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出張任務の準備

今思ったけど、過去篇じゃなくてヴァルドとの戦闘をメインで書く篇を先に出しとけば良かった・・・

「出張任務?どういうこと?授業は?」


「詳しくは教室で話すらしいから早く来いって」


それだけ言って、エルンストはまた厨房の方へ消えた。飯を取りに行ったのか、それとも別の用があるのか、判然としない。彼奴の行動の理由を読もうとするのは、大抵無駄に終わる。


「出張任務か・・・」


「何するんだろうね?クロカワは何か分かる?」


「さあ」


「レティちゃん、何か聞いてる?」


「何も」


「そっか~」


セレナがスープをすすりながら、ぼんやりと窓の外を見た。朝の光が食堂の窓から斜めに差し込んで、テーブルの上に細長い影を作っている。


レティシアはパンをちぎって、目玉焼きに塩を少しかけた。淡々とした作業の中で、出張任務という言葉が頭の隅に引っかかっていた。


この学校の課題は腹立たしいことに、いつも何かを隠している。昨日の迷宮虫のように、表面の難易度と実際の難易度が食い違っている。情報が少ない状態で判断させてくる。


だとすれば、今日の出張任務も何かを測るための場になるはずだ。


「レティシア」


「ヴァルド、どうした?」


「食べながら考えてるぞ」


「それの何が悪いの?」


「悪くはないが、顔に出てる」


「そう?」


「難しい顔をしてる。どうせ今日の任務のことだろ?」


「そうだよ。」


ヴァルドがパンを口に入れながら、少し間を置いた。


「俺は、行ってみれば分かると思ってる」


「事前に考えておく方が無駄が減る」


「そうだな。でも、情報がない段階では考えても答えは出ないぞ」


「・・・そうかもね」


「今は食え。考えるのは情報が出てからでいいから」


「そうする」


しばらくして、エルンストがパンの籠を持って戻ってきた。テーブルの真ん中に置いて、また厨房に消えていった。


「エルンストは一体何やってんのよ・・・いつもの光景だけど」


「セレナ、エルンストは何考えているか分からないから、考えない方がいいと思うぜ?」


「そうだね・・・」


そうこうしているうちに、奥からティオとルグが食堂にやって来た。ティオは相変わらず綺麗に髪が整えられているが、ルグはいつも以上に髪がぼさぼさだった。


「おはよう」


「ぉはようございます・・・」


二人のおはようの挨拶を聞くと、レティシアは心配そうにルグに聞いた。


「ルグ、昨日の怪我であまり寝れてないでしょ?」


「そうですね・・・」


「今日の出張任務、無理しなくていいよ。先生に言えば休ませてもらえると思うよ?」


「大丈夫です。動けないわけじゃないので」


ルグは静かに微笑んで、トレイを持って席についた。


この人は、いつも静かに全部飲み込んでしまう。昨日エルンストの実験体にされた翌朝でも、顔色一つ変えずに席に着く。それが強さなのか、あるいは別の何かなのかは、まだ分からない。

ただ、ルグが「大丈夫」と言う時は本当に大丈夫な場合と、そうでない場合の両方がある。どちらか判断できないのが、今の私の限界だ。


「相変わらずルグはちゃんとしているな」


そんな会話を続けていると、レティシアが食器を置いて、手を合わせた。朝食を食べ終えた所だ。


「ご馳走様。」


「レティちゃん早いね」


「昨日は迷宮虫の報告書を書きそびれたから、それを教室で書いとこうと思って」


「私も手伝ってもいい?てゆうか、本来は私も書かないといけないけど」


「いいよ、セレナ。食べ終わったら、教室におるから」


「わかった〜」


そう言い残し、レティシアは食器をトレイに乗せて返却し、報告書を取りにいくために自分の部屋へ戻って行った。





午前7時頃。

教室の扉を開けると、そこには担任が既に立っていた。レティシアは担任に事情を説明してから、自分の部屋にあった報告書を書き始めた。セレナがこの教室に来たのはそれから10分後だった。


フィンペル王国のバルガファルイス養成学校の担任、『ラズロイ』は、いつも表情というものが読み取りにくい人間だ。機嫌がいいのか悪いのか、楽しんでいるのか退屈しているのか。今日もそれは変わらず、椅子の背もたれに片手を乗せて、七人が揃うのを静かに待っていた。


