↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/122

バトルロイヤル(2)

七人、あと二人減れば終わる。単純な数字だ。


其の上で、七人の内訳を見る。魔法を主体に戦うエルナとケルビは、接近戦での対応力が読みにくい。距離を詰められれば脆いはずだ。そして、レヴァルト。此処まで生き残ってはいるが、其れはアルフォンスの後ろにいたからこそで、単独での地力は此の七人の中で最も低い。


狙うなら其の三人だ。


視線を軽く動かすと、アリアとクラウスの目にも、同じ答えが浮かんでいるのが分かった。アルフォンスも、槍を握り直しながら、口の端を僅かに上げている。


考えることは同じらしい。


だが、リュートは其れと同時に、別のことも考えていた。


必要なのは、たった二人の脱落だ。四人がかりで三人を狩る必要すらない。誰か一人が、二人分の脱落を確保した瞬間、其の場で終わる。


つまり、此処で本当に警戒すべきは、エルナたちではない。


此の中で、誰が一番先に、誰を狙うか。


四人で足並みを揃えて弱い三人を潰す、という流れは綺麗過ぎる。全員が同じ結論に達しているということは、全員が同じ隙にも気づいているということだ。混戦の最中に、味方のふりをした一撃が飛んでくる可能性は十分にある。


二人減れば終わる。其の二人が誰であるかは、決まっていない。ならば、誰かが弱い三人を狩っている隙に、其の誰かごと落としてしまえば、実質的に二人分を一気に確保したことになる。労力としては、そちらの方が効率がいい。


リュートは、其の視線が自分に集まりやすいことにも、気づいていた。


アリアとクラウスとアルフォンス。三人とも、此の七人の中でリュートを最も警戒している。


表情には出していないが、間合いの取り方に其れが滲んでいた。自分に近づく時だけ、僅かに慎重になる。歩幅が半分ほど短くなり、視線が一瞬だけ長く留まる。


俺を先に落とせば話が早いと思ってるんだろうな。


其れも、合理的な判断だ。責める気はない。此の状況で自分が同じ立場なら、同じ結論になる。


体育館の空気が、開始の合図と同時に張り詰めた。先程までの三十人規模の乱戦とは、質が違う。数が減った分、一手一手の重みが増している。


槍を構えたアルフォンスが、真っ先に動いた。狙いはエルナだった。長柄の分だけ間合いが広い。粗く見えて、実際の踏み込みは無駄がなかった。


「悪ぃな、真っ先に落とさせてもらう」


「っ・・・防御優先で──」


エルナが短く呟き、詠唱を短縮する構えを見せた。慌ててはいるが、判断は速い。


アリアが同時に、逆側からケルビへと踏み込む。剣先が低い位置から跳ね上がる、独特の初動だった。ケルビは既にそれを読んでいたのか、半歩下がりながら防御用の障壁を展開している。


クラウスは動かず、其の場で静かに剣を構えたまま、周囲全体を見ていた。誰かに向かって動くのではなく、全体の流れを見てから最後に動くつもりらしい。此の人は、そういうやり方をする。


リュートも、レヴァルトへ向けて一歩を踏み出した。


だが、其の一歩は、正面には向けなかった。


三人のうち誰かが、此の混戦に乗じて自分の背後を取りに来る。其れを前提に、退路と死角を同時に潰せる位置を選ぶ。真っ直ぐレヴァルトへ向かえば、其の瞬間、背中が最も無防備になる。遠回りでも、其れを避ける方が結果として早い。


視界の端で、クラウスの重心が僅かに変わるのが見えた。動いていないようで、既に踏み込みの体重移動が始まっている。狙いはまだ読めない。


来るか。


リュートは剣を握り直しながら、静かに息を吐いた。開始の合図と同時に、三つの戦いがほぼ同時に動き出した。


アルフォンスの槍が、エルナへと伸びた。


「詠唱は間に合わせろよ、こっちは待たねぇぞ?」


「分かって、ます・・・っ」


エルナは短縮詠唱で防御膜を張ろうとした。座標計算を得意とする其の頭の速さで、通常より短い詠唱句で組み上げようとする。悪くない判断だった。だが、相手が悪かった。


アルフォンスの槍は、見た目の粗さに反して、間合いの読みが正確だった。踏み込みの速度を一定に保ったまま、穂先だけを僅かに伸ばす。詠唱の完成まで、あと一拍。其の一拍が、埋まらなかった。


