ガリッグ家の食卓で聞いた、首狩り族と魔術師の話
ムッシュ・ガリッグは、週に1、2度必ず仲間の誰かを夕食に招待していた。
そこでは自家製の豚のレバーのパテが出される。豚製品が手に入りにくいイスラム圏の国では、なかなかのごちそうだった。奥さんが自慢の料理でもてなせば、彼は得意のスピーチで食卓を盛り上げた。
それは話し始めると、もう止まらない。ジェットコースタートークだった。
たわいない会話から体験談、ちょっとしたオチのある小話……。お開きは、いつも深夜1時を過ぎていた。
ここでは彼から聞いた体験談の中から、記憶に残っているものをいくつか紹介しよう。
第1話「凶暴な原住民」
ワシは、ジャングルの奥地にだっていったことがあるぞ。何をするって?
決まってるだろ、コンビナートを作るのさ。
そりゃあ場所がジャングルだからな、作りかたが全然違う。周りのことなんか気にしないからな、とにかくものすごい。まるで戦争でもおっぱじまるんじゃないかと思うくらい。
まずはヘリコプターか飛行機で、空からナパーム弾を落とすのさ。そうすれば直径200メートルくらいに渡って森は火事になる。もうもうと一帯を焼き尽くすのさ。一時間もたって火がおさまったところでな、鉄条網を張って焼け跡を囲ってしまう。
それから必要資材をどんどん空輸する。それはもう敵地をうばって前線基地を建設するような勢いだ。ワシなんか、マネージャーというより特殊部隊の隊長になった気分でよ、こう腕をあちこちに振って指図したものさ。
諸君、ここからがすごいんだな〜。
ある現場ではな、すぐ近くに凶暴な原住民がいたんだ。その部族はなんと人間狩りをする。しかも芸術的なんだ、これが。
彼らは鉄条網を張り巡らした柵の外に、じっと待ち構えている。白人が柵に近づくと、毒のついた吹き矢を
「フッ」
とあびせて1発でしとめる。その毒が強力なやつでさ、チクリときたらすぐコロリと死んでしまうんだ。柵の中では、死体の処理に困るだろ。暑いからどんどん腐ってくるし。結局柵の外に放り出すのさ。すると原住民は
「待ってました!」
とばかりに、その首を切る。彼ら独特の伝統のやりかたで死体を処理して、リンゴほどの大きさに小さく小さく縮める。
あとは市場におろすのさ。白人の首はとくに高く売れるからな。だから彼らのおもな収入源になっているんだ。ただそれを知った会社は
「従業員の首が市場に出回るのは困る。あとあと問題になる」
と、社員が市場に捜しにいって首を買い戻したそうだ。
第2話「アフリカの魔術師」
アフリカの少数民族の中にはな、いまだに酋長と魔術師が村を統治しているところがあるんだ。
でだな、ある時白人の一隊が村に立ち寄ったのさ。その白人のひとりが、現地の娘に無礼を働いた。ま、無礼といっても、なあに少しからかって体をさわったくらいだけどな。それがたまたま魔術師の逆鱗にふれたのさ。
「お前の右手は使えなくなる」
といって、そいつの右手を軽くさわったんだ。本当にほんの一瞬さわっただけ。
白人は小馬鹿にしていた。
「どうせ魔術師なんて、まがいもんだ。たわごとをとなえて、さわったくらいでどうなるもんか」
そしたらよ、その明くる日から右手がまったく上がらなくなった。何日たっても、元に戻りそうにない。あちこちの医者や大学病院にもいってみたらしい。ところがレントゲンを撮ろうが精密検査をしようが、原因がわからない。悪い所が全然見つからないんだ。薬を飲もうにも処方せんがない。針治療をやったが、一向によくならない。
さすがにあせったねえ。最後に残された方法は、これしかなかった。
「魔法をかけた、あの魔術師に解いてもらう」
白人はもう1度あの村に向かったよ。そして魔術師に謝罪した。
「ごめんなさい。もうしません。許してください」
「ほんとうに悪かったと思っておるのか? 口先だけではないのか?」
「心から反省しています。おわびの品ももってきました」
羊数頭に、いろいろなお供え物を見せて、ようやく認めてもらった。
魔術師は、白人にこう命じた。
「腕を前に差し出しなさい」
そして、そいつの右手を軽くさわった。
「お前の右手は使えるようになる」
それは、魔法をかけた時と同じやりかただった。
すると、あら不思議。
「手が、手が動いた!」
あっという間に右手が元のように動き出したのさ。
第3話「キュラソー」