てか、ラズロイって僧侶のくせして重度の酒カスなんだよな・・・

いつも、授業中に酒を飲んで酔っ払ってる。教師として失格なんだよ、この人。のにも拘らず、授業は分かりやすい。この学校は生徒も先生もなにか、おかしい奴しかいない。


でも、今日は珍しく酒を飲んでいない。飲んでいないどころか、教卓に酒瓶を一つも置いていない。てことは、相当重要な任務なんだろうか。例えば王様の護衛とか、そのレベルの。




二人が無心で報告書を書いてしばらくたった。時折、セレナが迷宮虫についての質問をしてきたり、ラズロイ先生が間違った所を指摘してくれたりと、色々あったが今日中に何とか終わらすことができた。出張任務の時にセレナと一緒に提出すればいっか。


そんなことを考えていると、ヴァルド、エルンスト、ルグ、ティオ、クロカワの順番で男子が教室に入って来た。これで七人・・・クラスメイトが全員揃った。


全員揃ったのをラズロイ先生は確認した後、突如防音結界を教室に張った。結界を張ったってことは外部には知られてはいけない内容なのか?


「では、始める」


ラズロイ先生は教卓の前に立って、七人を見渡した。


「今日の出張任務について説明する。場所はフィンペル王国の東端、リューラ街道沿いの集落、リカノ村だ。三日前から村との連絡が完全に途絶えている」


「連絡が途絶えた原因は分かっているのか?」


「分かっていない。だから調査に行く」


「ただの調査だけか?」


「現地の状況によっては討伐、あるいは救護活動も含む。判断は現場でお前たちに委ねる」


ヴァルドが腕を組みながらラズロイ先生に質問した。


「今回は先生も来るんですか?」


「本来はこっちの仕事なんだが、さらに重要な任務が入ってな。仕方がなく君たちに回ったってことだ」


「つまり、七人だけで、か」


ヴァルドが、少し考えこむと同時にエルンストがラズロイ先生に質問をし始めた。


「てゆうか、先生の重要な任務ってなんだ?」


「エルンスト、詳しくは答えられないが・・・まあ、簡単に言うと、もしこの任務が失敗したら三世界が崩壊するかもしれない」


「「「「「「は?」」」」」」


七人の声が完璧に揃った。


「三世界が崩壊する?」


「まあ、そうだな」


「まあ、って言ったよ今・・・」


セレナが呆然と呟いた。その顔には笑みもなく、ただ純粋な困惑だけが浮かんでいた。


「先生、それ、どれくらい本気で言ってるんですか?」


「100%本気だ」


ルグが静かに目を細めた。

この話を聞いたレティシアはラズロイ先生に質問した。


「もし、三世界が壊れたらどうなりますか?」


「私の知る限り、空に天国の都市が落ちてきたり、地上に地獄の建物が出現したり、悪魔と天使が同時に現れ、戦争が始まる」


「それって、三回目の聖獄干渉大戦?だとしたら、世界の半分が更地になるかもね」


「聖獄干渉大戦ならまだいい。聖獄干渉大戦は地上界の世界各地に二世界の裂け目から、天使や悪魔が少しづつ現れて、戦うって感じだ。だが、三世界の崩壊はそれが起こった瞬間、そこらじゅうに天使と悪魔が現れ、戦いが始まる。後はわかるだろ?」


「・・・」


全員が黙り込んだ。静かになった教室に、ラズロイ先生が防音魔法で教室内を包み込んでいるためか、いつも以上に静寂を貫いて行くように感じた。


この一言で、皆、理解した。だが、そこらじゅうに天使や悪魔が戦った後のある地上界の姿はどんな酷い世界なのかを、皆は想像できなかった。


「それじゃあ、私はもう行くから」


そう言い残し、ラズロイ先生は駆け足で教室を出て行った。


そこから彼等が行動を開始し始めたのは約5分後だった。エルンストが椅子から立ち上がり、教卓の方に移動した。その後、黒板にあるチョークを手に持って、横楕円を書いてその上に『必要な物』と書いた。