槍の穂先が、防御膜が完成する寸前の空白を正確に突いた。長柄武器特有の間合いの長さが、詠唱の隙をそのまま刈り取っていく。


「きゃ・・・」


弾かれるように後方へ吹き飛び、エルナはそのまま尻もちをついた。判定用の結界が淡く光る。


「エルナ、失格」


ルグの声が短く響いた。


「く・・・」


悔しそうにしながらも、エルナは列の外へと下がっていく。座り込んだまま、悔しそうに拳を握っている姿が見えた。数字は動いた。残り六人。


視界の端で、アルフォンスが軽く肩を回しながら、次の相手を探すように周囲を見渡していた。だが、其の視線がリュートに向くことはなかった。恐らく、彼もまた、必要なのは残り一人分の脱落だと分かっている。無理に自分へ挑む理由はない。


同じ頃、アリアの剣がケルビへと迫っていた。


低い姿勢から跳ね上がる、独特の初動。ケルビは半歩下がりながら、防御用の障壁を素早く展開する。剣先が障壁に弾かれ、甲高い音が響いた。


「・・・思ったより、硬いですね」


アリアが小さく呟いた。ケルビの障壁は、見た目以上に粘りがある。連続で攻めれば、突破は出来る。だが、其の分、時間がかかる。ケルビの戦い方は、リュートも見学の時から知っていた。派手さはないが、一つ一つの判断に迷いがない。防御を固めて相手の消耗を待つ、地味だが堅実なやり方だ。


アリアは二撃目、三撃目と、角度を変えながら畳みかけていく。障壁の強度が、僅かずつ削れていくのが分かった。だが、ケルビも其れに合わせて防御の位置を微調整し、簡単には崩れない。


其の均衡を、クラウスが見逃さなかった。


障壁がアリアの一撃を受け止めた直後、僅かに強度が落ちる瞬間がある。魔力を使う障壁には、必ず其の癖が出る。展開し直すための、僅かな空白。クラウスは其れを、初めから静かに観察していた。誰かが動くのを待ち、其の隙だけを拾いに行く。此の人らしい戦い方だった。


「失礼します」


静かな声と共に、クラウスの剣がアリアの攻撃とは別の角度から差し込まれた。障壁の再展開が間に合わない、其の一点を正確に突いた一撃だった。


「っ・・・!」


ケルビの体勢が崩れる。踏みとどまろうとしたが、二方向からの連携を防ぐ余力は残っていなかった。膝が折れ、判定の光が灯る。


「ケルビ、失格」


「・・・すみません、僕の障壁、まだ甘かったみたいです」


小さく苦笑しながら、ケルビも列の外へ下がっていった。アリアが、少し呆れたような顔でクラウスを見た。


「今の、私が崩したところに乗ってきましたよね?」


「其の通りです。効率的でしょう」


「悪びれませんね、其れ」


「褒め言葉として受け取っておきます」


「これが、次期王子候補の戦い方ですか・・・」


軽いやり取りをしている間にも、状況は動いている。


五人。


其の瞬間、リュートは頭の中で数字が切り替わるのを感じた。エルナとケルビ、二人の脱落。其れで、条件は満たされている。


視線を上げると、レヴァルトが数歩先で剣を構えたまま、こちらを見ていた。硬い表情だった。此処までの流れを見ていれば、次に狙われるのが自分だと分かっている。逃げ場を探すように、僅かに足が動いていた。


リュートは、其のまま距離を詰めることも出来た。まだ判定は下りていない。数字の上では条件を満たしていても、ルグが宣言するまでは、戦闘は続いている。


一歩、踏み出す。


レヴァルトが、剣を両手で握り直した。逃げ切れないと悟ったのか、其の場で構えを固める方を選んだらしい。無駄な足掻きはしない、という判断は、悪くなかった。


だが、リュートの意識は、レヴァルト一人には向いていなかった。


もう一歩踏み込めば、間合いに入る。其の瞬間、背後か側面から、アリアかクラウスかアルフォンスの誰かが動く可能性がある。数字の上では既に条件を満たしている以上、今から動く理由は薄いはずだが、隙が生まれる一瞬を見逃すような三人でもない。


もう一歩、慎重に。


其の判断をする前に。


「そこまでです」


ルグの声が、体育館全体に響いた。


「エルナさん、ケルビさんの脱落により、残りが五人になりました。此処で終了とします」


動きが止まった。レヴァルトが、詰めていた息をゆっくりと吐き出すのが見えた。あからさまに安堵した表情だった。


「・・・生き残った」


小さな声だったが、静かな体育館の中では、はっきり聞こえた。リュートは剣を下げながら、内心で小さく笑った。


間に合わなかったな・・・俺の方は。


追い詰める前に、決着がついた。悪い結果ではない。無理に距離を詰めていれば、其の隙を、アリアかクラウスかアルフォンスに突かれていた可能性もある。此処で終わったことで、其の懸念も同時に消えた。


