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スイスの会社に雇われて、アルジェリアで先生になった件について ~日本人はぼく一人。生徒は砂漠のプラント技術者たち~  作者: Ryoichi


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上司の愛犬サムが叱られて、泣きそうな顔をした

 ガリッグ夫妻には子どもがいるが、すでに成人して巣立っている。彼らは子どもの代わりに、いつも犬を連れて歩いていた。


 その犬の名前はサム。雑種のようだが、顔がブルドッグに似ている。図体がでかくて、一見どう猛な犬に思われてしまう。ところが、実はまだ子犬。遊びたい盛りだ。ネコを見ると、追いかけ回す。子どもを見ると、遊んでほしくて飛びかかる。大人でも支えるのがやっとの体格の犬だ。子どもにしたら、ライオンが襲ってきたに等しい。遊びどころか、身の危険を感じるだろう。


 そんな恐怖にかられて逃げまどう子どもを、ぼくは一回見た。


「怖いよ、助けて〜っ」


 サムとしてはじゃれているのだが、その子にしたらたまったもんじゃない。しかも大きな口を開け、ねばねばしたよだれをたらしながら、飛びかかる。


「ばう〜、じゅるるるる」


 その有様は、猛犬そのもの。最初ぼくですら、飛びかかってくるサムを受け止めるのは、相当の勇気が必要だった。よだれをうまくよけるには、さらに相当の時間が必要だった。


 フランス人は犬好きだ。どこへでも連れていく。犬の出入りが自由な場所も多い。レストラン、ホテル、市役所、見本市の会場まで。日本とは比べものにならない。


 犬は単なるペットではなく、人間のパートナーであるという意識が高い。ただし飼い犬の汚物は、飼い主が処理するという意識は低い。道に落ちているフンの多さも、日本とは比べものにならない。


 ぼくはムッシュ・ガリッグの家に1週間ほどお世話になったことがある。その時サムと散歩をした。暑い夏の夕方だった。サムがネコを追いかけ始めた。ぼくは怒った。


「こら、ネコを追ってはダメだろうが! メッ!」


 サムは顔をそむけ、知らん振りをしている。ぼくは両耳をつかんで、もう一度しかった。


「ネコを追ってはダメだといっているでしょ!」


 上目づかいで、こちらを見る。今度は明らかに自分がしかられているとわかるようだ。そんなところが、かわいかった。


 ムッシュ・ガリッグとサムが、散歩をした時のこと。どうやらサムが、またイタズラをしたらしい。帰ってくると、ムッシュ・ガリッグが盛んに怒っている。口でどなるだけではない。片手に小枝をもって


「ピシッピシッ」


 と、床をたたいている。


「このならず者が! こらしめてくれる!」


 サムは、大きな体を小さく縮めていた。かわいそうなくらいだ。前足は頭をおおっている。なんだか、しかられた子どものようだ。


「お父さん、ごめんなさい! もうしませ〜ん。えーん、えーん、えーん」


 と泣いているかのように思えた。まるでマンガだ。


 ぼくはおかしさをこらえながら、こういった。


「マックス、マックス。ちゃんとサムにあやまって許してもらうんだよ」


 ムッシュ・ガリッグは、困った笑い顔でこう返した。


「おいおい、ワシがマックス、サムは犬だ」


 さて日本では昔から


『犬は飼い主に似る』


 と、よくいわれる。サムは、どうしようもないダメ犬だ。一方ムッシュ・ガリッグは、トレーニングセンターで一番のしっかり者。まるで似ていない。もちろん、気が利く奥さんとも似ていない。


 ところが、このあとムッシュ・ガリッグの意外な一面を知ることになった。ダメ犬サムと共通する一面を……。


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