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新属性開発

先に物理記号の意味書いとく。(ほとんどが小説家になろうに対応していないため通常のアルファベットになっています)


E:電界(電場の強さ)


E_eff:実効電場。電離やストリーマ進展を考慮した、実際に放電が起こる際の有効

   な電場強度


ΔV:電位差(電圧)。単位は V。二点間の電気的なポテンシャル差


V:電圧。式 E=VIt における電位差そのもの


I:電流。単位は Aアンペア


L:距離。ここでは術者から目標までの長さ(m)


t:時間。単位は s(秒)。ここでは放電の継続時間


W:放電エネルギー。単位は Jジュール

あれから四日が経った。


ダイジェストで振り返れば、この四日間は静かなようで、水面下では着実に何かが動いていた。


翌朝、セラフィナはガルシア王に昨夜の会議内容を報告した。騎士団の情報制限、念話使いの配置案、倉庫街への誘導作戦。ガルシア王はその全てを承認し、信頼できる上層部三名にのみ詳細を共有した。午後には念話使いの配置が内々に決定し、各部隊への指示は「特定エリアの警戒強化」という名目で出された。


エルンスト先生への接触は、セラフィナが権力の行使で行った。内容は最小限に留め、倉庫街の床に「封印強化の試験術式を刻む作業の依頼」という形で伝えた。エルンスト先生は翌々日の夜中に、二時間かけて倉庫街の要所に拘束の術式を刻み終えた。作業には騎士一人が護衛についたが、術式の目的は最後まで告げなかった。


ルーベルトは戦争前日の朝に退院した。退院直前に担当医師から「次に無断外出をした場合は紐で縛る」と言われた。ルーベルトはその言葉を笑って受け流したが、リュートは自分のことを言われているような気がして少し黙った。


セラフィナの肩は、戦争の二日前に医師から「軽い動作なら問題ない」と言われた。セラフィナはその言葉を「戦闘可能」と解釈した。医師は「軽い動作と戦闘は全く別の話だ」と言ったが、セラフィナは「理解した」とだけ答えて診察室を出た。リュートはその話を念話で聞きながら、この女には言葉の定義に関する独自の辞書があるのだと理解した。


ガルシア王から、作戦の最終確認が来たのは前日の夕方だった。念話使いの配置は完了。市街地の要所に騎士が散開。民衆への通達は「夜間外出自粛のお願い」という形で静かに出た。理由は「最近、夜の市街地で不審な人影が目撃されている」。嘘ではない。実際に目撃情報が複数入っていた。


そして今夜。


戦争の前夜になっていた。




病室の窓から見える王都の夜は、いつもと変わらなかった。


明かりが石畳に当たっている。遠くで誰かが笑っている声が聞こえる。馬車が通る音がする。何も知らない人間たちが、いつも通りの夜を過ごしている。それが当たり前であることは分かっていた。でも、その当たり前の光景を眺めながら、リュートは少し奇妙な気分でいた。


明日、この街で戦闘が起きるかもしれない。


ルーベルトは今日の朝に退院した。病室にはリュートだけが残っている。退院する時にルーベルトは「何かあったら念話する」と言い、リュートは「分かった」と答えた。ルーベルトが扉を出た後の病室は、思ったより静かだった。


肩の回復状況は、担当医師の見立てより少し早い。包帯の下で、可動域が少しずつ戻ってきていた。完全ではない。でも、剣を持てる程度には動く。それだけで十分だと思っていた。


問題は、ヴァルドへの言葉がまだないことだった。


作戦の骨格は整った。倉庫街への誘導。拘束の術式。念話での連絡網。ガルシア王の承認。それらは全部、形になった。でも、ヴァルドを力で止めた後に何も言葉がなければ、それは問題の根本を何も解決していない。ルグ先生が言っていたことがまだ頭の中にある。力で止めても根本は変わらない。


何かを言わないといけない。でも、何を言うかが分からない。


暇だった。


考えることに疲れると、人間は別のことを考え始める。リュートはベッドの上で、この世界の魔法について頭の中を整理し始めた。特に理由はなかった。ただ、手元に何もなくて、考えることが習慣になっている頭が勝手に動き始めた。