「では、改めて発表します」


ルグが、五人を順に見渡した。


「リュートさん、アリアさん、クラウスさん、アルフォンスさん、レヴァルトさん。此の五名を、本クラスの模試戦闘大会代表とします」


体育館に、静かなどよめきが広がった。見学していた生徒たちの間からも、拍手のような音がまばらに起こる。


「お疲れ様でした」


其の一言で、緊張が緩んだ。


アルフォンスが槍を担ぎながら、レヴァルトの方へ歩み寄った。


「意外だな、よく粘ったな、お前」


「・・・正直生きた心地がしませんでした」


「生き残った奴が勝ちだ」


豪快に笑うアルフォンスの横で、アリアが小さく息をついていた。


「思ったより、消耗しましたね」


「クラウスの横取り、地味に効いてたな」


リュートがそう言うと、クラウスは表情を変えずに剣を仕舞った。


「横取りとは、人聞きが悪いですね。隙を見て動いただけです」


「其れを此の場では横取りって言うんだよ。」


軽口を交わしながらも、リュートの意識の片隅には、先程までの緊張が、まだ僅かに残っていた。三人とも、隙があれば自分を狙うつもりだった。其の事実は、後でゆっくり考えればいい。


体育館の窓から差し込む光が、少しだけ角度を変えていた。二時間目も、もう終わりに近い。


リュートは剣をアイテムボックスに戻しながら、残る四人の顔を、順に見渡した。


「では、教室に戻ってください。2時間目は通常通り行います」


ルグの一言で、見学していた生徒たちも含めて、皆が体育館の出口へと動き出した。教室に戻ると、脱落した生徒たちが口々に感想を言い合っていた。アランが真っ先に駆け寄ってくる。


「見てたぞ、最後の方。エルナとケルビ、あっさりやられてたな」


「二人とも判断は悪くなかった。相性が悪かっただけだな」


「そうなんか? 俺なんて、名前呼ばれる前に転がされとったからな」


自嘲気味に笑うアランの横で、エルナが少し肩を落として席に着いた。


「悔しいです、正直」


小さく唇を噛みながら、エルナが呟いた。負けたことよりも、其の理由が分かっている分、余計に悔しいのだろう。


「其れは大会本番で返せばいいだろ?」


「・・・出れないんですけどね、私。嫌味ですか?」


「見ておいて、参考にすればいいだろ。次の機会が絶対に無いとは限らないし」


リュートがそう言うと、エルナは少し驚いたような顔をしてから、小さく頷いた。


「・・・そうですね。見て、覚えます」


教壇に戻ったルグが、黒板の端に五人の名前を書き記した。


「今回の件で、選考基準について生徒会から質問が来ると思います。其の対応は私が行いますので、皆さんは気にせず、通常の授業に集中してください」


「気にせずって言われても、気になるもんは気になるだろ」


アランが小さくぼやいたが、ルグは特に取り合わなかった。


「なお、代表となった五名には、放課後に個別の指導時間を設けます。大会までの日程は追って連絡します」


「・・・放課後もですか」


クラウスが、僅かに眉を寄せた。


「不服ですか?」


「いえ。予定を調整するだけです」


「賢明です」


淡々としたやり取りに、教室の中から小さな笑いが漏れた。緊張していた空気が、少しずつ普段の温度に戻っていく。


リュートは自分の席に着きながら、先程までの緊張を、頭の中で改めて整理した。


三人とも、隙があれば俺を狙うつもりだった。


其れは、間違いなく本当だった。今回はエルナとケルビの脱落が先に決まったことで、其の場面は訪れなかっただけだ。次に同じ状況になった時、同じように済むとは限らない。


大会本番では、此の五人が、更に別のクラスの代表たちと戦うことになる。今日の均衡が、其のままの形で続くとは思えなかった。味方でいられる時間は、恐らく短い。


窓の外では、1時間目の終わりを告げる鐘が鳴り始めていた。


リュートは、机の上に置いた教科書へ視線を落としながら、其れでも意識のどこかで、模試戦闘大会までの残り時間を数え続けていた。


今日決まったのは、あくまで此のクラスの代表という枠に過ぎない。本番では、此処にいる誰よりも強い相手と当たることになるだろう。其の時になって、初めて分かることも多いはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。