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絶景

筆が進まない・・・

まぁ、THEなろう小説だから仕方ないのか?

準備が整ったのは昼を少し過ぎた頃で、八人は学校の正門を出て、ラントル街道を南へ向かって歩き始めた。


セレナのバッグはさっき以上に膨らんでいていた。さすがに詰め込み過ぎじゃないのか?


「・・・大丈夫?」


「大丈夫」


五分後。


「やっぱ重い。」


そうセレナが呟いた。やっぱりこうなると思っていた。すこし持とうかな?


そう考えたレティシアよりも早く、それに気づいたティオが無言で半分を引き受けた。それ以降、セレナは何も言わなかった。


ティオの気づき方はいつも静かだ。声を上げるわけでも、許可を取るわけでもなく、ただ動くだけ。こういう時のティオの動き方が、七人の中で一番手が早い気がする。セレナとの付き合いが長いから、先を読める部分もあるのだろう。


街道はよく整備されていて、しばらくは快適だった。フィンペル王国の南部は農村地帯で、道の両脇に牧草地が広がり、遠くに羊の群れが見えることもあった。空は高く澄んでいて、風は穏やかで、旅の始まりとしては申し分のない天気だった。


ルイスは最初、誰とも並ばずに七人の後ろをついてくるような位置にいたが、一時間ほど歩いた頃には自然にレティシアの隣に収まっていた。

やっぱりこの子、私に懐いてる。・・・なんで?


「山、見えてきた」


ルイスがぽつりと言ったのは、街道の前方に稜線の影が浮かび上がり始めた頃だった。最初は雲のように見えたが、徐々にそれが山の輪郭だと分かってきた。白みがかった峰が空に浮かんでいた。


「でもまだ遠い」


「どれくらい歩くの?」


「今日は街道沿いに山の麓まで向かう。登り始めるのは明日の朝から」


遠いな。


「そっか」


ルイスはもう一度稜線を見た後、前を向いてまた歩いた。


一日目の夜は街道沿いの小さな宿場町で野営した。建物の中ではなく町外れの広場に野営したのは、ゼルの組織の残存戦力がまだ何処かにいる可能性を考えてのことだった。人の目がある場所で夜を過ごす方が、閉じた建物の中にいるよとヴァルドが判断した。


ルイスはその夜、比較的早く眠りに落ちた。昨夜よりも早かった。それだけ、この八人の傍に慣れてきたということだろうか。そうであれば、悪くない。

レティシアはそれを見ながら、自分が何故そう思うのかを少し考えた。答えは出なかった。






二日目は夜明けと同時に動き始めた。街道が山道に変わる手前で、一度全員が装備を確認した。防寒具を重ね着し、荷物の重心を調整し、靴紐を締め直した。


山道に入ると、景色が変わった。

石畳が消えて、踏み固められた土の道になった。両脇の草が低く平たくなり、その代わりに岩が増えた。空気が少しずつ変わっていた。下の平野の空気と山の空気ははっきりと違い、薄くて冷たかったが、とても澄んでいた。


「寒い」


セレナが言った。


「言ったでしょう、防寒具は必要だと」


「分かってたけど、思ったより早かった」


「まだ序の口だ。上に行くほど冷える」


クロカワが言い、セレナは追加の上着を引っ張り出して着込んだ。

道は傾斜を増していき、会話が自然と減った。足元の岩を確かめながら、息を整えながら、一歩一歩を積み重ねる。


ルイスは文句を言わなかった。子供の足でよくついてきていると思いながらも、レティシアは何も言わなかった。


ただ一度だけ、急な岩場で足が止まったため、レティシアが手を差し伸べた。ルイスはその手を掴み、岩を越えた。越えた後、手を離した。それだけだった。







樹林帯を抜けたのは、登り始めて二時間ほど経った頃だった。

木々の背が低くなり、まばらになって、やがてほとんどなくなった。代わりに岩と草地が広がり始め、道の脇に、見たことのない花が咲いていた。小さく、紫がかった白い花で、岩の隙間からひっそりと顔を出している。風が吹くたびに揺れるが、根は岩にしっかりと食い込んでいて、飛ばされる気配がなかった。


「高山植物だ」


エルンストが足を止めずに言った。


「此処まで上がらないと咲かない種類がある。土壌が薄くて、気温が低くて、それでも生きているやつらだ」


「・・・きれい」


ルイスが小さく呟いた。独り言のように。


それから更に登り続けた。

傾斜が急になるにつれ、空が広くなっていった。下の方に目を向けると、来た道がずっと遠くに続いているのが見えて、フィンペル王国の平野が霞の中に広がっていた。あんな遠くまで歩いてきたのかと思うほど、下界は小さくなっていた。