この世界に存在する属性魔法。


火。水。土。風。空。光。闇。


よくわからない神聖魔法と、物理干渉系の力強化魔法を除けば、攻撃に使える属性はおおむねこの六つに収まる。


そういえばルーベルトは確かこの七属性全部使えたはず。セラフィナは何属性を使っていたか分からないけど、剣主体で魔法は補助的に使う印象があったな。


リュートは自分のスキル構成を頭の中で確認した。

アイテムボックス。鑑定。代行思考機構(プロキシ・マインド)。剣技系のスキルが複数。


魔法の属性は、空、光、水、の三つしか持っていない。

この世界では魔法は才能と属性適性に依存する部分が大きく、転生者という職業が魔法への適性をどこに向けているかは、まだ完全に把握しきれていなかった。


七属性。


リュートはそれを頭の中で並べながら、あることに気づいた。


電気がない。

雷も、電撃も、どの属性にも含まれていない。この世界の魔法体系には、電気に相当する属性が存在していない。


前世の記憶の断片が、少しずつ戻っている。残念ながら、日本にいた頃のことを、全部は思い出せないが、理系の知識だけは妙に鮮明だった。電気というものが、どういう性質を持っているかも、その一つだった。


電気がない。


それが、何かの可能性として頭に引っかかった。


この世界に電気が存在しないのは、自然界に電気現象そのものがないからではない。雷という現象は存在するはずだ。


雨が降る世界であれば、積乱雲が発生し、静電気が溜まり、放電が起きる。それはこの世界でも変わらない物理現象のはずだ。ただ、それを魔法として「使う」という発想が、この世界には存在しないだけなのか?


電気を、複数の属性で作れるか。


リュートはその可能性を頭の中で展開し始めた。


電気放電の原理は、電荷の分離と集中、そして絶縁破壊だ。高温のプラズマ状態を作り出し、その経路に沿って電流が流れる。雷がまさにそれだ。自然界では、雲と地面の間に電位差が生じ、空気の絶縁が破れた瞬間に放電が起きる。


これを人工的に再現しようとすれば、何が必要か。


一つ目、誘導経路。電気は抵抗の低い経路を流れる。自然の雷は不規則な経路を走るが、あらかじめ電離した空気の筋があれば、そこに沿って放電を誘導できる。高温のプラズマ状態にした空気は導電性を持つ。火属性でその経路を作り、風属性でそれを目標まで引き延ばせばいい。


二つ目、電位差。経路を作っても、電圧がなければ電流は流れない。ここで使えるのが土属性と水属性だ。土属性で地面を安定した基準電位として固定し、水属性で空間中のイオン密度を増やして電荷の移動性を高める。さらに風属性で電荷分離の領域を広げれば、術者とヴァルドの間に強い電位勾配を形成できる。


リュートは体を起こした。


頭の中で計算が走り始めていた。これは、考えてみる価値がある。


念話でルーベルトに繋いだ。


リュート(ルーベルト、聞こえるか)


ルーベルト(聞こえるよ。どうした?夜中に何してるんだ)


リュート(一つ聞く。火属性と風属性、それと水属性と土属性。全部使えるか)


ルーベルト(使えるよ。でも、急にどうしたんだ)


リュート(後で説明する。今夜はそれだけでいい)


ルーベルト(なんか怖いんだけど。大丈夫なのか?)


リュート(大丈夫だ)


ルーベルト(ほんとに?)


リュート(大丈夫だ。おやすみ)


念話を切った。


ルーベルトが「待って」と繋いでこようとしていたのを感じたが、そのまま切った。今は計算を進めたかった。


アイテムボックスから紙と筆記具を取り出した。


---


まず、現象の全体像を整理する。


目標:火属性・風属性・水属性・土属性の四属性を組み合わせて、制御された電気放電攻撃を実現する。


この攻撃の物理的原理は以下の通り。


【ステップ1:経路形成(火属性+風属性)】


まず火属性を用いて空気を局所的に加熱し、分子を電離させてプラズマ化する。同時に風属性を用いてその高温領域を細長く引き延ばし、目標地点まで連続した低密度電離経路を形成。