「とりあえず、必要な物を書いていくか。何か出張任務で必要な物はあるか?」


「食料。三日分は欲しい」


ヴァルドが即座に答えた。それを聞くと、エルンストが黒板に『食料(三日分)』と書いた。


「私、水の生成魔法が使えるから、水は問題ないよ」


セレナがそう言うと、ルグが静かに手を挙げた。


「包帯と、止血の魔道具。あと、解毒薬を念のため」


「解毒薬か。魔物かどうかも分からない現状、それは正解だな」


エルンストが書き留めながら続けた。


「俺は魔法の素材を少し多めに持っていく。現地で何が必要になるか分からないからさ」


「弓の予備は?」


レティシアがそう聞くと、クロカワが口を開いた。


「僕は普段の装備で問題ない。ただ、別の遠距離用の武器を足そうかな」


「私も基本は問題ない。ただ・・・ロープが要る。救護活動が絡むなら、逃げ場を作る場面が出るかもしれない」


「確かに。追加で縄梯子もあれば尚いいかもね」


セレナがそう言い、エルンストが『ロープ・縄梯子』を書き足した。


「あと、地図だ。リカノ村の周辺地形が分かるものを」


ヴァルドがそう言うと、ティオが頷いた。


「学校の資料室に地方地図があるはずだ。俺が取りに行く」


「頼む」


ティオは静かに席を立ち、教室を出て行った。


黒板の楕円の中は、短い時間でそれなりに埋まっていた。エルンストがチョークを置き、腕を組んで黒板を眺めた。


「まとめると、食料、医療品、魔法素材、予備の武器、ロープ、縄梯子、地図。他は?」


しばらく、誰も声を上げなかった。


「・・・一つ、聞いていいか」


ルグが静かに口を開いた。


「連絡が途絶えているのが三日前から、だったな」


「そう」


「三日間、完全に音沙汰なしということは、村の外に出た人間が一人もいないか、あるいは出ようとした者が出られなかった、かのどちらかだ。後者だとすれば、村の周囲に何らかの封鎖がある可能性がある」


「迷界虫の迷宮化みたいな?」


セレナがそう聞くと、ルグは少し考えてから首を横に振った。


「迷界虫は建物単体に住み着く。村全体規模でそれをやろうとすれば、相当大型の個体か、複数の群体か。どちらにせよ、昨日レティシアたちが相手にしたものとは規模が違ってくる」


レティシアはルグの言葉を聞きながら、内心少し驚いていた。ルグは話さないように見えて、必要な場面では的確に状況を整理する。昨日の夜、食堂でほとんど喋らなかった人間と同一人物とは思えない。

この七人は、こういう場になると少し顔が変わる。それが分かってきたのも、ここ最近のことだ。


「魔物じゃない可能性も十分あると思う。ヴァルドも言っていたけど、人間が絡む場合は対処の仕方が変わる。私とセレナちゃんで、現地での情報収集と交渉の方針を考えておく。ヴァルドとティオは戦闘対応に集中して」


「分かった」


「了解」


「エルンスト、ルグ、クロカワは現場の状況に応じて臨機応変に頼む。特にエルンスト、村人に負傷者が出ていた場合の対応を考えておいて」


「分かった」


エルンストはそれだけ答えた。余計なことは言わない、それがいつも通りのエルンストだった。


「・・・一つだけ」


クロカワが手を上げた。


「何?」


「三世界の崩壊とリカノ村の件、関係あると思う?」


教室が、また静かになった。

誰も即座に答えなかった。ラズロイ先生は「さらに重要な任務が入った」と言って去った。その重要な任務と、三世界崩壊の話と、リカノ村への出張任務が同じ日に重なったのは、果たして偶然なのか。


クロカワの発言は、いつも少し読めない方向から来る。だが今回は、誰もが薄々感じていたことを、ただ正直に口にしただけだった。こういう場では、それが一番正直な問いになる。


「・・・分からない。ただ、もしそうなら、私たちの動き方も変わってくる。現地で何を見るか、しっかり覚えておく必要がある」


「証拠の確保か」


「そう。何かおかしなものを見たら、なるべく原形のまま残す。壊さない、触らない、消さない。それだけは全員に徹底してほしい」


「了解」


全員の声は揃わなかったが、誰も否定しなかった。

その時、教室の扉が開いてティオが戻ってきた。手には折り畳まれた地図が数枚あった。


「リカノ村周辺のものと、リューラ街道全域のものがあった。使えそうなのを持ってきた」


「ありがとう。エルンスト、それも追加して」


「ん」


黒板の楕円に『地図(複数)』が書き足された。

エルンストがチョークを置いて、七人を見渡した。


「準備は各自昼前に終わらせる。昼食を食って、正門前に集合。それでいいな」


返答はバラバラだったが、意味は同じだった。それぞれが席を立ち、準備のために動き出し始めた。


レティシアは最後に黒板を一度だけ見た。楕円の中に並んだ必要なものの一覧の確認を行うために。どれも実用的で、感情的な言葉は一つもない。

それでも、ここにいる七人が、同じ考えを持ったことだけは確かだった。


入学した時は、七人それぞれが孤立した個として存在していた。それが今は、非常時に黙って役割を分担できるようになっている。言葉は少なくていい。動けば分かる。それが少しずつ、当たり前になってきている。


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