キュラソーって知ってるかい? そう、カリブ海に浮かぶ小さな島だ。あそこの気候は、非常に特殊でな。ただ暑いとか湿気があるとかだけじゃない。幻想的というのかな、人をまどわす気候なんだ。人間の脳をだな、一時的にかく乱させるというか、そういう一種異様な環境があるんだ。
ここに派遣された人間は、初めの1ヶ月は頭がボーッとしている。意識がもうろうとしてよ、毎日半分寝ているような生活になっちまう。
仕事はもうほとんど何もたいしたことができなくなるし、会社としてもさせないことに決まっているのさ。というのも重要な仕事や冷静な判断がともなう業務は、どんなにその人間が優秀でも使い物にならないんだ。そこの気候に慣れないと、とても危なくてまかせられない。会社も、それに気づくまでさんざん痛い目にあったそうだ。
ワシにも、そのキュラソー派遣の命令がきたことがある。話は以前から聞いていた。はっきりいって
「そんなウソみたいなことがあるか」
と信じなかったさ。ところが着任後3日目には熱が出た。頭がボーッとなった。夢と現実がからみ合ってな、一日中もうろうとしていた。それが1ヶ月も続いたのさ。
ある日霧が晴れたように目の前がすっきりした。やっと正常に戻ったんだ。リキュールって名前の強〜い酒があるだろ。ありゃキュラソーからとったんだ。あの飲み物は、あの島そのものなんだ。
第4話「コンビナートの泥棒」
ある石油精製コンビナートにいたときの話だ。ワシはそこで統括責任者だったんだが、その下に中国人補佐を置いていたんだ。補佐の仕事ぶりは、とくに問題はない。とにかく几帳面な男だったな。
その現場はいよいよ大詰めでな。資材の運搬やら工場建設やら機械の試運転やら、毎日が戦場のような忙しさだった。朝から晩までずっと騒然としていたな。
その現場の片すみにだな、20リットル入りのポリタンクがずらりと一面並んでいたのさ。中身は高価な薬品だ。ある日ふと見ると、なんだかその位置が数メートルずれてるような気がするんだ。
「おかしいな」
と思ってさ、それから毎日注意して見ることにしたんだ。
そしたら、毎日ポリタンクが1列ずつ移動している。
「これはおかしいぞ」
その日から、ワシは監視することに決めたね。するとだな、あの中国人補佐がポリタンクを毎日1列ずつ、最前列のものを最後の列に移動させていたんだ。
その先には塀があってだな、そこからうまく外に出すつもりだったらしい。あとはトラックがきてどこかに運び、売り飛ばそうという計画だったようだ。あと1日でポリタンクの列が塀にくっつくところだった。危機一髪おれが見つけたからよかったようなものの、気づかなければどうなっていたか。毎日1列ずつ減っていったんだろうな。
そのあと、ポリタンクはどうしたかって? そりゃ、あいつを呼びつけ、
「ポリタンクを元の位置に戻せ!」
と、ひとりで片付けさせた。運ぶのに丸2日はかかっていたな。終わると、こういってやった。
「ご苦労さん。じゃ、解雇」
第5話「小話その1 海賊」
あるときフランスの有名な海賊が、とうとうイギリスの海軍につかまっちまった。
イギリス海軍提督はこういったのさ。
「おい、お前さんたち海賊は、少しは恥ずかしいと思わんのか。自分たちの欲望を満たすためだけに戦うなんて。金銀や宝石、それに女。そんなもののために命を張るなんて、なんとも情けない」
「そうかね」
「その点われわれは違う。われわれの戦いは名誉のためである」
提督は胸を張った。すかさず海賊の頭領が、こう反論したんだ。
「んだけどもよ、ムッシュ。人はみんな自分にないものを求めて戦うべ。おらどもは金もねえし、女もいねえ。だけんども名誉はあり余ってるべさ」
第6話「小話その2 フェリー」
イギリスとフランスの間の海、ありゃドーバー海峡とかイギリス海峡とかあるんだが、あそこのフェリーに乗ったことがあるかい? 実は不思議なことがあるんだよ。あの船ではフランス人は紅茶を注文し、イギリス人はコーヒーを飲むっていうんだ。おいおい、みんな
「そんなバカな!」
って顔しているな。そりゃあイギリス人にとって紅茶は国民的飲み物だからな。でもほんとのことだ。
何しろおれが乗って確かめたからな。原因もわかった。そのフェリーの喫茶店で、両方の飲み物を飲んでみたのさ。どちらも、すご〜くまずかった。
彼の小話は、隣国をからかったものが多い。こんなバカ話を聞きながら、土曜の夜はふけていった。




