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男女比20対1の残酷な世界:魔力ゼロの僕が、女性たちから命がけで求愛されている件  作者: 虹の箸


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12/22

確かにある希望

紫苑が亡くなってから数日間。ハルは、まるで見えない重力に押しつぶされるように、ただ淡々と仕事をする日々を送っていた。

あの水族館で、魚たちを見上げながら彼女が笑った顔。あどけない少女のような好奇心。そして、死を悟りながらも明日を夢見ようとしたその健気さ。

すべてが、ハルの心の中で「失われた約束」として重く沈んでいた。

そんなある日、ハルのもとに一通の封筒が届く。差出人は、特務機関の遺品整理部署からだった。

中には、一枚の短い手紙とロッカーキーと思われる鍵が一つ入っていた。

『ハルへ。

あの日のデート、本当に楽しかった。

もし、もしも、次の休日の朝、私が現れなかったら、水族館の出口近くのロッカーへ行って。

そこに、あなたに渡したかったものを預けてあるの。

もし私が死んでしまっていても決して悲しまないで。

あなたの幸せを願っているわ。——紫苑より』

ハルは、胸を締め付けられるような思いで、あの日二人で歩いた水族館へと向かった。

指定されたロッカーを開けると、そこには一冊の「古いノート」と、小さな「標本」が入っていた。

ノートには、彼女が観測所で働いていた頃から書き溜めていた「海と生命」の研究記録が記されていた。

そこには、魔力という呪いに支配された世界で、それでも健気に生きる小さな生き物たちの生態が、彼女の温かい視点で綴られていた。

そして、最後の方のページには、こんな一文があった。

『魔力は確かに命を削るけれど、この水族館を見ていて思ったの。

循環さえあれば、命は形を変えて続いていく。

ハル、あなたが誰かの命を救うとき、それはただの延命じゃない。

あなたが繋いだ命が、いつかまた、誰かの心を動かす光になる。

だから、あなたのその優しさを、どうか忘れないで』

そして、小さな標本箱。

そこに入っていたのは、あの日水族館で彼女が「一番好きだ」と言っていた、小さくも力強く泳ぐ深海魚の鱗だった。

ハルは、その鱗をそっと握りしめた。

紫苑は、自分が死ぬことを知っていた。だからこそ、ハルが自分を失った絶望の中で「自分の優しさが無意味だった」と思わないように、あの日、彼に希望という名の「未来の記録」を託したのだ。


その夜、ハルは職場の静流先輩を誘い、ささやかな食事をとった。

紫苑の話はしなかった。ただ、二人で静かに食事をし、言葉を交わした。

静流先輩の、授かった命を守るのだという決意の強い瞳。ハルが救った、今を生きる命。

(彼女たちが必死に生きようとした時間は、決して無駄じゃない)

ハルは、紫苑が遺したノートを胸に抱いた。

彼女が救えなかった命も、彼女が懸命に紡いだ記憶も、こうして自分の手の中に残っている。自分がこれから誰かの命を繋ぐとき、その温もりは紫苑が教えた海の色のように、誰かの明日を照らすはずだ。

「……ありがとう、紫苑」

ハルは、夜空を見上げた。

街の光に隠れて星は見えないけれど、あの日の水族館の水槽のような、どこまでも深く静かな青い光が、彼の心の奥底で確かに灯っていた。

ハルは、明日もまた、生きる。

希少な種として、あるいはただの人間として。この残酷な世界で、途方もなく過酷な戦いを続けるために。

お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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