リュートは筆を走らせた。


この経路は完全な導体じゃないが、通常の大気に比べて絶縁破壊が起こりやすいな。


乾燥空気における代表的な絶縁破壊電界:


 E ≈ 3.0 × 10⁶ V/m


だが、既に電離した経路が存在する場合は、電子アバランシェおよびストリーマ進展により、実効的な絶縁破壊電界は大きく低下する。


今回の現象なら


 E_eff ≈ (1.0 ~ 3.0) × 10⁵ V/m


程度と見積もったほうがいいだろう。


目標までの距離 L = 30 m に対して必要な電位差は、


 ΔV ≈ E_eff × L


 ΔV ≈ (3.0 ~ 9.0) × 10⁶ V (3~9 MV)


ただし実際の放電は電界集中および段階的ストリーマ進展によって成立するため、必要電圧はさらに低下する。よって実用的な作動電圧として、


 ΔV≈ (2 ~ 5) × 10⁶ V (2~5 MV)


を採用する。


その上、この電離経路形成には数十kJ程度のエネルギー投入が必要だと思うが。


【ステップ2:電位差の形成(土属性+水属性+風属性)】


経路だけ作っても、電圧がなければ電流は流れない。


土属性を利用して地面を安定した基準電位グラウンドとして固定する。水属性は空間中のイオン密度を増加させ、電荷の移動性を高め、さらに風属性によって電荷分離領域を拡張し、空間内に広い電位勾配を形成する。


これにより術者位置と目標位置の間に、


 ΔV≈ 3.0 × 10⁶ V (約3 MV)


程度の電位差が形成される。


ここん所で重要なのは、エネルギーを単一の点に蓄積するのではなく、空間全体に電場として分布させる点だ。エネルギーはまだ放出されていないが、電離経路が完成した瞬間、それが導火線となって放電が誘発される。



リュートは計算を続けた。


【ステップ3:誘導放電】


形成された電離経路に沿って電界が集中し、電子アバランシェが進行する。その結果、


 ストリーマ放電 → アーク放電


へと遷移し、安定した電流経路が形成される。


制御可能な放電条件として以下を想定すると、


 電流:I ≈ 150 A

 継続時間:t ≈ 100 μs(1.0 × 10⁻⁴ s)


【ステップ4:放電エネルギー評価】


放電に伴うエネルギーは、


 W= V × I × t


V = 3.0 × 10⁶ V

I = 150 A、t = 1.0 × 10⁻⁴ s


を代入すると、


 E = 3.0 × 10⁶ × 150 × 1.0 × 10⁻⁴

 E = 4.5 × 10⁴ J


よって E ≈ 45 kJ となる。


自然落雷よりは小さい。しかし人体に対しては十分すぎるエネルギーだ。


---


【ステップ5:攻撃シーケンスの設計】


以上の計算をまとめると、実際の攻撃シーケンスは以下のようになる。


Phase 1(約0.01 s):電離経路形成

 → ルーベルトが火魔法を絞り込み、目標ヴァルドに向けてプラズマチャネルを生成。

 → 同時に風魔法でその高温領域を細長く引き延ばし、30mの経路を確立する。


Phase 2(約0.01 s):電位差形成

 → 土魔法で地面を基準電位に固定。水魔法で空間のイオン密度を高める。

 → 風魔法で電荷分離領域を拡張し、強い電場を空間全体に確立する。

 → この段階でエネルギーはまだ放出されていない。電場は「張られた弦」の状態にある。


Phase 3(約0.0001 s):放電

 → 電離経路が完成した瞬間、電位差がその経路を通じて一気に解放される。

 → トリガーは不要。物理的に必然として発生する。

 → 電流約150 A、継続時間100 μs の電流パルスが走る。

 → 放電の瞬間、強烈な閃光と衝撃波(雷鳴に相当)が発生する。


---


【ステップ6:相手への影響】


150 A・100 μs の電流パルスが人体を通過した場合の影響:


 ・全身筋肉の強制収縮

 ・神経系への急激な電気刺激

 ・接触部位の局所的熱損傷

 ・瞬間的な運動制御喪失


エネルギー量は自然落雷よりは小さいが、人体に対しては極めて強力な電撃となる。致死性は条件に依存するが、戦闘継続はほぼ不可能になる。


ただ、ヴァルドはSランク相当の戦士だから、何らかの魔法防御・身体強化を持つと考えられるな。これにより実効的な耐久性が変化する可能性がある。だったら、実戦では電位差をさらに上方修正することも視野に入れておいた方がいいかも。