「少し休もう」


ヴァルドが言い、全員が岩の上に腰を下ろした。水を一口飲んで、呼吸を整えた。

レティシアは立ったまま、前方を見た。

山道はまだ続いていて、その先に、開けた場所があった。岩場の上に、平らな台地のような地形が広がっていて、その向こうに空だけがある。


「あの先、何が見える?」


「行けば分かる」


ヴァルドが水筒を閉めながら答えた。ある程度休憩するとヴァルドが立ち上がった。


「出発する」


全員が立ち上がった。






残りの傾斜を登り切り、岩場を越えて、平らな台地に足を踏み入れた瞬間に、全員の足が止まった。

止まらざるを得なかった。


目の前に広がっていたのは、それまで歩いてきた山道とは、全く別の世界だった。

稜線が、左右に果てしなく広がっていた。切り立った岩峰が幾つも連なり、その峰の上には白い雪が光を浴びて輝いている。


足元から眼下にかけては、来た道が遙か下に見えた。平野が広がり、川が光りながら流れていて、遠くに村の輪郭がぼんやりと浮かんでいた。空気が澄んでいるため、どこまでも見渡すことができた。


山の内側には、小さな高山湖が一つあった。周囲を岩と高山植物に囲まれた、静かな湖で、その水面が空の青を映して輝いていた。風が止んだ瞬間に、水面が鏡のように凪いで、峰の稜線を逆さに映し出した。


言葉を探していたのかもしれないし、言葉が不要になったのかもしれない。

セレナが、ゆっくりと息を吐いた。


「・・・すごい」


それが全部だった。それで十分だった。

ルイスは一歩前に出て、ただ見ていた。山を、湖を、空を、稜線を、一つひとつ目で追うように、静かに見ていた。


「ルイス、足元」


「・・・分かってる」


台地の端は急な崖になっている。ルイスは手前で立ち止まったまま、動かなかった。

レティシアもルイスの隣に立って、同じ景色を見た。


此処から先にドレイン砦がある。先生たちが向かった場所が、この山脈の向こう側にある。世界律の崩壊に繋がる何かが、その砦にある。


それは全部、事実だった。

だが今この瞬間だけは、そういうことを考えるより先に、この景色が目の中に入ってきた。

峰々の白い雪が、午後の光を受けて金色に近い輝きを帯び始めていた。風が一度吹いて、高山植物の花が一斉に揺れた。湖面が波立ち、映り込んでいた稜線が崩れてまた戻った。


「・・・此処が、山脈の中か」


ヴァルドが静かに言った。感嘆でも驚きでもなく、確認のような声だった。


「そうだね」


「悪くない」


「そうだね」


「行くぞ」


「うん」


全員が再び動き始めた。ドレイン砦はまだ先だ。この景色の奥に向かうべき場所がある。レティシアは最後にもう一度だけ振り返って、湖を見た。


ちぇき、かめらって物で撮ればよかったと思った。七人で撮った写真は、昨日の出発前の一枚だけだ。あれは学校の正門だった。あの後、ふぃるむ、って物がなくなって撮れなくなってしまった。その為、此処の景色を残せるものが何もなかった。


まあ、いい。目で見たものは、忘れない。




絶景を背にして歩き始めてから三十分ほど経った頃、ルグが足を止めた。

一体如何したんだろうか。


それに全員が気づいて振り返っってルグの方に戻った。ルグは地図を広げて、近くにあった岩場の上にしゃがみ込んで何かを確認していた。


「どうした?」


「少し待ってください」


ルグは地図から視線を上げ、周囲の岩峰の形と見比べてから、また地図を見た。その作業を二度三度繰り返した。


「何か見つけた?」


「・・・此処に、道があります」


「此処に、って?」


「山脈の内側を通る道です。街道の地図には載っていませんでしたが、この地図をよく見ると、山脈の岩峰の間に細い線が一本通っています。見落としそうなほど薄い線ですが、確かに道の印です」


ヴァルドがルグの隣にしゃがんで地図を覗き込んだ。


「・・・本当だ」


「山の外側を迂回してドレイン砦に向かうより、この道を通った方が距離が大幅に短くなります。半日以上、短縮できるかもしれない」


「なんで最初から気づかなかったんだ?」


「ギルドでもらった地図には載っていなかったぜ?此奴は古い地図で、ルグが学校の資料室から持ち出してきたものだと」


クロカワがそう言った。


「資料室に古い地図があるのを知っていたんですか?」


「昔、調べたことがあったので」


「昔、というのはいつ頃ですか」


「・・・昔です」


それ以上は言わなかった。これ以上は聞いても無駄かもね。


「その道、今も使えるの?」


セレナが地図を覗き込みながら聞いた。


「使えるかどうかは行ってみないと分かりません。ただ、道が存在している以上、誰かが管理しているはずです。山脈の内部を通る道を長期間維持するには、それなりの技術と人手が必要ですから」


「誰が管理してるんだ?」


「この山脈周辺に、ドワーフの集落があるという記録が古い文献にあります。もし今も此処にいるなら、彼奴らが管理している可能性が高い」


「ドワーフか」


ドワーフ・・・初めて見るから少し楽しみかも。


「ラズロイ先生もこの道を使ったかもしれない。先生なら古い地図の存在を知っていてもおかしくはない」


「行こう」


ヴァルドが立ち上がり、全員が頷いた。










「レティちゃん、なんかワクワクした顔してるけど・・・」


「してない。」


「・・・本当は楽しみなんじゃ・・・」


「違う。」


「そう・・・なのね。」








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