リタイヤとは
再び、UTMBの舞台へ。もちろん今年の目標も表彰台。
”今年こそは”
その思いを胸にこの日までトレーニングを積んだ。しかし、結果は初のDNF。完走すらできなかった。
前年に続き悪天候。今回はスタート時間が大きく遅れ、深夜のスタート。最初の夜から睡魔に襲われ、登りがまっすぐ登れない。力が入らない。
大苦戦の中、120㎞シャンペまでなんとか進むも、途中で意味の分からない情報に心がざわつく。
”170㎞になったらしい”
最初は無視していたがどうやら本当らしい。前年は、雨で中止、翌日再レース。今年は走っている最中に距離が伸びるなんて。
やっぱりウルトラはウルトラ。なんでもあり。
しかし、序盤から眠気でペースが上がらなかったこともあり、2晩目を迎えることに大きな拒絶感が伴う。
”2晩目を迎えたくない、もう寝たい・・・”
こうなると辞める理由を探す自分の心が暴走。辞められればなんでもいい。
”もうやだ、走りたくない”
そんな心の声が一歩一歩、大きくなる。途中、少女が差し出す水に
”メルシー(ありがとう)”
と答え、飲み干し、再び走り出す。間もなく、冷たい水に胃腸が拒絶反応を示したのか、それとも、僕の走りたくないという信号が体中に発信されたからか、激しい悪寒に襲われ、突如全く動けなくなる。コース上なのかどうなのかもわからない。少し広場でうずくまる。どれくらい時間が経ったのか、気を失っていたのか。
気が付くと、サポートクルー、フリー編集者山本さんが目の前に立っていた。
”すいません”
ここでリタイヤとなった。山本さんは、あの時、僕を見つけられたのは奇跡だったと後に語っている。
UTMB初のリタイヤ。人生通じてもレースを途中リタイヤは記憶にない。
リタイヤした直後は、正直、
”これで今日はベットで寝れる”
という安堵感。しかし、翌朝、普通に階段を降りることができる、余力が残る自分の体に、最低最悪の気分が湧き上がる。一種の後悔。次年まで決して晴らすことができない感情。
自分からレースをリタイヤする悪を、知った。
以降、思い通りに走れないレースでも必ず己に問うようになる。
”明日の朝、最悪の気分で迎えたいのか”
と。