【ステップ7:技術的課題と対策】


課題1:経路の直進性の維持

 → 風魔法による乱流が電離経路を乱す可能性がある。

 → 対策:旋回気流をプラズマ柱の「外側」に生成し、内部は安定させる。竜巻の眼に相当する静穏域を経路の中心に置くイメージ。


課題2:電場形成中の経路の安定性

 → 電位差が確立するまでの間、ヴァルドが経路を物理的に切断する可能性がある(剣で斬る、等)。

 → 対策:プラズマ柱は実体のある物体ではなく高温ガスの柱であるため、剣で斬っても即座に再形成される。ただし、強力な風魔法でかき乱された場合は維持が難しくなる。


課題3:術者への影響

 → プラズマ経路は術者側から伸びるため、術者の近傍も高温・高電圧になる可能性がある。

 → 対策:ルーベルトは絶縁性の魔力障壁を展開した上で術を行う。また、プラズマ柱の生成起点を術者から少し離した空中に設定することで、リスクを軽減する。


課題4:四属性の同時制御

 → 火・風・水・土の四属性を同時に扱う必要がある。これは通常の術者には困難だ。

 → ただし、ルーベルトが四属性すべてを使えることは確認済みだ。あとは各属性の役割を明確に分担して、順序立てて展開すれば、一度に全てを同時制御する必要はない。Phase1と2を順番に確立すれば、Phase3は物理的に自動で起きる。


課題5:電場形成中の戦況維持

 → ルーベルトが術の展開に集中している間、リュートが正面でヴァルドの注意を引き続ける必要がある。

 → これは当初の作戦(リュートが正面を引き受ける)と合致している。





リュートは書き終えた紙をもう一度読み返した。


手元の紙は計算式と図解で埋まっていた。窓の外はまだ暗い。いつの間にか深夜になっていた。


これは、できる。


自分の世界の物理法則が、そのままこの世界でも成立していれば、できる。空気がある。温度差がある。電荷分離が起きる。プラズマは導電性を持つ。地面は接地できる。水分子はイオンになる。これらは魔法の話ではなく、物理の話だ。魔法はあくまでその物理現象を引き起こすための手段として使う。


ルーベルトが火と風と水と土を使える。それは確認した。


あとは、この計算をルーベルトに説明して、実際に試す時間があるかどうかだ。戦争は明日だ。今日の夜中に説明して、明日の朝に一度試してみる時間があれば、間に合うかもしれない。


「できたーーーーーーー!!」


リュートはそう声に出した。


病室の静かな夜に、その声が思ったより大きく響いた。


「静かにしてください。」


廊下から看護師の声が飛んできた。


「すみません。」


「真夜中ですよ。他の患者さんがいるんですから」


「はい。すみませんでした」


廊下の足音が遠ざかっていった。


リュートは計算式で埋まった紙を見た。


まだ興奮が収まっていなかった。この世界に電気属性の魔法がないのは、誰もそれを思いついていなかっただけだ。物理法則は魔法の外にある。魔法がなくても、物理は動く。それを組み合わせれば、この世界に存在しない現象を作り出せる。


今夜の発見は、明日の戦闘だけじゃなく、もっと先の話にも繋がる気がした。でも今は、まずルーベルトに説明しないといけない。


念話でルーベルトに繋ごうとして、時刻を考えた。真夜中だ。ルーベルトは今日退院したばかりで、おそらく寝ている。


明朝でいいか。


リュートは計算式の紙をアイテムボックスに仕舞った。ベッドに横になった。天井を見た。


明日が戦争の日だ。


でも今は、少し眠れそうな気がした。頭の中の空白が、少しだけ埋まった感触があった。ヴァルドへの言葉はまだない。でも、戦い方の選択肢が一つ増えた。


それで十分だ、と思いながら、リュートは目を閉じた。

計算しぬ・・・

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