「こ、これは何だい?」

「羊の内臓を血とともに固めたものです。先日、羊の丸焼きをした材料で作りました。最高の料理です」

「そ、そうか、最高の料理か……」


 しかたなく、ボール状のものをナイフで切る。ひと切れをフォークで突き刺した。こわごわと口に運ぶ。


「ふぁ、わぁ、はぁ」


 羊のニオイがむっとくる。吐きそうになるのをこらえながら、別の料理を口に入れる。息を殺して、水で一気に胃袋に流し込む。水洗トイレになった気分だ。


 しかしこの程度ではごまかしきれない。ニオイは口の中に充満している。


 彼は、その一部始終を見ている。表情を見れば、うまそうか、つらそうか、わかりそうなものだ。ところが彼は、ぼくにこう聞いてきた。


「どうです、ムッシュ、うまいでしょ?」

「そ、そうだな。うん、いやあ、とっても何というか珍味だな」

「そうでしょう。ムッシュはとっても運がいいです。この料理は、そうそう食べられるものじゃないですから。年に1度か2度作るだけなんです」

「そうか、ぼくはラッキーだな」


 胸の奥は複雑な心境だ。このままだと、この不気味な球体をすべて食べ終わるまで、この家から帰してもらえないだろう。


 人間、追い込まれると強い。必死になって、ふだん以上の能力を発揮する。


 とっさにアイデアが浮かんだ。


「そうそう、実は明日、ぼくの家でパーティーを開くんだ。ムッシュ・ガリッグをはじめ、講師をみんな呼んでね」

「ムッシュ、そうなんですか」

「だからこんなおいしい珍味を、ぼくだけ食べるのはもったいない。ぜひ、みんなにも味わわせたい。だから、この料理をいくらかもって帰っていいだろうか?」

「ムッシュ、そんな遠慮しないで。全部もっていってくれ」


 こうして、ぼくはその場を切り抜けた。アレはビニール袋に入れて、持ち帰ることとなった。



その3「母親のあいさつ」


 最後に彼の母親が出てきてあいさつをした。


「わたしの息子よ(注:自分の息子の友人などには、こんないいかたをする)」

「お母さん、ごちそうさまでした」

「きょうは本当によくきてくれたわ。きっと神様も祝福してくれるに違いない。またいつでも好きなときにきてちょうだい」

「ありがとうございます」

「そして困ったことが起きたら、何でも相談してね。ここは自分の家だと思ってくれていいから」


 そこまでいわれると気が重い。とにかくお礼をいって、引き揚げた。それからリーダー格の生徒を手なずけようとすることは、2度となかった。


 ここまでいうには、深い訳がある。あのどす黒い球体を2度と食べたくないだけじゃない。今までも、彼らアルジェリア人からは

「ほしいものがあれば、何でも用意するからいってくれ」

と、よく聞かされてきた。しかし、この国にほしいものなどほとんどない。仮にあっても、自分で買ったほうが気が楽だ。というのも、その見返りを必ず要求されるから。


 しかもひとつやふたつではない。フランスや日本に休暇で帰国すると知ると、彼らは長いおみやげリストを渡しにくる。


「これとこれを買ってきて」


 その量も金額もハンパない。そのくせ代金を支払ってくれる保証はまったくない。たとえ払っても、現地通貨だ。こちらに、あまりメリットはない。さらに、こんな要求もしてくる。


「現地通貨を外貨に替えてくれ」


 これは違法だ。しかも正式のレートと闇市場のレートでは、2倍から5倍の開きがある。親切心で替えてやったはいいが、それで捕まっては元も子もない。


 結局彼らと深く付き合おうとすると、こういう関係になると改めてわかった。手なずけるどころか、手に縄をかけられる。



その4「球体料理の最期」


 えっ、あの料理はどうしたかって? 翌日職場で、ムッシュ・ガリッグに手渡した。


「ムッシュ・リョウイチ、おれもこれは食べたくないよ」

「勘違いしないで。サムのエサにしてほしいんだ」


 サムは最初アレでボール遊びをしていた。やがてうまそうに全部平らげてしまったそうだ。あいつには、ラッキーな食べ物だったらしい。


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